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ALPINA: The Promise of Twilight  作者: 小深田 とわ
第3章:Mixture of Souls
301/511

第301話レインザード攻防戦の再来

 しかしたら、彼彼女らの中では既に戦いが始まっているのかも知れない。一見してただ見つめ合っている様に見えるそれも、思考の内奥では無限に亘る戦いの手数が試行されているのかも知れない。神の子としての超常的技量が織り成す、まさに奇跡と呼べる光景だった。

 やがて、遂に天使と悪魔による何度目かも分からない激突の火蓋が落とされる。聖力と魔力を乱暴()つ凶暴に振り乱し、聖剣と魔剣が火花を散らし、聖法と魔法が連続的な爆発を引き起こす事で、そこは地界でありながら地界とは思えない光景が広がっていた。それにより、最早地界の住民たるヒトの子では如何どう頑張っても収拾の付けようが無い程の超常的な力が入り乱れる事となってしまっていた。

 その光景は、人間の視点から見れば正しくレインザード攻防戦の再来とでも呼ぶべき光景。人間如きの力では到底介入する事のあたわない様な超常の力が引き荒び、少しばかり離れたベリーズからでも容易に観測し得る程。直接的な被害はいまだ被っていないにも関わらず、民草はちょっとしたパニック状態に陥ってしまっていた。

 しかし、神の子としての視点から見ればそれはまた異なった印象として映る。そもそも、レインザード攻防戦の大多数は人間と魔物による抗争であって、神の子同士の争いは殆ど行われていなかった。それこそ、精々がアルピナ、クィクィ、ルシエルによるものであり、そこにヒトの子であるクオンが加わった程度。あるいは、スクーデリア達対イルシアエル及びテルナエルによるものでしかなかった。

 それに対して現状は如何どうであろうか? 数十を超す天使達が大挙を成して聖力を迸らせ、上位階級の悪魔達もまたそれに対抗し得るだけの力を放出させている。加えてクオンもまた使いこなせるようになった龍魔力を惜しみ無く解放し、少年を護る様に遺剣を振るっている。

 つまり、単純に今回の方が規模も程度も大きいのだ。それこそ、たかが茶番の小競り合い程度のレインザード攻防戦と同じにする事の方が烏滸おこがましい、と怒られても文句は言えない程に、その差は歴然としている。

 それでも、そんな事などまるでお構いなし、とばかりに神の子達は力を振るい続けている。暁闇色と黄昏色が交差し、そこへ金色の眼光が鋭利に穿つ事で、花火など目では無い様な煌びやかな現象を辺り一面に撒き散らしていた。

 だが、そうやって規模と威力が拡大するに従ってその戦いは神の子独自の領域へと昇華されていく。つまり、たかが一介のヒトの子でしかないクオンでは安易に近付けない状態へとなってしまっていたのだ。それも、契約などのお陰で悪魔公の魔力と皇龍の龍脈を得た彼であっても、という但し書きが付属した上での事だ。その為、何の力も記憶も無い少年ではそれ以上の厳しさに直面してしまっていた。


「クソッ……流石に厳しいな……」


 黄昏色と琥珀色が綯交された光を纏う龍剣を握り締めながら、クオンは玉の汗を流して吐き零す。比較的安全な岩場に少年を降ろした上で如何どうにか彼を護る様にして戦っているが、しかし幾ら彼とは雖も天使達を相手に余裕綽々とまでは言えなかった。

 というのも、確かにクオンは人間としては逸脱者の第三段階に当たる勇者の領域にまで登り詰めている。これは現在アルバートが踏み込んでいる英雄の領域よりも一つ上の領域であり、その実力は人間レベルを大きく超えて神の子の領域に片足を踏み込み始めつつある程でもある。

 その上で、契約により魔力を授かり、遺剣により龍脈を纏っているのだ。そして幾度と無く神の子達と戦い続け、隙間時間を使ってアルピナ達と稽古()みた事(まで)行っているのだ。そのレベルは最早人間としての常識では想像する事すら出来ない程度に迄高められている。

 それでも、だからと言ってそう簡単に事が運ぶ筈も無いのが現実。確かに、今や上位階級の天使とも辛うじてなら渡り合える程度には戦えるようになっている。しかし、これまでクオンが戦ってきた上位三隊の天使はシャルエル、ルシエル、レムリエル、イルシアエルのみ。その内シャルエルはアルピナとの共闘であり大半はアルピナが戦っていた為に除外するとして、残りの三柱さんにんは何れも性格上あまり好戦的では無いのだ。

 一応イルシアエルが辛うじて武闘派よりではあるが、しかし過去の大半の期間を死亡期間にてていた事もあってかなりの弱体化を余儀無くされている。それに、ルシエルは町全体を天羽の楔で支配下に置いている状態だった事もあって、相応のハンデを背負っていた。その為、万全()つ自身の力だけで戦った上位三隊の天使はレムリエルだけなのだ。

 しかも、レムリエルは天使の中でも指折りの穏健派。年齢が土台する圧倒的な実力のみで優位に立っているだけで戦闘センスはゼロに等しい。つまり、幾ら上位三隊の天使と戦えていると一括りに言っても、実際の所はそうでも無かったりするのだ。

 だからこそ、今こうして相手にしている天使達が中位三隊に属する者達ばかりだとは言っても、だからと言って余裕だとは言い切れなかったのだ。それに、単純に数的不利の差が多過ぎるし、何より少年を常に気に掛けなければならない。その為、如何どうしても必然的な不利状況に立たされざるを得なかったのだ。

 それでも、だからと言ってそう簡単に諦める訳にはいかない。アルピナとの契約により、クオンはアルピナの為に奉仕しなければならないのだ。それに、天使は彼の師匠を殺害した間接的な犯人でもあるのだ。その為、この程度の所で足踏みをしている暇なんて何処どこにも無いのが現実なのだ。

 だが、気持ちで腹を満たせる程状況は甘くない。根本的な生物としての格の違いの上に数的な面でも圧倒的な不利をいられ、更には子供を一人護りながらの戦いを強いられているのだ。如何どう頑張っても不可能の領域から脱する事は出来無いのだ。


「あの、クオンさん。こんな時に言うのもなんですが、僕をあの岩窟の中に連れて行ってくれませんか? あそこに行けば、何か分かる様な気がして……」


 この状況下でこんな事を言っていられる訳が無いのは重々承知しているが、しかし少年はそれを求めた。あそこにさえ行ければ何か分かる様な気がするし、何より、それによりこの状況が打開出来そうな気もするのだ。何の根拠も無い妄想に近しい戯言でしか無いが、しかし確信にも近い自信が彼の心を後押ししていたのだ。


「……そうしてあげたいのは山々なんだが、生憎そうも言っていられなくてな……」


 如何どうしたものか、とクオンは小さく悪態付きながら舌打ちを零す。如何どうしようも無い現状に対する苦痛と苛立ちが魂を抉り、発散出来無い憤懣が戦いに対する気概を阻害する。辛うじてだ頑張れているが、しかしその心は最早平常とは言い難い状態へと陥っていた。

 だからこそ、彼は希望を託す様に悪魔達へ精神感応テレパシーを繋ぐ。別に彼女らに助力を乞う事に対して何ら恥ずかしさも躊躇いも無いし、自分一人で藻掻くよりはよっぽど効果的()つ確実だ。それは、これまでの経験から嫌と言う程実感しているし、何よりこれからも幾度と無く実感する事になるだろうという確信もまた同様に抱いていた。


『アルピナ、スクーデリア、クィクィ。悪いが、誰か手を貸してくれないか?』


『あぁ、良いだろう。粗方、その少年を驪龍の岩窟の奥へと連れて行けば良いのだろう? ならばクィクィ、君に委ねよう。ワタシやスクーデリアが行くよりも、君の方がこの際適任だろうからな』


 金色の魔眼でクオンと少年の状況を読み取りつつ、アルピナは気楽そうに笑う。無数に攻め掛かる天使達をまるで羽虫の羽を毟るかの様に蹂躙する様は非常に冷酷()つ傲慢であり、その気楽そうな印象が抱かせる可憐な少女的雰囲気との倒錯具合は恐怖すら抱かせる。

次回、第302話は7/26公開予定です。

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