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ALPINA: The Promise of Twilight  作者: 小深田 とわ
第3章:Mixture of Souls
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第314話:龍爆砲と魔法子弾

 事実、クィクィが地界でこの翼を顕現させたのは神龍大戦時以来。その当時も、今回と同じ様に止むに止まれぬ事情があって仕方無しに晒す羽目になっただけ。決して、必要性も無い場面で能動的に行った訳では無い。

 その為、クィクィ自身もこれは仕方無い事だとして割り切る。個人的にもこうして翼を晒すのは嫌なのだが、しかしそんな個人的事情で少年やシンクレアに不可逆的な損害を与えてしまっては元も子も無い。それが連続的に龍魂の欠片を巡る一連の出来事全体に悪作用を齎す可能性だってあり得るのだ。決して、個人的事情を持ち出すべきでは無かった。

 そうして翼を伸ばしたクィクィは、解放した魔力を用いて更に加速する。天魔の理で定められた上限を遥かに超越する魔力量は当然の事(なが)ら飛行速度にも優位に作用する為、簡単に距離を縮められるのだ。

 その速度は少年の眼には映らない程の超速。まるで瞬間移動したのではないかと錯覚してしまう程の神業的手法は、彼女が理外の理に立つ存在である事を教えてくれる。決して人間如きでは到達する事の出来無い領域が事実として存在する事を突き付けられたのだった。

 そして、そのままシンクレアの鼻先に余裕を以て追い付いたクィクィは、彼と少年の間に浮かぶ。対して、龍法を放とうと口腔内を琥珀色に輝かせて吠えるシンクレアは、そんな事などまるでお構い無しな覚悟のまま一切減速する事無く突撃する。


〈龍爆砲〉


「ホントつまんないよね、キミ。いい加減終わりにしよっか?」


 炎爆する砲撃を口腔内に溜め込むシンクレアは、そのままクィクィと少年を纏めて葬り去ろうと狙いを定める。理性を奪われて野性的本能が前面に押し出されているにも関わらず正確な龍法を構築出来る辺り、如何どうやら最低限の機能だけは残されている様子。

 もっとも、そんな事はクィクィにとって如何どうでも良い事でしかない。欠片程度の理性が残っていようが全く以て失われていようが、彼が暴れている事実は変わらない。変わらないからこそ、彼女が採るべき選択も変わらなかった。

 彼女は突撃してくるシンクレアの鼻先を片手で抑え込むと、そのまま強引に口を閉じさせる。確かに龍のあぎとはその見た目通り強靭な咬合力を有しているが、しかしクィクィもまたその見た目に反して単純に力比べなら龍にも匹敵出来る。

 だからこそ、仮令たとえ彼女が年端もいかない10代前半の人間の少女の様にしか見えなくても、たった片腕一本でシンクレアの動きは止まる。その小さな指でシッカリと口先は握り締められ、押しても引いても開けても閉じても一切動く気配は無かった。

 そしてクィクィは、シンクレアを掴んだままその巨体を地面に投げ付ける。まるで巨大な爆弾が地面に着弾したかの様な衝撃を放ちつつ、シンクレアの黒鉄色の身体は土埃と岩瓦礫に飲み込まれる様に倒れ込むのだった。


〈魔法子弾〉


 それに続く様に、彼女は指を銃の形にしてその土埃の中に魔弾を打ち込む。その魔弾はアルピナが使用している〈魔弾射手〉とは名称が異なるだけの同じ性質を持った魔法であり、弾は彼女の魔力のみで形成されている。

 だからこそ、悪魔に対して相性上不利な龍にとってはかなりの痛手と成り得るものであり、同レベルの天使以上にダメージを負ってしまう事は確実。何より、単純に体格が大きい事から適当に打ち込んでもまず外れる事は無い。

 その為、土埃の中に適当に打ち込まれた彼女の魔弾が彼女の視界から消えて大きな爆発を起こすと同時に、シンクレアの悲鳴とも叫声とも取れる咆哮が反響する。さながら死を覚悟したかの様なそれは、空気では無く空間そのものを震わせている様であり、天井や壁を構築している岩瓦礫が更に崩れ落ちる。

 やれやれ、とクィクィは付着した埃を払う様に手を叩きつつ、地面に向けてゆっくりと降下する。背中から伸びていた二対四枚の悪魔的翼は既に体内にしまわれており、何処どこから如何どう見てもただの人間の少女の様にしか見えなかった。光球から溢れる淡い光に金色の魔眼を輝かせつつ、細く長く纏めた緋黄色のアンダーポニーテールを揺らす。


「あんまり手間掛けさせないでよね? まぁボクは優しいから、キミの事は殺さないでおくけどさ」


 それより、と彼女は、自身の背後で背中を丸めて身を護る少年を一瞥する。それは、シンクレアに対して向ける冷めた瞳とはまた異なる純粋な優しさと明るさによって構築されており、彼女の持ち前の天真爛漫さや明朗快活さが一層強く浮き出ているものだった。


「大丈夫? 怪我は無い?」


「はい、僕は大丈夫です。それよりクィクィさんこそ……」


 大丈夫ですか?、と少年は聞こうとしたものの、しかし上手く言葉が出なかった。純粋な人間如きが崇高な悪魔を気遣うのは何とも烏滸がましいというか、あるいは如何どう見てもその心配が無い事が分かり切っているというか、そんな感じだった。上手く言葉では言い表せないが、いずれにせよ言葉に詰まってしまった。

 一方、そんな彼の意思を汲み取ったのか、クィクィは彼に対して柔らに微笑む。心を読めば彼が本当に言おうとしていた事くらいはぐに理解出来た。だからこそ、決して不快感など抱いていなかったし、むしろ単純に嬉しかった。


「うんっ、ボクは大丈夫だよ。それよりほら、早くこっちにおいでよ。出番だよ!」


 少年の周囲を覆っていた魔法の障壁を解除しつつ、クィクィは彼を手招きで呼び寄せる。だ完璧な安全が確保された訳では無いが、しかし此処ここから先にはこの少年の力が必要なのだ。それも、彼の理性の奥底に眠る奇妙な意志が必要だったのだ。

 だからこそ、彼女は多少のリスクを冒してでも少年を自身のぐ脇に迄連れて来る。何時いつでも彼を護れる様に最大限の警戒心を宿したまま眼前の土埃の先で倒れ込んでいるシンクレアを見据える。魔眼のお陰で状況は丸わかりだからこその対応だった。


「えっと……僕は何をすれば……?」


「んっとねぇ、今からキミにも手伝ってもらおうと思って。キミのその失われた記憶がすっごい重要になって来るから」


 そういうと、クィクィは小さく息を吐いて改めて自身の心に冷静さを纏わせる。魔法技術も魔法操作もあまり得意では無い自分では少々荷が重く、如何どうしても緊張感が高まってしまう。これがスクーデリアならもっと容易なのだろうが、しかしこうなってしまったものは仕方無い。

 だからこそ、クィクィは改めてやる気と覚悟を漲らせる様に魔眼を輝かせる。そして、片腕をおもむろに振り被る事で魔力の風を発生させると、眼前で依然舞い上がっている土埃を払う。それにより、投げ飛ばされた衝撃と魔弾の爆発で弱り切りグッタリとしていたシンクレアが姿を現した。

 如何どうやら、意識は依然として残っている様子。やはり龍なだけあってその体格に相応しいだけの体力と頑丈さを有している様だった。同世代の他の悪魔や天使と比較してやや体格や体力面で劣るクィクィからしてみれば羨ましい限りだ。

 そんな事を考えつつ、クィクィは少年の手を引いてシンクレアの腹側に回る。鋭利な爪や太い四肢のぐ側と言う事もあって危険な香りしかしないが、しかし龍の身体の大半は強靭な鱗で覆われている事から、如何どうしても柔らかい腹側に回らざるを得なかった。これから天羽の楔やらなんやらの兼ね合いで体内にある魂を弄らなければならないのだから、こればっかりは如何どうしようも無かった。

 さて、とクィクィは改めて小さく息を吐くと、自身の魂から魔力を産出させる。そして、黄昏色に輝くオーラを上肢全体に纏わせる。それは他者に害を成す攻撃性のある魔力では無く、一切の殺気を持たない優しいもの。つまり、神の子の復活の理やヒトの子の転生の理の管理といった、とどの詰まり魂に触れる際に用いる魔力だった。

次回、第315話は8/81公開予定です

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