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ALPINA: The Promise of Twilight  作者: 小深田 とわ
第3章:Mixture of Souls
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第290話:再びの別行動

『いや、俺も無いな。そもそも、俺の出身はこの国ですら無いし。……申し訳ありませんが、俺達人間の知識は何の役にも立ちそうに御座いません』

 深い陳謝と共に、アルバートはクオンから投げ渡されたバトンをアルピナ達に返却する。それと同時に自分達の役の立たなさに不甲斐無さを抱くが、しかし知らないものは仕方無いだろう。下手に取り繕うよりは、素直に自らの無知を申告する方がよっぽどマシだ。

 その為、アルピナもスクーデリアもクィクィもセナもルルシエも、揃って彼ら二人の答えに対して不満も失望も抱く事無くそのまま受け流す。元よりちょっとした期待程度で尋ねただけだし、仮に知っていたとしても知らなかったとしてもそれだけで取り分けて大きく状況が変わる訳でも無かったのだ。

 だからこそ、そうか、と一言だけ言い残し、アルピナは精神感応テレパシーを切断する。それは、さながら彼ら二人の返答に失望したかの様な無情さを孕む言動。しかし、だからといってクオンもアルバートも彼女の態度振る舞いに対して不満を抱く様な事は無かった。それも最早何時(いつ)もの事だな、と適当な所で見切りを付ける事で、彼女の対応を水に流すのだった。

 一方で、そんなアルピナの態度とクオン達の対応を静観していたスクーデリア達悪魔は、揃って小さく溜息を零す。相変わらず自分勝手だな、とアルピナの言動に呆れつつも、同時にクオンとアルバートの大人な対応を有り難く思うのだった。

 ……この様子だと、一体何方が上位存在なのか分からないわね。

 スクーデリアは一人心中で呟く。アルピナの言動は最早見慣れたものであり、過去数十億年に亘り一切の変化が見られていない事を知っているからこそ余計にその思いが強くなってしまう。あるいは、その頑固さこそが上位種族としての矜持なのかも知れないが、しかし何方どちらとも言えない曖昧さを感じてしまうのだった。

 クィクィもまた、階級上は自分より上位である筈のアルピナに対して微笑ましさを滲ませる相好を浮かべる。それは、さながら弟妹を可愛がる兄姉の様な包容力であり、人間でいう所の10代後半の外見を持つ小柄なアルピナよりも更に幼さの残るクィクィにはとても不釣り合いなもの。しかし、その乖離具合が却って可愛らしさを助長すると共に、アルピナに対する信頼の高さを想起させてくれる。

 そして、そんな二柱ふたりの幼馴染の生暖かい視線を背中で感じつつ、アルピナは改めてアンジェリーナに向き直る。精神感応テレパシーに要した時間は体感時間こそそこそこな時間だったが、しかし絶対的な時間は極僅か。悪魔という存在そのものがそもそもとして人間ですらない上位存在だからこそ成せる驚異的な思考速度によって行われたそれは、眼前の人間達に不信感を抱かせなかった。

 もっとも、契約によって力を授かっただけで心身はヒトの子のままでしかないクオンとアルバートにとってはそれ相応の負担——と言っても、精神感応テレパシーは初歩的な技術であり魔剣を構築したり魔法を行使する方がよっぽど負担が大きい為に実質負担は有って無い様なもの——が掛かっているのだが。

 兎も角、そんな心身的負担を魂の奥底で微かに感じつつ最早完全に心身が慣れ切ってしまった二人は、体感時間と絶対時間の乖離を正しつつ眼前の人間達に怪しまれていない事を安堵する様に深い呼吸を零す。そして、余計な口を挟まない方が下手に恨まれる事もなさそうだな、とばかりにアルピナに状況を丸投げするのだった。

「驪龍の岩窟……か。初めて聞く名称だが、しかし竜と深い関連性があるというのは興味深い。可能性の一つとして心の片隅にでも留めておくとしよう」

 それだけ言うと、アルピナはアンジェリーナとの会話を切り上げる。そしてそのまま踵を返してガリアノット達に背を向けると、一切の躊躇も無くその場を立ち去ろうとする。行くぞ、とスクーデリア達に声を掛け、最早ガリアノット達への興味関心は過去の存在へと成り下がってしまっていた。

「お、おい……」

 そんな彼女の背中を目で追いつつ、ガリアノットは一瞬の無言を挿んだ後に慌てふためきながら彼女に声を掛ける。普段の豪胆で鷹揚な態度が見る影も無いその言動は完全に虚を突かれた態度振る舞いであり、アルピナの自由奔放で傲慢な言動に完全に振り回されている事の証左でもあった。

 対してアルピナはそんな彼の言葉を背中越しに聞き、仕方無い、とでも言いたげに足を止める。もうこの場に要は無い為にさっさと移動してしまいたかったが、しかし此処ここで完全な無視を決め込む事は却って面倒が増えそうな気がしたのだ。だからこそ、アルピナはガリアノットから齎される言葉の続きを聞く前に能動的に発言する。

「悪いが、ワタシ達は君達と行動を共にする積もりは無い。何より、君達には英雄がいる。ワタシ達の力が無くとも、彼らがいればそれで十分だろう?」

 その口調と声色は、一切の反論も反駁も許さない絶対的な恐怖を植え付ける様な冷徹なもの。外見はエフェメラによく似た小柄で稚い少女でしか無いが、しかしとてもそうとは思えない強烈な覇気に包まれており、さながら国王陛下から召集を受けた時の様な緊張感を抱かせてくれる。

 故に、ガリアノットもアンジェリーナも、アルピナに対して何も言い返す事が出来無かった。ただ無言で立ち竦む事しか出来ず、あるいは他の兵士達にバレない様にするべく震える四肢を如何どうにか誤魔化そうと躍起になるだけでしか無かった。

 そしてアルピナはそれだけ言い残すと、二人からの返事を聞く前に再度動き始める。スクーデリア達を引き連れ、町としての機能を残し平和と安全を維持している場を求める様に何処どこかへと消えていくのだった。

 やがて漸く彼女らの姿が完全に見えなくなった後、ガリアノットとアンジェリーナは漸くその緊張感の鎖縛から解放される。全身の力を抜き大きく息を吐き零す事で、その恐怖と緊張感を如何どうにか捨て去ろうと頭の中を空っぽにするのだった。

 対して、アルピナ達に付いて行く事無く彼彼女らの傍に残っていたセナとアルバートは、彼彼女らとは異なり至って平然とした相好を浮かべたまま彼彼女らの事を心配そうに見つめていた。ガリアノットは、そんな英雄二人の強靭な精神力に対して乾いた笑いを浮かべる事しか出来無かった。

 そして二人は、影に潜むルルシエと共に暫くの無言を過ごす。同時に心中でアルピナ達に対して無事を祈りつつ、英雄として出来る事は何かを考えるのだった。こんな事なら今後の予定も聞いとけばよかった、と微かに後悔しつつも、しかし英雄としての職務を優先すれば余程の事が無い限り困る事は無いであろう事を祈るのだった。

 やがて、漸く心身が平静を取り戻したのか、ガリアノットは再度小さく息を零す。そして、恐らく彼女達の事を知っているであろうセナ達英雄に一縷の望みを掛ける様に、彼は二人の英雄に相対しつつ彼らに問い掛ける。

「テルクライア、キトリア。ちょっと尋ねるが、あの旅の者は一体何者なんだ? お前さんらとは顔見知りの様だったが……?」

 何かを求める様に、ガリアノットはおずおずと尋ねる。それは、何処どこか不信感を募らせつつもしかし強大な戦力を味方に引き込めなかった事を後悔する様な態度口調。正しく彼の本心そのものであり、あるいは部隊全体の総意でもある様だった。

 そんな彼の姿を見つつ、魂を見通して心を読み取った——もっとも、読み取るまでも無く相好からして明白だったが——セナ達三柱(さんにん)は彼が何を求めているのかを察する。そして、代表してセナが嘘偽りを織り交ぜた虚飾塗れのアルピナ達との関係性を二人に伝える。

次回、第291話は7/15公開予定です。

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