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ALPINA: The Promise of Twilight  作者: 小深田 とわ
第3章:Mixture of Souls
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第319話:龍装②

 一方、そんな彼女らに対してクオンだけは何が何やらさっぱりと言った具合に力の出所を凝視する。現状彼だけが有している龍魔眼を凝らし、ヒトの子としての視座では見通せない真相を掴み取ろうと躍起になる。

 しかし、何の知識も経験も無いクオンでは如何どう頑張っても真相を掴む事は出来無い。そもそもとしてこの力の持ち主が誰かすら知らないのだ。一応それが悪魔の魔力と龍の龍脈だという事だけは分かるのだが、しかし言ってしまえばその程度でしかないのだ。言い換えるなら、それ以上の情報が何一つとして入手出来無かったのだ。


「一体如何(どう)いう事だ?」


 クオンは誰か特定個体に限定する訳でも無く尋ねる。アルピナでもスクーデリアでもバルエルでも他の天使でも構わなかった。誰か知っている者がいるのなら教えて欲しかった。それに、アルピナ達なら何だかんだ言って教えてくれそうだし、バルエルも話が通じない訳では無い。その為、場合によっては何か言ってくれるかも知れないのだ。聞く価値はあるだろう、


如何どうやら、クィクィ達が上手くやってくれた様だ。じきに合流するだろう。ワタシの口から聞くよりも直接見て確かめた方が——」


 そう言い掛けたタイミングで、突如として地面が激しく揺れる。それこそ、空間そのものが激しく揺さ振られているかの様で、空中にいる筈なのに何故かその揺れを知覚出来てしまう。と言っても、その揺れに身体の制御を奪われたのはクオンや極少数だけ含まれている新生天使程度なもので、神龍大戦を経験した事のある神の子達は揃って何事も無く振る舞っていた。

 その態度振る舞いは、何方どちらかと言えばこの揺れや魔力と龍脈の放出に対して懐かしさを感じているかの様。即ち、この揺れの正体や魔力と龍脈の綯交の真相を全て知っているからこそ取る事が出来る態度振る舞いだった。

 そして、その揺れと共に突如として彼彼女らの真下に広がる地面が崩落する。地盤沈下と言うよりは、爆発の衝撃で消し飛ばされたかの様な光景であり、周囲一帯の地形が大きく変わってしまっていた。それこそ、平和になったら改めて地図を描き直さなければならない程には大きく大地が抉られてしまっていた。


「やれやれ。随分と派手な登場だな、ヴェネーノ」


 舞い上がる土煙に向かってアルピナは溜息を吐き零しつつ小さく呟く。その声は絶対に届いていないだろうが、しかし明確な返答が欲しかった訳では無い。詰まる所単なる独り言でしか無かった為、別に如何どうでも良い。それどころか、そんな事は如何どうでも良いくらいには嬉しさが込み上げていたのだ。

 やがて、徐々に晴れ上がる土煙の中から一柱ひとりの青年が飛び上がってくる。その顔立ちや体格はヴェネーノそのものであり、決して間違え様が無いと断言出来る。アルピナにとっては10,000年前の神龍大戦終結以来の再会だが、それは胸を張って言える事。

 しかし、一際目を引くのがその服装と魂から放出される力。先ず服装に関しては、如何どう見ても普通の衣服では無い。そもそも、神の子が着用している衣服は基本的に自身の聖力乃至(ないし)魔力で創造したものか人間社会で購入したもの。何方どちらを選ぶにせよ大体皆普段着を着用しているし、人間の兵士が着ている様な防具は余程の事が無い限り着ようとしない傾向がある。

 だが、現在ヴェネーノが着用しているものは、正しく防具そのものである。関節可動部以外を龍の様な黒鉄くろがね色の鎧で覆い、所々に琥珀色の差し色を入れる事でちょっとしたアクセントと高級感を演出している。それは、つい先程(まで)岩窟内で着ていた普段着とはまるで異なる仕様だった。その手には一振りの長剣が握られており、形状はアルピナが保管しているヴァ―ナードの龍剣やクオンが持つジルニアの遺剣を彷彿とさせる。

 また、その魂に関しても普通では無かった。確かに聖眼や魔眼及び龍魔眼に映る波長は完全にヴェネーノのもの。しかし、その波長の中に極自然な形でシンクレアの魂が溶け込んでいる。それこそ、まるで初めからそうだったかの様な自然さであり、知らない者なら気付かなくても不思議では無い程だった。

 加えて、そこから放出される力もまた特別。ヴェネーノが持つ彼固有の魔力でも無ければ、シンクレアが持つ彼固有の龍脈でも無い。その二つが混ざり合う事で新たな一つの力となり、彼の魂から放出されていた。

 それはヴェネーノとシンクレアによる龍魔力。つまり、クオンが現在魂の中で強引に練り上げているそれと全く同じもの。それどころか、借り物の魔力と残滓の龍脈を掛け合わせた紛い物とは訳が違う、本当の意味での龍魔力だった。

 その力は、単純な魔力と龍脈の足し算で導き出せるものでは無い。それとは比較にならない様な強大な力が渦巻いている。それこそ、悪魔公の魔力と皇龍の龍脈とを綯交させる事で得られているクオンの龍魔力にも匹敵する様な強大な力だった。

 即ち、龍装とは悪魔と龍の一時的()つ完全な融合の事。天羽の楔や契約を介した紐帯だったり、他の手段を用いた強引な支配ともまた異なる、互いが真に認め合っているからこそ成し得る御業。決して、双方の心身及び魂に一切の危害を加える事の無い、力と力の相乗効果だった。

 だからこそ、観測されるその力を前にしてクオンは何も言う事は出来無かった。ただ茫然とその力の派生元である龍装ヴェネーノを凝視する事しか出来無かった。ただでさえヴェネーノやシンクレアの事を一切認識していないのだ。当然の反応だった。

 その上、龍装などという新たな力(まで)提示されたのだ。もはや訳が分からないというのが正確だろう。幾ら、龍魂の欠片の土台を受け継いでいる上にアルピナ達から異様な程大切にされている特殊な立場だとはいえども、基本的にはただの人間でしか無いのだ。致し方無かった。


「あーあ、解放されちゃったかー」


 何処どこか残念そうに、しかしそこまで深く気に留めていない様なあっけらかんとした態度振る舞いで、バルエルは口を開く。まるでこうなる事が初めから分かっていたかの様でもあり、あるいはこうなっても別に構わない様にしていただけの様にも見える。果たしてその何方どちらが真相なのかは彼の態度振る舞いを見る限りでは判別出来そうに無いが、しかし何方どちらでも特に問題は無さそうだった。

 対して、そんな彼とつい今(まで)戦っていたアルピナは、そんな彼の態度を嘲笑する様な笑みを零す。まるでそれをただの言い訳でしかないと断じているかの様な態度であり、普段の彼女らしさが存分に滲出している様だった。


「ほぅ、随分と諦めが良いな、バルエル。それとも、何か秘策があるとでも言いたいのか?」


「まさか。クィクィちゃんなら解除出来無いと思って放置してたから、完全な予想外さ。それに、悔んだ所で過去が変わる訳でも無いしね」


 でも、とバルエルは、龍装を組む事でシンクレアと一心同体に成ったヴェネーノの方へ身体を向ける。口では諦めが付いた様な事を言っているにも関わらず、しかし金色に輝く聖眼からは諦観の様子を窺えない。それどころか、更なるやる気と覚悟が漲っている様な素振りすら窺える始末だった。


「このまま引き下がる訳にもいかないからね。悪いけど、もう一度支配させてもらうよ」


「何を言っている? ワタシが素直にそれを許す筈が無いだろう。ましてやこの距離。君の命程度、刹那程の時間もあれば容易に刈り取れる」


 しかし、とアルピナは微笑む。小さく息を吐き零しつつ全身の力を抜くと、その姿形に相応しい少女的な微笑みを零す。あるいは、その背後には彼女を悪魔足らしめる冷徹で傲慢な嘲笑が透けているのかも知れない。

次回、第320話は8/13公開予定です。

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