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ALPINA: The Promise of Twilight  作者: 小深田 とわ
第3章:Mixture of Souls
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第304話:采配ミス

 近場の天使達と激闘を繰り広げつつ周囲を見渡し、クオンは二柱ふたりにそう尋ねた。龍魔眼が真面に機能しない為に敵の力量が測れない上に単純に格の違い大き過ぎるものの、しかし龍の力と言う優位性を引っ張り出す事で如何どうにか渡り歩いていた。そのお陰もあって余り大きな余裕が無い為に見逃しているだけかも知れないが、龍魔眼が真面に機能していない以上一定の正当性は確保されているだろう。

 そして、そんな言葉を受けてアルピナとスクーデリアは天使達をあしらいつつそこに加わるバルエルの相手をしながら改めて周囲を見渡す。確かにレムリエルの姿が見えない事は気付いていたが、魔眼が機能しない現状で無理して探しても如何どうしようも無い事は分かり切っていた為に敢えて放置していたのだ。

 それでも、尋ねられたからには対応しない訳にもいかず、彼女らは改めてレムリエルの姿を目視で探す。やがて、確かにレムリエルの姿が見えない事に気付くが、それでも決して焦る事無く彼女らはただ溜息を零すだけだった。そして、やれやれ、とばかりにクオンに対して言葉を返す。


『いや、生憎とワタシ達も気にしていなかったからな。まぁ大方、セナ達の相手をしに向かったのだろう』


『そうね。人間を相手にした所で大して面白くは無いでしょうけど、姿を見られている以上は多少なりとも牽制しておかないと面倒だもの。それに、あの子は人間好きで私と同じ穏健派。恐らくバルエルの命令でしょうけど、あの子からしてみれば好都合でしょうね』


 仕方無いわね、とスクーデリアはアルピナと同じ様に慈愛の心を内包する微笑みを浮かべる。同時に、狼の様な妖艶さを持つ金色の魔眼が美麗に輝く事で、その背後に隠された氷の女王の様な冷徹な感情が零れ出る。

 それでも、どれだけそれに不平不満を抱いた所で状況が変わる訳でも無い事から、二柱ふたりは気持ちを切り替える。そして、仮に予想通りならそのレムリエルの襲撃を受けているであろうセナとアルバートとルルシエに対して一方的な期待を抱くのだった。


『そうか。それじゃあまぁ、俺達は俺達でこの天使達の相手をすれば良いって事だな』


 成る程、とばかりにクオンは遺剣を握り締めてやる気を漲らせる。遺剣から逆流させた龍脈を魂の内部で魔力と混ぜ合わせる事で龍魔力と成し、それを改めて全身及び遺剣へと還元する事で天使達を威圧する。

 それは、天使達にとって相性上不利となる龍の力に由来される躊躇。取り分け龍の中でも最上位に君臨する皇龍の力という事もあり、幾ら残滓程度とはいえ警戒せずにはいられなかった。事実、一介の人間如きでは天地が逆転しても到底真面に相手が務まらない程の圧倒的上位者である智天使級天使バルエルですら、他の天使達と同様にその龍魔力に対して若干の怯みを見せていた。


「ほぅ。智天使ともあろう君が随分と及び腰になっている様だな、バルエル?」


「幾ら君達の助けがあったとはいっても、シャルとルシー相手に真面に戦い抜いたみたいだからね。流石に、そんな力を前にして警戒しない訳にはいかないでしょ?」


 アルピナからの挑発に対して一切感情を揺さ振られる事無く、バルエルはそれをサラリと受け流す様に言葉を返す。それは完全な彼の本心から生まれた言葉であり、一切の嘘偽りは存在しない。見栄を張っている訳でも無ければ言い訳がましく逃避している訳でも無い。クオンの力を正確に見極めているからこその思いだった。

 だからこそ、バルエルはクオンと一対一で剣を交える事を極力避ける様に戦況を組み立てていく。幾ら自身が智天使でありクオンがただの人間とはいえども、シャルエルやルシエルの二の舞になる事だけは避け戦った。なまじ自身がそこまで武闘派では無い事からも、シャルエルの様に真っ向から挑む様なマネは出来無かった。

 しかし、クオンを避けるという事はアルピナかスクーデリアと戦うという事でもある。生憎アルピナ及びスクーデリアとは、種族的相性の面では優位に立てているものの年齢的な実力差では負けている。それも、バルエルは神界アーラム・アル・イラーヒーの生命の樹で生まれた一般的な旧時代の神の子であるのに対して、二柱ふたりエロヒムの手によって直接創造された草創の108柱である。逆立ちしても決して敵わない根本的な開きが存在しているのだ。

 その上、彼女らと多少なりとも真面に戦えそうなレムリエルを人間達への牽制に派遣してしまった。確かに向こうには同じく旧時代の神の子であるセナがいるし、スクーデリアと契約を結んだ英雄がいる。それを考えればそれ相応の実力を兼ね備えた者を向かわせるのは間違いでは無いし、その方が指揮系統的にも動かし易い。

 それでも、レムリエルを向かわせるのは過剰戦力が過ぎるというもの。確かにスクーデリアと契約を結んだ英雄も二柱ふたりの悪魔も厄介だが、その中で天使と真面に戦えるのはセナのみ。そして肝心のセナも、第二次神龍大戦以降は死亡期間として神界アーラム・アル・イラーヒーに帰還しつい最近復活したばかり。その上、階級も伯爵級悪魔であり天使でいう所の力天使級と同格。それが死亡期間を挟んで実力を低下させているのだ。一度も死亡していない相性上有利なレムリエル相手に、如何どう頑張っても真面に相手が務まる筈が無いのだ。

 しかし、向かわせてしまったものは仕方無い。それに、下手に実力を甘く見積もって此方こちらの戦力をいたずらに消費してしまうのも単純に勿体無い。悪魔程では無いとはいえ、天使もそれなりに数が不足しているのだ。それだったら、多少過剰と言われようとも確実()つ安全な手段を以て相手をするのが吉だろう。

 だからこそ、バルエルは自身の采配ミスを帳消しに出来る様に自身の心を奮い立たせる。そして、完璧な魂の秘匿が出来ているという絶対的な有利性を最大限活かす様に、大勢の部下を率いて二柱ふたりの悪魔と一人の人間を相手に果敢に攻め掛かるのだった。



 一方、ベリーズへと帰還するレムリエルは背後で間断無く轟く戦いの衝撃波に対して安堵の溜息を零す。別に彼彼女ら同胞たる天使達を見捨てる訳では無いが、それでもこうして少し離れた安全な地にいられるだけで何とも言えない安心感が齎されるのだ。

 しかし勿論、レムリエルだって自分のすべき事を忘れた訳では無い。バルエルからの命令に従い、セナ達が余計な介入をしない様に牽制しておかなければならないのだ。生憎、それを忘れる程耄碌した覚えは無かった。

 しかし、確かに人間達はそもそもとしてお話にならないくらい如何どうでも良い存在でしか無いし、それはスクーデリアと契約を結んでいるアルバートも同様。ルルシエだって新生悪魔でしかない以上無視出来る程に弱いし、唯一警戒すべきセナだって彼女の5%程しか生きていない若輩者。その上生まれて以降の期間の内の極僅かとはいえ死亡期間を挟んでいる。それにより相応の実力低下を招いているのだ。

 果たして何処どこに警戒すべき要素があるというのだろうか。これならだ比較的歳が近いクィクィ——と言っても5,000,000年以上離れているが——を止める為に驪龍の岩窟へ突入した方がマシだろう。あんな陰鬱とした小汚い場所なんかに入りたくは無いが、目的遂行の為ならそれを厭う程彼女は愚かでは無いし自己中心的な性格はしていなかった。

 それでも、こうしてセナ達への牽制業務を請け負ってしまった以上、それをする事に躊躇ためらいは無い。それにきっと、向こうは向こうでバルエルが相応の対処をしてくれているだろう。太古の時代から付き従っている上司への信頼を胸に、レムリエルはベリーズへ降り立つのだった。


「さて、セナ君達は何処にいるかな?」

次回、第305話は7/29公開予定です。

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