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ALPINA: The Promise of Twilight  作者: 小深田 とわ
第3章:Mixture of Souls
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第288話:意見交換

「失礼、私はプレラハル王国四騎士兼王立軍指揮官のガリアノット・マクスウェルと申します」


 王国式の敬礼を捧げつつ、ガリアノットは丁重に自己紹介を重ねる。普段の勇ましさと豪胆さが鬩ぎ合う様な男らしさに満ち溢れる様なそれではなく、あくまでも公人としての慎ましさと礼節を兼ね備えた畏まった態度だった。


わたくし其方そちらのセナと同じく旅の者スクーデリアと申します。此方こちらこそ先程は御助力戴き感謝致します。貴殿の御噂は彼から幾度かお聞かせ戴いておりますわ。それと、わたくし共相手にその様な畏まった態度は必要御座いません。どうぞ、気楽に為さって下さい」


 対して、アルピナに代わりスクーデリアが率先して彼の言葉に返答する。ヒトの子の扱いにそれ程——あくまでもスクーデリア自身やクィクィらと比較して——長けていない上に慎ましさの欠片も無い傲慢さと傲岸不遜さを常に曝け出しているアルピナに一任していては、却って気苦労が止まないのだ。

 また、別に貶す訳では無いがアルピナでは少々外見年齢が若過ぎるという問題もある。スクーデリアよりもヒトの子の扱いに最も長けているクィクィに任せなかったも同じ理由であり、彼女ら二柱ふたり如何どう見ても10代半ば前後にしか見られないのだ。

 尚、神の子の肉体は各魂が望む最も適した姿形を取る都合上、幾ら超常の存在とはいえその姿形を自由に変える事は出来無い。その為、彼女らの中で最も外見年齢が成熟していそうに見えるスクーデリアが必然的に前に出る羽目になったのだ。その上、彼女の態度振る舞いは大国の貴族に引けを取らない程には上品。日輪の様に散々と輝く狼の様な妖艶さを蓄える金色の瞳に、腰に至る長さの真っ直ぐでサラサラとした鈍色の長髪と、気品を兼ね備えた飾り気の少ない淡色のドレスワンピースも相まって、その姿形は相応に美麗()つ優雅。むしろ好都合なまであるのだ。


「そうか、では御言葉に甘えるとしよう。しかしそれにしても、我々こそ貴殿らの御活躍が無ければ無事では済まなかった。いやはや、旅の者に後れを取るとは、我々も未だ未だ鍛錬が足りないな」


 ハッハッハッ、と自虐的()つ豪胆に笑うガリアノットは、素直にスクーデリア達の実力を称賛する。四騎士として、あるいは王立軍の指揮官として、彼は他者を称賛するのを憚るプライドを持っている様な頑固者乃至(ないし)愚者では無かった。

 対してスクーデリアもまた、そんな彼の愉快な性格な態度振る舞いに付き合う様に微笑んであげる。面倒な事この上無いが、しかし態々《わざわざ》下らない不和を齎す必要も無い。こんな事ならクィクィに相手してもらえば良かった、と内心で後悔しつつ、しかしそれを表立って悟られない様な仮面ペルソナを被るのだった、

 一方、そんな後悔の感情で一瞥されるクィクィは、そんなスクーデリアの背中を面白そうに見つめ返していた。なまじ、遥か昔より知的で冷静沈着で気品ある態度を常日頃から崩さない彼女の姿を間近で見続けてきたからこそ、何だか苦労してるなぁ、とほくそ笑むのだった。

 また、役目を奪われてしまい手持無沙汰になってしまったアルピナとしても、クィクィと同じ様な感情をスクーデリアに対して抱いている様だった。口下手な自分の代わりに対応を買って出てくれた事自体はそれ相応に有り難いが、しかしそれはそれで当て付けがましくも感じてしまい、感情が燻ってしまう。だからこそ、さながら仕返しとでも言いたげに敢えてワザとらしく不機嫌そうな相好を浮かべつつ嘲笑するのだった。

 そんな折、ガリアノットは彼女へ問い掛ける。それは、魔獣を撃滅した事により今この場に漸く花開いた平穏()つ長閑な一時を過去へと追い遣る様な気迫を内包している。所で、と彼はいたく真剣な口調と低い声色で言葉を発するのだった。


「スクーデリア殿はあの魔獣と共にいた人間達について何か知っている事はあるか? 恐らく貴殿らなら周知だろうが、これまで無作為に活動していると思われていた魔獣の背後に、如何どうやら魔王と称される者共が存在する様子だ。状況からして先程の奴等がその魔王の可能性が高いとは思うのだが……」


 如何どうだろうか?、と首を傾げつつ、ガリアノットは一縷の希望に託す様な相好を浮かべる。筋骨隆々な男らしい巨体からはとても不釣り合いな弱々しい相好だが、しかし裏を返せばそれ相応に現状を正確()つ客観的に認識出来ているという事でもあるだろう。魔王という未知の存在に対して決して油断も慢心もしていない事の何よりもの証左だった。

 しかし、その質問に対してスクーデリアは少しばかり悩む。神の子という上位種族だからこそ可能な思考速度を駆使し、刹那程の時間であらゆる情報を統合及び解釈する。魔王という恐怖概念をほしいままに支配する事で、人間達が今後の計画にける余計な障害にならない様にする必要があるのだ。

 何より、そもそもとして魔王の正体は自分達なのだ。決してレムリエル達天使では無い。その為、下らないボロを出して下手に自分達の正体を疑われては元も子も無い。幾ら認識阻害が掛かっているとはいえ、矛盾が生じては成らないのだ。

 しかし、現在の人間達は魔王に関する知識が限り無く少ない。それこそ、レインザード攻防戦に直接立ち会った者以外は基本的に名前しか知らないと言って差し支え無い。その為、幾ら情報の取捨選択とはいえども、基本的には何も知らない振りをしていれば問題無かった。


「いいえ、生憎私共もその魔王については一切存じ上げておりませんわ。何より、その様な国家的非常事態でしたら私共の様な一般人よりもマクスウェル殿や英雄殿の様な公人の方が良く御存知なのではありませんか?」


 淡々と事実のみを突き付けるスクーデリア。その声色及び口調は戦闘直後とは思えない程に冷静沈着だが、同時に感情の機微が感じられない冷徹さも感じられる。さながら氷の襄王と形容したくなる様な冷たさであり、ガリアノットは無意識の内に魂が震えてしまう。味方の筈なのに味方では無い様な、そんな感覚だった。

 しかし、背中を預けて共闘した者同士として信用しない訳にはいかない。何より、英雄たるセナとアルバートがそれなりに親しくしているのだ。自分達だけが独り善がりに不信を積み重ねる訳にはいかなかった。

 だからこそ、ガリアノットはスクーデリアの答えをそのまま素直に受け入れる。そうか、と小さく呟くと共に溜息を零し、手に入りそうだった手掛かりが掌から零れ落ちる様な感覚を覚えた。それでも、過ぎ去った結果を強請ねだっても仕方無い、としてその思いを断ち切り、改めて心を入れ替える。


「生憎、俺達も魔王については何も知らない事ばかりでな。先日のレインザードに続いて此処ここベリーズに現れた理由も全く以て不明。そもそも、魔王共が何人いて何を目的に何をしているのかも全てが不明だ。せめてこの近辺に魔王が出現した理由の様なものがあればだマシなのだが……」


 生憎、ガリアノットはベリーズ近郊の地理情報に疎い。それは元々彼の出身が国の北方地区だからというのもあるが、それに加え普段の仕事が基本的に王都の中で完結する事が多く外出の機会が少ないという事もある。それこそ、こうして王都の外に頻繁に出る様になったのは魔獣被害が深刻化してからの話であり、それまでは王都から各町に派遣されている王立軍からの定例報告を受け取る事が大半だった。

 その為、魔王達が果たしてベリーズ近郊で何を企んでいるのか皆目見当が付かないのだ。何かもっともらしい物品だったり遺跡の様な建造物だったりがあれば分かり易いのだが、それがあるのかを知らない為に如何どうしようも無かった。

次回、第289話は7/13公開予定です。

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