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ALPINA: The Promise of Twilight  作者: 小深田 とわ
第3章:Mixture of Souls
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第278話:魂の秘密の手掛かり

「あら、意外ね。クィクィは兎も角、貴女が私を守ってくれるとは思わなかったわ。それとも、私がそんなに信用ならないかしら?」


「ほぅ、その言い方は少々傷付くな。もっとも、君なら態々《わざわざ》ワタシ達に護られずともこの程度なら容易に切り抜けられる事くらい周知の上だ。しかし、ワタシとしてもこれ以上仲間を危険に晒す訳にはいかない事情がある。不満もあるだろうが、大人しく護られてもらおう」


 ふふっ、とスクーデリアはアルピナの不満に対して優しく微笑む。そして、改めて二柱ふたりの友人に護られている事実に深い包容力と安心感を認識すると共に、自身の言葉に込めた悪戯色の真実を静かに誤魔化そうとする。


「冗談よ。でも折角だし、ありがたく貴女達に護られる事にしましょう」


 期待しているわ、とスクーデリアはアルピナとクィクィの背中を優しく包み込む様に言葉を掛け、自身は手に持ったワグナエルの魂に視線を戻す。金色の不閉の魔眼を燦然と輝かせ、天魔の理に抵触しないギリギリまで瞳に魔力を流し込む。

 尚、彼女の魔眼は確かに出力や精度が並外れて高いが、それ以外にも魔力効率が非常に優れている事でも知られている。仮に同じ魔力量()つ同じ練度の魔眼だったとしても、彼女の不閉の魔眼はより少ない魔力量で同程度の精度と出力を発揮出来るし、同程度の魔力量でより優れた精度と出力を発揮出来るのだ。

 その為、仮令たとえ天魔の理によって放出出来る魔力量に制限が掛けられているとはいえども、しかし通常の魔眼以上に高い精度と出力を発揮出来るのだ。それこそ、天魔の理の影響下であってもクオンの龍魔眼には勝る程度の力は発揮出来るのだから相当だろう。

 そして、改めてスクーデリアは小さく息を零すと掌中のワグナエルの魂に視線を落とす。不閉の魔眼に魔力を注ぎ込み、肉眼では捉えられない内部組成を隈無く詳らかにしようと注視する。微かな手掛かりすら決して逃すまい、と今(まで)に無い注意力を見せるのだった。

 しかし、スクーデリアの魔眼を以てしても原因の解明は非常に難航を極めた。そもそもとして魔眼に映らないのだから尚の事だろう。その為、原因解明云々(うんぬん)以前に先ずは魔眼に魂を映す事から始めなければならなかった。

 それでも、すべき事が分かるからと言ってそれが出来るかは全くの別問題である。肉眼では確かに掌中に収められている筈にも関わらず魔眼越しでは雲を掴んでいるかの様に実感が無い曖昧で倒錯した環境は何とも気味が悪いものでしかない。

 しかし言い換えれば、それはそこに僅かながらの破綻が存在しているという事でもある。二つの視覚情報の間にある微かなその綻びから如何どうにか取っ掛かりを得られないだろうか、と彼女は手練手管の限りを尽くして意識を集中させるのだった。

 そして、そんな彼女の邪魔を一切させてなるものか、とばかりにアルピナとクィクィは彼女に襲い掛かる天使達を容赦無くあしらい続ける。数を減らし過ぎては輪廻の理に影響を及ぼし兼ねないし何より周囲に人間がいないとはいえども表向きは平和を維持している街中での殺人行為は騒ぎが大きくなり過ぎる事から、二柱ふたりとも余り天使達を殺し過ぎない様に配慮しつつ、しかし程度が過ぎる者には容赦無く肉体的死を送り続けた。

 同時にクオンもまた、隙を突いて少年を攫おうと画策する天使達の悪意から少年を守りつつスクーデリア達の真意を理解する。手助けしてやろう、などという烏滸がましい思考こそ抱いていないものの、しかし如何どうにか自分でも出来る事が無いか彼是あれこれ思案する。

 しかし、そもそもとして龍魔眼で上手く捉えられない上に龍魔力を上手く生成出来無い——遺剣を出せば済む話だが出す訳にもいかない——状況で少年を守りつつ戦うのは至難を極め、とても助けられる状況では無かった。その為、チラチラと一瞥しつつもどかしさに歯噛みする事しか出来無かった。

 故に、クオンとしても少年としても、ただ耐え忍んでスクーデリアが状況を好転させてくれるのを待つ事しか出来なかった。下級天使しか攻めてこない事にこれ幸いと安堵しつつ、しかし何時いつ中級天使が此方こちらに矛先を向けないか内心で不安視するのだった。

 一方、その天使達はというと、中位三隊の天使を筆頭に如何どうにかスクーデリアからワグナエルの魂を取り戻そうと躍起になっていた。本来であればその辺に転がっている虫の息状態のワグナエルの肉体と魂を無理矢理紐付けして強制的に神界アーラム・アル・イラーヒーに送り込んでしまえば楽なのだが、スクーデリアの魔力がそれを阻害してしまう為に如何どうしても出来無かったのだ。

 その上、そのスクーデリアが圧倒的上位悪魔たるアルピナとそれに準ずる実力を持つクィクィに護られており、更に肝心のスクーデリア自身もまたアルピナに負けず劣らずな実力を持っているのだ。彼彼女ら中級天使程度ではどれだけ手を尽くそうとも足蹴にされるだけだった。

 それでも、しなければマズい、という脅迫的な観念が彼彼女らを突き動かしていた。決して敵わない、と頭では分かっていても、心がそれを良しとしてくれなかった。自身らの魂に仕組まれた秘密を今後とも秘密として保ち続けなければならないという責任感乃至(ないし)使命感によるものだった。なまじ自分達の階級が低い事もあり、これを仕組んでくれたバルエルやその付き人たるレムリエルの好意に逆らう様なマネは出来無かった。

 対して当のルキナエルはというと、一柱ひとり少し離れた場所からその様子を俯瞰的に眺めていた。他の天使達が必死になってスクーデリアを阻止しようと躍起になっているにも関わらず、不思議なまでの冷静さを保ったまま面白げに楽しんでいる様な相好を浮かべていた。

 一体、彼女は何を考えているのだろうか? 魂に仕組んだ秘密がバレそうになっているとは思えない程の平常心であり、まるでバレる事もまた想定内乃至(ないし)特別問題無いとでも言いたげな様子でしかない。しくは、何らかの打開策を用意しているのだろうか? そんな印象を抱かせてくれる。

 その様子を地上で天使達を適当にあしらい続けるアルピナは、その真意を読み取ろうと思案しつつ見つめる。如何どうにか直接問い詰めたい所だが、しかしスクーデリアから目を離す訳にはいかない葛藤から上手く脱却出来無い為に少々歯痒くも感じるのだった。


「スクーデリア、だ掛かりそうか?」


「えぇ、ごめんなさいね。やっぱりそう簡単には掴ませてくれないわ。でも、一つ気付いた事とすれば、天使以外の力も感じられるわね。それが分かれば対応の仕方もある程度目星が付けられるのだけど……」


 掌上で淡く輝くワグナエルの魂を不閉の魔眼で覗きつつ、確信の無い辛うじて得られた程度の手掛かりをおもむろに吐露する。釈然としなくても情報を共有して複数の視点でみれば何かしらの打開策が生まれるかも知れなかった。それは、長い長い付き合いの果てに構築された太い信頼の紐帯で形成されたアルピナとクィクィに対する厚い信頼を下地にした思いによるものだった。

 そして、アルピナとクィクィもまたそんな彼女の思いだったり考えだったりを汲み取るかの様に情報を心中で整理する。不閉の魔眼の精度の高さに感服と嫉妬の感情を向けつつも、しかし現状打破を第一優先する様に小さく息を零すのだった。

 やがて、最初に口を開いたのはクィクィだった。彼女は、自身がこれまで歩んできた億を超す年月の流れで培われた膨大な経験値と悪魔という上位存在としての基本的知識を基に脳裏で思考を整理しつつ、深刻さを感じさせない明朗で可憐な声を紡ぐ。それも、敢えて天使達にも聞こえる様に精神感応テレパシーでは無く肉声で発する事で、同時進行的に彼彼女らの感情の機微から自身の仮定の真偽を汲み取ろうとまでしていた。

次回、第279話は7/3公開予定です。

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