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ALPINA: The Promise of Twilight  作者: 小深田 とわ
第3章:Mixture of Souls
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第276話:見えない魂と少年の正体

 一方、そうやって四騎士及び英雄が己の使命の為に迅速な行動を取ろうと動き出し始めている頃、アルピナ達はそんな事まるでお構い無しな乱闘を繰り広げていた。それは最早、ストリートファイトと呼んでも良いのか疑問に思える様な激しさへと昇華してしまっていた。

 しかし、彼らは其々《それぞれ》天使乃至(ないし)悪魔であり、種族として根本的に人間としての枠組みから逸脱している。それどころか、魂の管理者という圧倒的な上位存在としての格を有している。それを考えたら、だ随分と大人しい方だろう。町が町としての形と機能を維持出来ている辺り、彼らとしては児戯にも等しい力で遊んでいるに過ぎなかった。

 それでも、それに巻き込まれる者の視点としては堪ったものでは無い。下手な嵐よりよっぽど激しい衝撃と波が局所的に吹き荒び、真面に直視する事すら難しい程の苛烈さを展開している。あるいは、だ魔獣に襲われる方がよっぽどマシだ、と思ってしまう程の絶望的な死の香りすら漂わせているのかも知れない。

 だからこそ、その場に居合わせた誰も彼もは、蜘蛛の子を散らす様に一目散に避難乃至(ないし)逃走の姿勢を見せる。それこそ、命が幾らあっても足りない、とでも言いたげな相好を浮かべた全力の逃げの一手を選択していた。

 そのお陰もあり、一応は町としての体裁こそ保っている様に見えても、実際の所は住民の気配がまるで感じられない幽霊都市同然と化してしまっていた。ただ天使と悪魔が互いの四肢をぶつけ合うだけの寂しい光景がそこに広がっていた。

 しかし、そんな事など如何どうでも良い、とばかりに彼ら神の子達は己の欲望と好奇心の赴くままに戦い続けている。周囲に配慮して武器こそ使っていないものの、しかし最早その必要も無い程に過激化している事実を放置し、各自魂から聖力乃至(ないし)魔力を迸出させて衝突を繰り返していた。

 そして、半ばそれに巻き込まれる様な形で戦闘を強要されたクオンと少年もまた、下級天使を相手に如何どうにか持ち堪える様にして奮闘していた。クオンは天使に対して相性上有利な龍脈がほぼ使用出来ず、その上少年に至っては何ら力を持ち合わせていないという事もあり、更には数的不利も相まってかなり苦戦を強いられる事になっていた。

 しかし、如何どうにか辛うじてでも敗北だけは避け続け、状況が変化するであろうその時を期待して耐え忍び続けていた。そして同時に、この戦いのカギを握っているであろうアルピナを中心とした悪魔やレムリエルを含む上位天使を気にする様に視線を適宜向け続けるのだった。

 対して、そんな彼の視線に一瞥されるアルピナ及びスクーデリア並びにクィクィはというと、其々《それぞれ》が其々《それぞれ》の性格を如実に示す態度振る舞いを曝け出しつつ天使達を相手にしていた。例えばアルピナはレムリエルを相手にワザと手を抜いて翻弄しているし、スクーデリアは狼の様な不閉の魔眼で如何どうにか天使達の見えない魂の秘密を暴こうと試しているし、クィクィは童の様な純粋な瞳を輝かせたまま羽虫を弄ぶ様に天使達の魂に加虐的嗜好を覗かせていた。

 いずれも人間達への配慮など一切頭に無い暴れっぷりであり、上位存在ならではの傲慢さを余す事無く周囲に晒している様だった。しかし、彼女らとそれなりの付き合いを育んだクオンは、彼女達が決して本気で戦う気など更々無い事を朧気に感じ取っていた。

 実際、状況はレインザード攻防戦と同じく人間の生活圏で繰り広げられる天使と悪魔の攻防ではある。しかし一方で、くだんの状況と現在の状況で決定的に異なる点が存在する。武器の使用云々(うんぬん)では無く、もっと明確で決定的な違いである。

 それは、空模様。レインザード攻防戦では、聖力と魔力の衝突によって地界と龍脈を隔てる膜が融解した事により龍脈が地界内に零落する事で、空一面が琥珀色に染まっていた。しかし、現在彼らの頭上を覆う空は澄み渡る青空が広がっており、クオンが放つ龍魔力を構成する遺剣の龍脈以外に龍の力は欠片たりとも感じられない。

 勿論、あれはアルピナとセツナエルの邂逅により膜が一度融解していた事でその後の攻防戦にける聖力と魔力の衝突に耐えられなかったという理由もある。しかし、それを考慮してもこれだけ澄み切った青空というのは異様だろう。それこそ、天変地異こそ起きずとも何らかの異常気象だったり単純に天気が荒れても不思議ではない。

 しかし現状それらしき兆候はまるで感じられず、起こりそうな予兆も感じられない。欠伸あくびが出る程に穏やかで陽気な陽光が燦々と照り付けて肌を焼いているだけだった。それはそれで陽光に耐性が無い神の子としては辛いが、言い換えればそれ程(まで)に良い天気という事でもあるのだ。

 そもそも、周囲に溢出し充満する聖力及び魔力も大して強くない。それこそ、龍人達の魂の眠る龍の血統及び因子を覚醒させる為に彼是あれこれ手解きしているエルバ達の方がよっぽど暴れているまである。あれにすら満たない程度の力しか出していないのだから、彼女らが抱く戦う気などたかが知れている事は明白だろう。

 そして、そんな大して暴れる積もりの無い彼女ら悪魔は、其々《それぞれ》天使を適当にあしらいつつ金色の魔眼で天使達の魂を探る。たかが下級天使如きに良い様に弄ばれるのは釈然としないが、しかし見えないものを見ようと彼女らは其々《それぞれ》思い付く限りの手法で彼ら天使が握る秘密を突破しようと魂を覗き込むのだった。

 しかし、全悪魔の中で上位5本指に数えられる程に強大な彼女らでもその秘密を突破する事は出来ない。天使と悪魔の相性差が原因ではないのか、とクオンから指摘されそうだが、しかしアルピナとスクーデリアに至っては全神の子の中でも上位10本指に数えられる程には高い階級に属している。余程の上位天使でもない限り彼女らの魔眼を出し抜く事は不可能である。取り分けスクーデリアに至っては全神の子で唯一となる不閉の眼を持っているという事もあり、彼女の魔眼を出し抜くのは事実上不可能と言って差し支え無い。

 だが、この状況下に置かれているのは疑いようの無い事実であり、だからこそ余計にアルピナもスクーデリアもクィクィも頭を悩まされてしまっているのだ。互いが互いの実力を高く評価しているからこそ、その思いは一入ひとしおだった。

 それでも、全く以て可能性が断たれた訳では無いだろう。それこそ、こうやって表立って行動しているレムリエルや魂こそ見えないものの何処どこかに潜んでいるであろうバルエルが何らかの切り札を隠し持っている可能性もあるだろう。しかし、彼女達もまた少年を手元に置く事で一定の可能性を切り拓いている。

 それは比喩でも何でも無く、文字通り少年がこの状況を打破するであろう起爆剤となり得る可能性を秘めているとアルピナ達は確信している。いまだ起爆する手段が見つからないものの、しかし破壊力自体はそれ相応にあるのは間違い無いだろう。

 その根拠は少年の正体。彼の正体は純粋な人間ではない。魂こそ人間そのものだし、取り分け何らかの力を持っている訳でも無いし、魔眼に何らかの痕跡が映っている訳でも無いが、しかしアルピナもスクーデリアもクィクィもそう確信している。

 しかし、彼女らはそれをクオンや少年自身には明かしていない。確信こそあるもののだからと言って証拠や解決手段が見つかった訳では無いし、何より彼自身が知る事で状況がややこしくなる可能性が高い。加えて単純に説明するのが面倒臭かったのだ。

 なお、それに気付けたのは何も彼女らが特別だからという訳では無い。そもそもクィクィは草創の108柱の様な特別な出自がある訳でも無いし、悪魔公に類する特殊な役職を担っている訳でも無い。単純に、年の功とでも言うべき過去の経験がそれに気付かせてくれたのだ。

次回、第277話は7/1公開予定です。

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