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ALPINA: The Promise of Twilight  作者: 小深田 とわ
第3章:Mixture of Souls
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第308話:最奥部に向けて

 しかし、それはそれでありこれはこれである。対立している事実と魂の管理業務は、如何いかなる事情があっても切り離して考えなければならない原則が存在するのだ。それは、神龍大戦末期から終戦後暫くの期間に亘って余りにも悪魔の数が少な過ぎた為に、一部の世界を除く大半の世界にける転生の理を一時的に停止してその全てを天使による輪廻の理に一任していた事からも明白な事。

 だからこそ、ルルシエはレムリエルのそんな態度に惑わされる事無く毅然とした態度で立ち向かう。協力して聖獣の魂を神界アーラム・アル・イラーヒーに送りつつ、しかし同時に二柱ふたりの魔法と聖剣が交差する。相反する感情によって生み落とされた奇妙な光景が、ベリーズの一角で眩く輝くのだった。

 その後も、レムリエル対セナ及びルルシエの戦いは、人間的な領域から踏み出した驚異的な迫力を散らす。そのお陰もあって、最低限人間である事をアピールするかの様に地上に限定されたその戦いは、しかし気休めにも成らない有様だった。

 尚、これはあくまでもセナが人間である事を保証する為に課せられた制限措置。人間である事を保証する必要性の無いレムレイルにとっては、態々《わざわざ》彼に合わせて戦いの場を地上に限定される必要は無いのだ。

 それこそ、適当に空中にでも浮かんでセナの手が届かない領域から聖法を雨の様に降らせるだけで良いのだ。幾ら穏健派で戦闘行為が苦手とは言っても、一応は座天使級天使。年齢相応の聖力はあるし、経験も豊富なのだ。それに、あくまでも戦いに特化した技術が不得手なだけであって非戦闘方面に関する聖法に至ってはかなり得意な方。その経験と技術を駆使すれば、よっぽど小難しい技でも無い限り大体の聖法は行使出来る。それこそ、セナとルルシエを纏めて殺す程度の事なんて訳無いのだ。

 だが、レムリエルは敢えてセナに課せられた制限措置に則って戦ってあげる。それは、決して上位者としての余裕によって生まれた慢心では無い。あくまでも、彼女なりの優しさである。それに、あまりにも早く決着を付けてしまったらまたバルエル達対アルピナ達の戦場に連れ戻されてしまう。過激で苛烈な戦いが余り好きでは無い身の上として、この程度のゆったりとした戦いの方が性に合っているのだ。

 勿論、表立ってそれを公言する事は無い。別に公言した所で何らかの処罰がある訳でも無いし、各個の性格による得手不得手を貶す程彼女は神の子として低能ノータリンでは無い。それでも、全体の士気に直結しかねないという可能性に起因する彼女なりの配慮だった。もっとも、言わなくとも皆気付いている事なのだが。

 兎も角そういう訳で、天使対悪魔の戦いは厳重に巡らせた人間的欺瞞の影に隠れながら行われていた。しかし、人間と言う体裁に隠された神龍大戦以来の確執によって生じる鍔迫り合いは、最早人間という殻に隠し切れない程に際限無く増加していく。

 そしてレムリエルもセナもルルシエも、其々《それぞれ》が其々《それぞれ》の信念と覚悟を胸に聖法と魔法と聖剣と魔剣を交差させていく。傍目から見たら綺麗な花火かと錯覚してしまいそうなその光景は、しかしヒトの子如きでは近寄る事すら出来無い濃厚な殺気となって花開いていた。




【同刻 ベリーズ近郊:驪龍の岩窟内部】



 陰鬱とした暗黒が果てし無く続いている岩場を、水面から齎される翠玉色エメラルドグリーンの反射光が淡く照らす。同時に、今(まさ)にでも死角から何らかの幽霊が美味しい悲鳴を求めて顔を覗かせて来そうな空気が滑り、季節感にそぐわない冷涼感を齎してくれる。

 しかし、そんな空気に混ざる様に運ばれてくるのは、さながら猛獣の雄叫びを彷彿とさせる様な龍脈。か細くありながらも獰猛さと凶暴さを見失っていないその力は、岩窟の内部を歩き進むクィクィと少年の肌を静かに刺激している。

 彼女らは、潮汐力によって上下しつつ流れ込む翠玉色エメラルドグリーンの海面の脇をすり抜ける様に、岩窟内の岩場道を進む。跳んだり潜ったりしつつ、足を滑らせたり躓いたりしない様に地道に進んでいく。しかし、クィクィは兎も角として少年の心身が純粋な人間と言う事もあり、如何どうしても移動には重たい制限が課せられてしまっていた。それは視力や瞬発力と言ったヒトの子特有の貧弱な身体機能による問題だった。

 尚、それならクィクィが彼を抱えて進めば良いのではないか、とも思うかもしれないが、生憎そうも言っていられなかった。クィクィ自身、最初はそうしようと思っていた。しかし、流石の彼女とはいえどもそう上手くはいかなかったのが現実だ。

 というのも、幾ら彼女とはいえども少年を抱えたままこの岩窟内を移動するのは流石に厳しかったのだ。そもそもとして、この明かり一つ無い岩窟内にける視界は彼女に一切影響を及ぼしていない。神の子である以上視力には恵まれているし、何より内奥から漂う龍脈の流れが内部構造を教えてくれていた。

 そして、レムリエルでは体格上難しかった岩窟内での飛行や素早い移動も、小柄なクィクィなら可能。勿論、岩窟外や魔界の空を自由に飛び回る様な気楽さは感じられ無いが、しかし大した苦労もまた同様に強いられない。

 しかし、余りにも小柄過ぎる彼女では、少年を抱えながらそんなに気軽に飛び回るのは単純に難しいのだ。屋外をただ直線的に飛行する分には訳無いのだが、こういう狭い場所を繊細な機動で飛び回る場合はそうも言っていられなかったのだ。

 もっとも、一応は魔力操作乃至(ないし)魔法によって彼の身体を浮かせて運べばそれで済む話でもある。それなら彼女の体格はしたる問題足りえないし、技術的にも出来無い事は無い。精密操作は単純に面倒臭い為に余りやりたくは無いが、必要が必要である限りにいてそれを無視する程彼女は低能ノータリンでは無かった。

 それでも、此処ここに来た目的は彼の意思であり彼の目的なのだ。それ故、先へ進むのは明確な彼の力と意思が必須。契約も結んでいない人間如きに大いなる力を貸してあげられる程彼女は優しくはないし、悪魔全体の総意でもあるのだ。もっとも、本来ならこの程度の協力すら契約を結んでいない限りは差し出す事は無いのだが、今回に関しては理由が理由なだけに特別なのだ。この先に待ち受けている真相の為にも、この程度の先行投資は惜しむべきでは無かった。

 だからこそ、クィクィは必要最低限の——手を貸したり明かりを魔法の灯りを用意したりなど——サポートだけを行いつつ、それ以外にいては少年一人の力だけで進ませていた。勿論、危険が訪れた時は優先的に排除するし、そもそもとして訪れない様に事前に排除もするし、空間に零れている龍脈から心身を保護して上げてもいる。

 そして、少年もまたそれを認識しているのかクィクィの力を極力借りない様に努めていた。勿論、子供でしかない上にそもそもとしてただの人間でしかない事から、如何どうしても難しい場面は必然的に多くなってしまった。それでも、決して音を上げる事無く最後(まで)決して諦めず食らい付く事で、クィクィと共に岩窟の最奥部を目指すのだった。

 やがて、クィクィと少年は遂に岩窟の最奥部と思しき場所(まで)到達する。一体果たしてどのくらい時間が経ったのかは定かではないし単純に如何どうでも良かったが、しかし十数分から数十分といった所だろう。神の子なので体内時計は非常に正確だが、態々《わざわざ》確認する必要性が感じなかったのでクィクィは適当にその思考を捨てるのだった。

 そしてクィクィは、細く長いアンダーポニーテールに纏めた緋黄色の髪を靡かせながら、直ぐ脇に立つ少年をチラリと一瞥する。外見年齢的には何方どちらも十代前半の子供。まるで全く似ていない姉弟の様にも見えるが、しかし片や悪魔であり片や人間である。決して同列に並べて良い存在ではなかった。

次回、第309話は8/2公開予定です。

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