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ALPINA: The Promise of Twilight  作者: 小深田 とわ
第3章:Mixture of Souls
324/511

第324話:余波と衝撃

「ルルシエ……無事か……?」


 それでも、如何どうにかセナは自身の影に対して無理矢理に言葉を発する。本当はこんな事をして体力を消耗するのは以てのほかだが、しかしそんな事情を差し置いてでもこれだけは譲れなかった。自身の影に潜んで共に戦ってくれている同胞に対して、そんな軽率な態度を向ける事だけは如何どうしても出来無かった。


「うん……影に入ってたから如何どうにか……それでも、余波を受けちゃったから全くの無事って訳じゃ無いけど……セナは大丈夫?」


「辛うじてな……残った魔力で無理矢理魂を肉体に縛り付けてはいるが……果たして何時いつまで持つか……」


 クソッ、とセナは舌打ちを零しつつ、残存する魔力で如何どうにか肉体を再生させようと藻掻く。しかし、悪魔としての本能として常時肉体保護と身体機能向上の為に身体へ纏わせていた魔力が全て先程の聖弾で霧散した上に、魂を肉体に結びつける為に大半の魔力を動員しなければならなかった。その為、そんな事をしている余裕が殆ど無かった。

 だからこそ、肉体の再生が驚く程遅々としてしまっていた。それこそ、ミミズが這う様な遅速でしか進まずもどかしさに悶えてしまう程だった。しかし、どれだけ悶えようとも魔力量が劇的に改善する訳でも無い為に、如何どうしようも無かった。

 一方、彼の影に入るルルシエはと言うと、彼女は彼女でそれなりに苦戦させられていた。と言うのも、確かに彼女はその言葉通りセナの影に潜む事で如何どうにかレムリエルの聖弾の直撃を免れていた。しかし、余りにも強過ぎる余波が、次元の壁を突破して影に潜むルルシエにすら影響を及ぼしていたのだ。

 それでも一応、直撃を免れているだけセナよりは軽傷に留まっている。だが、彼女は齢僅か10,000歳の新生悪魔でしかない。人間的価値観ではたかが10,000年でさえも途方の無い時の流れに感じるかもしれないが、神の子の歴史は数十億年を超える。あのクィクィですら、仮に人間の寿命を80年と仮定すれば8歳後半相当でしか無いのだ。ルルシエ如きなど赤子と呼ぶのも烏滸おこがましい胎児未満でしか無いだろう。

 だからこそ、ルルシエはそれ相応の重傷を負っていた。それこそ、影から飛び出て代わりに戦ってやろうなどと言う威勢の良いセリフを吐いている余裕など無いくらいの重傷だった。確かに、セナの様に魂を肉体に紐付けて生を手繰り寄せたりはしていないが、しかし真面に動く事すら難しい程度には重傷だった。

 いや、確かにそれは神龍大戦と言う過激な時代を経験していないからこその甘えかも知れない。この程度の傷、当時の悲惨さを知る者からすれば如何どうと言う事は無いかも知れない。それでも、ルルシエとしては難しかった。勿論、それが大戦を知らない者の驕りだという事は痛い程自覚している。しかし、それを抜きにしてもどの道レムリエルには天地が逆転しても敵わないのだから変わらない話でしか無かった。

 だからこそ、ルルシエは影の中でセナの視界を勝手に共有しつつそこに自分の魔眼を重ねる事で瓦礫の外の様子を確認して深い呼吸を零す。こんな自分でも出来る事は無いかを必死こいて探す様に、あるいは今や我が事の様に大切なアルバートの無事を確認する様に、彼女は魔眼を凝らす。

 しかし、彼女やセナに課せられたのはレムリエルの相手をする事。それ以外にすべき事は端から存在していなかった。

 唯一出来る事があるとすればアルバートをレムリエルから守る事——この際人間達の安否を気にしている余地など無い——程度だが、しかしルルシエ-アルバート間の実力差など、レムリエルからすれば誤差にも満たない。

 確かに、アルバートは聖獣や魔物にどれだけ囲まれようとも容易に突破出来る程度の力はあるが、しかし言い換えればその程度でしかない。逸脱者第二段階である英雄程度では新生神の子にすら及ばないのだ。第三段階である勇者の領域に至り、その上で悪魔公アルピナと皇龍ジルニアの力を振るうクオンの様に上位天使にも追い縋る事が出来る様な力を持っている訳では無い。

 また、更に付け加えて現実を知らしめるとしたら、幾ら穏健派とはいえ純粋な上位階級の天使であるレムリエルを前にしてみればそれさえも誤差程度でしかないのだ。あるいは誤差という表現すら誇張過ぎるかもしれない程には根本的な格差と言うのが存在するのだ。

 その為、アルバートの傍に行きたい気持ちを如何どうにか堪えて、ルルシエはセナの治療に当たる。自分の魂をセナの魂と接続し、魔力を譲渡する。自分の肉体や魂に受けた損傷など気に留める事無く、彼女はセナの治療に当たるのだ。と言うのも、この状況を打破出来るのは現状彼だけなのだ。アルピナ達がバルエル達の相手に掛かりっきりになっている今、彼が最後の希望だった。

 しかし同時に、ルルシエの心には少々燻る思いがある。確かにバルエルは智天使級天使としてレムリエル以上の脅威。それどころか、仮に彼女と同一階級であるイルシアエルとテルナエルがいて、つ彼女ら三柱さんにんだけ天魔の理を無視したとしても、天魔の理を順守している状態の穏健派であるバルエル一柱ひとりにすら敵わない程度には隔絶された実力の開きがある。

 それでも、態々《わざわざ》草創の108柱()つ公爵級悪魔兼悪魔公であるアルピナを筆頭に、同じく草創の108柱であり侯爵級悪魔兼悪魔公代理スクーデリア及び侯爵級悪魔クィクィ並びに悪魔公と皇龍の力を継ぐ人間クオンが一緒になって戦う必要があるのか、という疑問が浮かんでしまう。

 取り分け、アルピナとスクーデリアの二柱ふたりに至っては同じく草創の108柱()つ熾天使級天使兼天使長セツナエルを除く全天使を相性の差を無視してあしらえるだけの力を持っているし、クィクィだって座天使級天使以下なら相性差を無視して勝てるだけの力を持っているのだ。

 果たして、今更一致団結する必要が何処どこにあるというのだろうか。し仮に仲良し子好しで一致団結しているのなら何度シバき回しても文句は言われないだろう。レムリエルの何でもない一撃で壊滅した今、そう思っても仕方無い様な現状だった。

 しかし、彼女達は知らなかった。そんな憂いを吹き飛ばせる程の助っ人が直ぐ側(まで)近付いていたのだ。果たしてそれは何なのか、実はレムリエルも気付いていない。それは別に、聖眼並びに魔眼乃至(ないし)龍眼に魂が映らない様に秘匿術などで細工をしている訳では無い。単純に予想外過ぎて認識の外に位置していただけに過ぎない。

 それ程(まで)に、それは予想外だった。アルピナ達からしてみれば何故なぜ予想していなかったのか疑問に思う程だが、事実としてそうなのだ。言い逃れする積もりは毛頭無かった。あるいは、それを含めてアルピナとスクーデリアの予想通りなのかも知れないが、少なくともレムリエルの虚を突いている事は確実だった。

 しかし、そんな未来など知る由も無く、ルルシエはセナに対して魔力を注ぎ続ける。少しでも動ける様になれば仮令たとえレムリエルに敵わなくても逃げる事だって出来るし、仮令たとえ敵わなくてもアルバートを逃がすだけの時間稼ぎだって出来るのだ。

 それを体現するかの様に、ルルシエは慌てていた。それこそ、真面な思考回路すら真面に維持出来無い程には慌てふためいていた。事実、そんな事をしなくてもルルシエが精神感応テレぱしーをアルピナ達に繋げば良い話なのだ。それに思い至らない程に、ルルシエは如何どうしようも無いくらいには狼狽していた。

 また、それはアルバートとしても同様だった。レインザード攻防戦では魔物との茶番かアルピナ達との茶番しか経験していなかった為、純粋な殺意を伴う神の子の力を目の当たりにするのは初めてだったのだ。だからこそ、座天使級天使のしかも自分以外に対して向けられた手加減満載の力を前に、必要以上に恐怖していた。

次回、第325話は8/18公開予定です。

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