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ALPINA: The Promise of Twilight  作者: 小深田 とわ
第3章:Mixture of Souls
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第283話:情報共有

 そのまま、敵味方入り乱れた争いはより一層の激化を見せる。澄み渡る青空の下では聖力と魔力が激しく渦巻き合う。レインザード攻防戦の様に町全体を巻き込んでいる訳でも無いし天使と悪魔による衝突も発生していないが、しかし神の子が介入している事から人間の想像を絶する様な威力になる事は必然だった。

 尚、近くに無関係の人間はおらず、既に全員が避難し切っているのは不幸中の幸いだろう。レインザード攻防戦の様に逃げ遅れた住民の救出や手当などを並行して行うには、人手が少な過ぎた。大丈夫だろう、と過信して必要最低限の人員で来てしまった事による弊害だった。

 それでも、だからこそ眼前の魔獣の相手に専念出来るのだ、と気持ちを切り替えてガリアノット達は只管ひたすらに剣を振るい続ける。結果的に一緒に戦う事になってしまった彼彼女らが果たして何者かは知らないが、しかし今の所は取り分けて不審な様子が見られない為、変に警戒する必要も無いだろう。

 一方、そんな人間達の人間的な苦悩や思考の傍らでは、悪魔達による勝手気(まま)な享楽的戦闘行為が続けられている。聖獣を相手にいたずらに魔力を放出し、人間の振りをする気などまるで感じさせない乱暴な態度振る舞いを見せつけていた。

 断末魔が断続的に飛び交い聖獣達がただの肉片へと変貌するその様は、むしろ清々しさすら感じさせられる程に痛快な光景として人間達の脳裏に記憶される。やはり、伊達に長期間聖獣達の跋扈に苦しめられてきただけの事はあるだろう。

 しかし、彼女達からしてみれば、それは面白みも無ければ大した苦労も無い単純作業でしかない。幾ら数が多い上に相性上有利な聖力を有しているとはいえども、しかし聖獣如きでは悪魔の前ではしたる脅威足りえないのだ。新生悪魔であるルルシエでも聖獣相手ならどれだけ数的不利でも対して苦労は強いられないのだから、草創の108柱であるアルピナ及びスクーデリアや、それに限り無く近しい実力を有すクィクィの前では尚の事だろう。

 それでも、敢えて彼女らは力を抜いて聖獣達を翻弄する。それは、ガリアノット達人間から不必要に違和感を持たれない様にするという表向きの理由がある為。本来なら到底敵う筈が無い魔獣をそう簡単に蹂躙しては、怪しまれる事必然なのだ。幾ら英雄という前例があるとはいえ、それが珍し気も無く複数人現れたらまた別の意味で疑われてしまいそうだったのだ。

 それに加え、裏ではちょっとした時間稼ぎの意味も込められていた。現在、バルエルとレムリエルのお陰で色々と謎が多く、彼女達自身ですら状況が上手く把握出来ていない。経験と実力である程度は予測出来ているが、しかしそれでもだ不足している部分が多いのだ。

 そんな最中、そこにアルバート達が参戦してきたのだ。事前に来る事は分かっていたとはいえ、生憎と何ら情報共有が出来ていないのだ。だからと言って大きな不都合にはならないものの、しかし少しくらいは話の擦り合わせがしておきたかったのだ。

 当然、表向きは英雄として人間側に与しているセナとアルバートも、アルピナ達のそういう思いについては把握している。その為、表向きは彼女らの傲慢な破壊的戦闘行為に圧倒されつつも、その背後では密かに精神感応テレパシーの網を構築するのだった。


『ったく、暴れ過ぎじゃないのか、アルピナ?』


 肩を並べて協力している風を装いつつ、セナはアルピナに対して精神感応テレパシー越しに愚痴を零す。自分達には散々、怪しまれるな、と忠告しておきながらのこの態度振る舞いには、憤懣を通り越して笑いしか出てこなかった。何より、肉眼に映る姿と魔眼で得られる情報が生む乖離を前に、真面で真面目なコミュニケーションの取り方が分からなくなってしまっていた。


『そうだろうか? しかし、言い訳のしようは幾らでもある。して気に留める必要も無いだろう。何より、君達が間の悪いタイミングで現れたお陰もあって少々暴れ足りないからな。それとも、君が代わりにワタシの相手をしてくれるのか?』


 セナの文句に対して、アルピナはあっけらかんとした態度でそれを否定する。金色の魔眼で聖獣を睥睨し、黄昏色のオーラを零す魔剣を振るい聖獣に肉体的死を送り続ける。顔面には猟奇的笑顔が貼付され、蛇の様に鋭利な眼光やそんな態度も相まって、その言葉は非常に恐ろしく感じられるのだった。

 そして同時に、その否定の直後に投げ掛けられる彼女からの提案に対してセナはやんわりと拒否の姿勢を向ける。アルピナと戦える、という内容自体は非常に興味関心のそそられるものではあるし何とも言えない魅力があるのだが、しかし状況の都合もあるしもてあそばれる未来しか見えなかったのだ。


『いや、遠慮しておくさ。それより、状況は如何どうなってるんだ? 聖獣と戦っていたにしては矢鱈と戦闘痕が激しいし、かと言って天使の魂は何処どこにも見当たらないが……』


 俺達は何も分かってないんだ、とでも言いたげな態度を惜しげも無く曝け出して、セナはアルピナ達に問い掛ける。此処ここで敢えて見栄を張って理解している風を装う必要など無かったし、むしろそんな事をすれば認識や見解の齟齬による不都合や不備が生じ兼ねないのだ。

 当然、それはアルピナ達にとっても同様であり、そうして恥ずかし気も無く素直に状況を教えてくれるのは非常に有り難かった。だからこそ、あるいはそうでなかったとしても、彼女はセナのその返答を素直に受け入れる。彼女に限らずスクーデリアもクィクィもクオンも、揃って同じ心境でその状況を共有するのだった。


『それが、私達にも良く分かっていないのよ。天使達と戦っていたのは正解よ。丁度この町に来た日から何回かレムリエル達に襲われてて。でも、不思議な事に魔眼に魂が映らないのよ。お陰で、これを仕組んだであろうバルエルも見つからないわ』


 説明しようとしたアルピナの言葉を遮る様に、スクーデリアが代わりに説明する。必要な情報を取捨選択しつつ極力端的()つ簡潔な説明に纏めようとする辺り、流石はスクーデリアだろう。しこれがクィクィならもっと抽象的な説明になっていただろうし、アルピナだったら話が脱線していただろう。そう考えると、スクーデリアが話に割り込んできたのは正解とも言えるし当然とも言えるかも知れない。

 いずれにせよ、その説明を受けてセナは暫しの無言を挟んで心中で吟味する。アルバートもまた、影に潜むルルシエと個別に話して意味を理解していく。勿論、その間も聖獣との戦闘は続けられるし、ガリアノット達人間が死なない様に手を貸したりもしている。

 やがて——と言ってもものの数秒から十数秒程度だが——心中で思考の整理が付いたセナは小さく息を零す。しかし、あくまでも整理が付いただけであり理解が出来た訳では無かった。その為、その相好は何処どこか腑に落ちていないかの様な曖昧色の感情に染まっていた。


『何と無くは理解出来たが……魔眼に魂が映らないっていうのは奇妙な話だな。確かに俺達も、町周囲に天使が確認出来無いのはおかしいとは思っていたが……それで、その理由は何か手掛かりの一つでも掴めたのか? お前らの魔眼を完璧に欺き通せる程の欺瞞なんてず不可能いだろ?』


『そうね。天使以外の力も関与しているって事くらいしか分からなかったわ。ただし、それがかみなのか神の子なのかヒトの子なのかまでは分からなかったわ』


 ごめんなさいね、とスクーデリアは聖獣をあしらながら謝罪の言葉を口にする。しかしそれは、本心からの謝罪というよりは微笑を含んだ自虐的な一言だった。あるいは、その欺瞞を成し遂げたであろうバルエルに対する感心と嫉妬が込められているのかも知れない。

次回、第284話は7/8公開予定です。

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