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ALPINA: The Promise of Twilight  作者: 小深田 とわ
第3章:Mixture of Souls
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第282話:疑似的な協力関係

 そんな彼女らを聖獣との戦闘の傍らに横目で一瞥しつつ、クオンはただ茫然としてしまう。彼女達のその勝手気(まま)な態度振る舞いは此処ここが街中である事を完璧に忘失しているかの様であり、人間としての枠組み(パラダイム)から大きく逸脱している様にしか見えなかったのだ。

 一応魔法の使用こそは流石に遠慮していたものの、しかしただでさえ神の子という上位種族としての驚異的な身体機能がある上にそれを魔力で補強しているのだ。人間としての枠組み(パラダイム)から外れて英雄——つまり、広義で言う所の逸脱者と呼ばれる存在——へと至っているアルバートやクオンが揃って赤子以下の存在へと成り下がってしまっていたのだ。

 一応、今のアルピナ達は認識阻害の影響下に置かれている事から対外的には魔王として認識されていない。より正確に言うならば、ただの人間としての扱いしか受ける事は無い。それこそ、英雄の振りをして人間社会に潜伏しているセナとは実質的に同じ境遇と見()す事が出来る筈なのだ。

 しかし、だからこそ、彼女らのその非人間的な戦闘風景には倒錯的な違和感が強く滲出してしまうのだ。なまじ、魔王台頭のせいで人間の姿形をした強者には一定に疑惑が持ち掛けられる様に成りつつある事もあり、彼女らの隠し切れていない実力は感心より猜疑の思いの方が強くなってしまうのだ。

 だからこそ、クオンは彼女らの勝手気(まま)で周囲への影響を一切顧みない行動に対して溜息を零してしまう。あぁもう、と微かな憤懣さえ漏らしながら、それでも少年の身を護る様に彼の前に立ち塞がる。遺剣を握りしめ、師匠を殺害された恨みをついでに晴らしてしまう積もりで聖獣達を斬り伏せるのだった。

 またそうしてクオンに護られる少年も、護られてばかりなのは申し訳無いし悔しいという事もあって、少しばかりではあるが聖獣との戦闘に参加する。対天使と異なり対聖獣なら全く手に負えない相手という訳でも無い為に尚の事だった。

 そして、そうこうしている内にガリアノット達四騎士部隊が聖獣——彼彼女らからしてみれば魔獣——と漸く会敵する。彼彼女らは国から支給された剣を揃って抜き放ち、無数と存在する魔獣を相手に臆する事無く挑み掛かるのだった。

 尚、レムリエル達天使は皆既にこの場にはいない。アルピナ達が聖獣と遊んでいる間に極自然な態度乃至(ないし)雰囲気を携えたまま何処どこかへと飛び去って行ったのだ。もっとも、アルピナ達がそれに気付かない筈も無いが、しかし態々《わざわざ》追いかけるのも億劫という事もあってワザと見逃していたのだ。

 一方で、それを遠目から見ていたガリアノットとしては、正体こそ不明なものの敵と思われる存在に逃げられたという事実に対して忸怩たる思いを抱いていた。しかし、足取りを追うのは不可能だとぐ様判断し、眼前の聖獣との戦闘に集中するのだった。

 そして、今この場にいてもっとも奇妙な戦闘の景色が構築されるのだった。それは、その真意を知る者から見れば聖獣対悪魔(もとい)魔王との戦いに何も知らない人間が乱入してきたという図。対して、知らない者から見れば魔獣対人間との戦いに国家の重鎮たる騎士が助太刀に現れたという図。全く以て同一の戦闘でありながら、しかし見る者の認識によってその内実が大きく異なるのは何とも滑稽な姿だった。

 取り分け、人間側でありながら悪魔側の視点を持つアルバートとセナとルルシエにはその思いが顕著だった。魔王を敵と見()しつつもその魔王と一時的()つ疑似的な協力関係を結ぶ事で共通の敵である聖獣を相手にするという、さながら創作物の様な光景が眼前で行われていたのだから無理も無いだろう。その上で、自分達もまたそんな彼彼女ら人間の振りをしつつ英雄としての期待に染められた眼差しで見られているのだからたまったものでは無かった。

 それでも、セナもアルバートも其々《それぞれ》自らに課せられた使命を全うすべく的確に行動する。アルバートは以前から使っている自前の剣を握り締め、セナは以前魔法で創った特別な要素など何一つない有り触れた金属製の剣を握る。

 万物の創造はエロヒムにしか出来無い——神の子の中で特別(エロヒム)に近しい存在であるジルニア、ミズハエル、セツナエル、アルピナですらそれは不可能——だが、それでもこういうちょっとした小物なら神の子でも頑張れば作れるのだ。取り分け剣に関しては聖剣乃至(ないし)魔剣()しくは龍剣という参考例がある事もあって、比較的作り易い方ではあったりする。

 しかし裏を返せば、仮令たとえセナ程の実力者であろうとも、これくらいの大きさの物品ですら魔剣という参考が無ければ創る事もままならない程には高難易度なのだ。し同じ大きさの別の何かを創れと言われたら、それは余程馴染みのある物か創り手が熟練者でも無い限り不可能だったりする。

 兎も角、アルバートとセナは其々《それぞれ》自らの魂で産生される魔力を少しばかりその剣に流し込む。斬れ味の向上を目的として纏われるそれは、勿論の事人間達に影響を与える事は無い。その為、彼らの存在が人()らざる何かだと疑われる事は無かった。

 同時に、二柱ふたりとも魔眼を開いてアルピナ達の居場所を特定する。肉眼では認識阻害の影響を受けてしまい、誰がアルピナ達なのか区別が付かないのだ。勿論、一緒に来た兵士では無い者を探せばそれがアルピナ達だと断定する事は出来るが、そうすると今度はそれがアルピナなのかスクーデリアなのかクィクィなのかクオンなのかが分からないのだ。

 それでも、本当は魔眼を開きたくないというのが本心だったりする。二柱ふたりとも、本来の瞳の色は魔眼が持つ金色とはまるで異なる程遠い色をしている為、場合によっては変に疑われてしまう可能性があるのだ。これがクオンやアルフレッドを始めとする一部の龍人が有する琥珀色の瞳の様に比較的似通った色なら如何どうとでも言い訳出来るのだが、しかし大抵そう上手く事は運ばないのが世の常なのだ。

 それでも、幸いにして今は戦闘中。気のせい、とか、光の加減、とか言えば多少の誤魔化しは効く。何より今は眼前の聖獣の処理で皆手一杯なのだ。腰を据えてじっくり瞳の色を観察する、などという行動でもされない限りは怪しまれる事は無いし、それも初めからセナとアルバートの正体を疑っていない限りは到底有り得ない行動だろう。

 その為、念の為に魔力量を極力絞る事で色味の変化を少なくする、といった予防策を採ってはいるものの、しかしそれ程重く不安視する事は無くある程度の楽観的思考を宿して肩の力を抜く。そして、改めて眼前の聖獣の処理と魔王の仲間だとバレない様に何も知らない演技を続ける事に意識を集中させるのだった。

 対して、ガリアノットを始めとする兵士達は皆必死だった。逸脱者の領域に踏み込めていない純粋な人間でしかない彼彼女らでは、聖獣一体を相手にする事すらままらない状態だった。それでも、一応は兵士として鍛錬を積んでいる事もあって、複数人で協力すれば如何どうにか一体を相手に優位に立ち回れはしていた。

 しかし、裏を返せばその程度でしかないという事だ。人間の振りをしているアルピナ達はおろか、ただでさえ逸脱者である上に悪魔と契約を結んだ事でその力の一端を授かっているクオンとアルバート——狭義を求めるならクオンは第三段階の勇者、アルバートは第二段階の英雄の領域にまで到達済み——にすら敵わないのだ。

 そんな彼女らを前にしてこの為体ていたらく振りでは、国に認められた兵士としては立つ瀬が無いだろう。何より、彼彼女らはこの国に属する全兵士の中でも極僅かしか選ばれない四騎士直属部隊なのだ。その思いは一入ひとしおだろう。

次回、第283話は7/7公開予定です。

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