表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ALPINA: The Promise of Twilight  作者: 小深田 とわ
第3章:Mixture of Souls
289/511

第289話:心当たり

 そして、それはスクーデリア達も同様。そもそもとして人間では無いし、直近数千年以上はあらゆる世界を放浪しているか天羽の楔に精神を支配されているか肉体的死を迎えて復活を待っているかしていたのが大半。ルルシエを始めとする新生悪魔達だけは転生の理の管理の為に地界に降りてヒトの子の魂に触れていたが、しかしだからと言って詳細な地理的情報や人間の文化文明にまでは精通していないのだ。

 その為、ガリアノットが知らない事を彼女らが知る筈も無い。一応、知識としてこの国の地理情報は全て叩き込んでいるが、しかしあくまでも人間の文化文明上に存在する基本的情報に限られる。その程度の知識の中に天使が欲する様な情報があるとは思えなかった。

「その理由になりそうなものに一つ心当たりがあるのですが……」

 そんな折、二人の会話を遮る様に一人の女性が言葉を割り込ませた。あの、と遠慮がちに前置きした上で発言したその女性は、その声色や口調から容易に想像出来る程には小柄な体躯をしている。しかし一方で、目元の凛々しさや鋭利さはそれとは対極的なものであり、一人前の兵士として相応しいだけの覚悟と誇りが滲出していた。

 その女性の名はアンジェリーナ・マクスウェル。その姓の通りガリアノットの実の妹であり、現在は彼の副官を務めている。本当に血の繋がった兄妹なのか、と疑ってしまいたくなる程に姿形は似ておらず、幼少期よりそれは変わらないらしい。それでも、兄妹愛は疑いようも無く本物であり、周囲の者を嫉妬させる程に太い信頼の紐帯で結ばれている。

 また、見た目通り武人肌な兄ガリアノットと比較して彼女はそれなりに聡明であり、平時にいては彼の事務仕事にけるデータバンク的な立場としてその知識高さを最大限活用している。

 だからこそ、今回に至ってもその理由に心当たりを持ったのだ。勿論天使や悪魔といった神の子に関する知識は欠片たりとも有してはいないが、人間として持ちうる最大限の情報を駆使する事で彼女はそれを導き出したのだ。

「ほぅ、心当たりか。早速だが、是非とも教えてもらおうか?」

 スクーデリアが反応するより早くアルピナが声を上げる。相変わらずの傲岸不遜さをまるで隠そうとしないその態度振る舞いは、本当に見た目10代後半の可憐な少女から出ているとは思えない程に冷徹。海風に漆黒色のコートとミニスカートの裾を靡かせつつ、猫の様な蒼玉色サファイアブルーの瞳でアンジェリーナを睥睨した。

 しかし一応、エフェメラという前例がある都合上から、若い少女が表立って活動している事自体には然して抵抗も違和感も無い。それでも、まるで対極する態度振る舞いなだけあって流石のマクスウェル兄妹とはいえども瞬間的に身を強張らせてしまう。

 だが、二人の兵士は瞬き程の時間でその困惑する心情を理性で抑制する。幾ら慣れない光景とはいえども、あからさまに困惑している様では失礼にも程があるというもの。なまじ、命を預け合って共闘した関係な上に自身達を上回っているであろう強者なだけに、そんな波風立ち兼ねない態度振る舞いを見せる訳にはいかなかった。

 尚、幾ら彼彼女がそうやって必死になって取り繕うともアルピナ達の眼を誤魔化す事は出来無い。彼女ら神の子の前では人間の反射速度などたかが知れている為に、誤魔化そうとしても誤魔化し切れていないのだ。

 その上、ヒトの子を管理するという立場やヒトの子が想像する事すら出来無い様な長い時を生きてきた事で育まれた経験、そして神の子としての生まれ持った知能により、その誤魔化しは分かり易い取り繕いにも満たない児戯へと墜落する。加えて、彼女らには読心術がある。魔眼で魂を見通す事が出来る都合から必然的に出来てしまうそれがある限りにいて、ヒトの子の思考行動は彼女らの掌上の祭りでしかないのだ。

 ちなみに、契約によって魔力を授かり魔眼を開ける様になったクオンとアルバートだが、彼ら二人もまた読心術は出来無い事は無い。だ経験が浅い上に大した本格的鍛錬も積んでいない為にそもそもとしての魔力操作が覚束無い事から、それなりに親しい相手()つ表面的な思考程度なら辛うじて乍ら読み取れる。いずれは深層心理にまで手が届くだろうが、今はだその時では無かった。

 兎も角、そういう訳で、彼彼女の取り繕いは全くの無駄でしか無かった。しかし、アルピナはそれに対して不満を抱く事は無い。そもそもとしての原因が全て自分にあるのは承知の上だし、何よりこれは今に始まった事では無いのだ。ヒトの子が創造されてよりおよそ10,000,000年。これまでにも似た様な事は数えきれない程経験してきた。今更この程度の事で感情が揺れ動かされる事など有り得ないのだ。

 またスクーデリアもクィクィも、彼女がこの程度の事で何らかの騒ぎを起こす事が無いと分かり切っているのか、同じく何らかの行動を起こす気配も無く黙って見逃すのだった。そして、そんな彼女らの背後事情など知る由も無く、無事に誤魔化せられた、と安堵の心情を浮かべ乍らアンジェリーナはアルピナの問いに返答する。丁度会話に混ざりに来たクオンとアルバートと少年を輪に加えつつ、揃ってアンジェリーナの言葉に耳を傾けるのだった。

「はい。此処ここベリーズからそれ程離れていない海岸線に〝驪龍の岩窟〟と呼ばれる古い海蝕洞があるのですが、しかしたらそこでは無いかと。そこは、この国で頻繁に出土する竜の化石と何らかの関係性があるされる古い言い伝えが残された地です。魔王の正体が依然として不明な今、同じく正体不明な化石の総称である竜との関連性を考えるのも悪くは無いかと」

 信憑性の無い妄想的思考の閾値を超えていない事を謝罪しつつ、アンジェリーナは驪龍の岩窟と呼ばれる場所の詳細を説明する。周辺地図を用いて場所を明示しつつ、しかし心中ではその信憑性の無さに自分自身で呆れ果てるのだった。

 一方ガリアノットは彼女が開いたその地図を眺めながら、初めて聞いたな、とでも言いたげな顔をして聞き役に徹していた。下手に口を挿んでも場を混乱させるだけだし、何より口を挿められる程の知識も無かったのだ。アンジェリーナも兄のそういう側面を知っているからこそ、余計な事を言わず黙って放置するのだった。

 またアルピナ達はというと、彼女達が幾ら神の子とはいえども人間的な地理情報はガリアノットと大差無いレベルでしかない為、彼とほとんど同じ様な面持ちでそれを聞くしか無かった。しかし、幸いにして此方こちらには純粋な人間であるクオンとアルバートがいるのだ。分からない事を下手に取り繕う様なマネはせず、表向きは地図に情報を照らし合わせて何か考えている風を装いつつ精神感応テレパシーで素直に彼等二人に尋ねるのだった。

『驪龍の岩窟……成る程、龍か……可能性はそれなりにあるのかも知れないが……。クオン、アルバート、君達の意見を聞かせてもらおうか?』

『意見って言われても、俺だってその岩窟には行った事無いからなぁ。アルバートはあるか?』

 お手上げ、とでも言いたげに、クオンはアルバートへバトンを投げる。幾ら純粋な人間とはいえども、しかし知識量はたかが知れているのだ。それに、クオンが育ったのは国の中央地区北東に位置する小さな村マソムラ。ベリーズは仕事の関係で何度か訪れた事がある程度でしか無かったのだ。

 しかし、そうやってバトンを半ば強制的に投げ渡されたアルバートもまた、アルピナの求める様な意見は出せそうになった。彼もまた、クオンと同じく生まれ育ちは此処ここベリーズ近郊を含む国の南方地区とは一切関係無い。それどころか、そもそもとして彼の生誕地はこの国ですらないし、何より此処ここベリーズには今日が初来訪なまである始末。それも相まって、知識に関してはアルピナ達悪魔と然程変わらなかった。

次回、第290話は7/14公開予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ