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ALPINA: The Promise of Twilight  作者: 小深田 とわ
第3章:Mixture of Souls
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第273話:激化する格闘戦

 だからこそ、クオンはそんな多少の不利に対して不平不満こそ抱けども表立って零す事無く素直に受け入れ、少年を護る様にして天使達と戦い続ける。幾ら下位三隊や新生天使とはいえども、流石に何の力も無い少年では彼らに敵う筈が無いのは目に見えていたのだ。

 その為、クオンは一人、他の仲間達と異なりかなりの苦労を強いられる事になってしまった。それでも、彼はアルピナやスクーデリアやクィクィに助けを求める事無く一人で解決しようと奮闘する。かつて自身の師匠が聖獣に殺害されてしまった失意を清算するかの様に、決して少年を傷付けまいと覚悟を決めるのだった。

 そして、それを見るアルピナ達もまた彼のそんな覚悟を汲み取ったのか、彼に対する支援は極力行わない様にするのだった。勿論、彼の命に勝る重要なものは無い以上余程の緊急事態にはそれ相応の助太刀だったり横やりだったりを加えるが、そうでも無い限りは彼の努力を微笑ましく見守る事に徹するのだった。

 そんな彼女達の細やかな心配りに対して、クオンは心の中で素直に感謝の意を表明する。本当なら直接言語化してその気持ちを伝えたかったのだが、そんな事が出来る程の余裕なんて無かった。それどころか、戦闘行為に直結しないそんな思いを抱く事すらままならない状況だった。それこそ、能動的に精神感応テレパシーを繋げる暇すらも無い程に切羽詰まっている状況だった。

 そんな自らの状況を辛うじて顧みつつ、彼は自分がどれ程龍脈の天使に対する有利性にすがっていたのかを痛感する。幾ら多勢に無勢とはいえども、智天使級天使が相手でも状況や環境次第では多少なりとも戦えていたとは思えない程のこの体たらく振りには、怒りを通り越して茫然としてしまう。本来ヒトの子では神の子(どころ)か聖獣(およ)び魔獣にすら敵わない事を考慮してもそれは変わらなかった。

 それでも、そんな事に悲観している暇は無かったし、暇があってもする積もりは無かった。今すべきなのはこの天使達を如何どうにかする事であり、反省は二の次で構わない。クオンはただ只管ひたすらに天使を相手に奮闘するのだった。

 そして、事情を知らないベリーズの住民から見れば過激なストリートファイトにしか見えないその戦いは、時の流れに乗せられて激化の一途を辿る。それこそ、最早単なる喧嘩として片付けるには程度が過ぎるレベルにまで過激化し、収拾付かないお祭り騒ぎにも似た動揺が町の大路を疾走する。

 人間達は当然の様に誰一人としてそんな激しさ渦巻く乱闘に近付こうとはしないし、あるいは単純に逃げ惑う。レインザードの住民の様に魂を天羽の楔で支配されていない為、現状に対して素直に恐怖を曝け出しているのだ。その結果、良くも悪くも場が騒然としてしまっていた。

 こんな事ならバルエル様に頼んで天羽の楔でも打ち込んで貰っといた方が良かったかな? あ~、でもルシエル様じゃないとこの規模の同時支配は無理かな? まぁ、済んだ事だしどっちでも良いかな?

 やれやれ、とばかりにレムリエルは、恐怖に思考を支配されて逃げ惑う周囲の人間達を蔑み憐れむ様な視線で一瞥する。今更下位種族である人間に魂の管理以外で情を掛けてあげる義理など存在せず、かと言って天罰を下して修正してやる優しさも抱いていなかった。

「ほぅ、余所見か? 感心しないな、レムリエル」

 そして、そんな事を考えてしまったが為につい視線と意識を一瞬だけ外してしまったレムリエルに対して、アルピナは失望色の窺える声色と口調で威圧する。彼女の本質的な性格である傲慢さと傲岸不遜さを前面に押し出したその姿勢に、レムリエルは咄嗟に身構えつつ慌てる様にして意識と視線をアルピナに向け戻す。

 その狼狽と警戒は、その隙を突く様にアルピナが何か仕掛けて来るのでは、という悪寒が走った為。敵対している彼我の間に情けを掛けてあげる必要性も意義も存在しない上に、アルピナの性格を考慮すれば隙を晒す事に対する答えはそれ以外に考えられなかったのだ。

 しかし、そんなレムリエルの予想に反してアルピナは攻撃を仕掛けてくる事は無かった。悪魔公としての地位に相応しい波長と密度で形成された強力な魔力を魂から迸出させる事で威嚇してくるだけであり、肉体的なダメージを負わせる様な行動はその兆候すら見せていなかった。

「ごめんごめん。でも、アルピナ公も優しくなったよね? 昔だったら、あんなに隙を見せたら即刻神界(しんかい)送りにされてたもん。何か良い事でもあった? それとも、何かクオン君に影響されでもしたの?」

 まさかアルピナ公ともあろう者が、とでも言いたげに含みのある相好を浮かべて問い掛けるレムリエル。悪意は無いが状況を面白がっている素振りを見せる彼女の態度振る舞いは昔から何ら変わっておらず、むしろ懐かしさすら感じさせるもの。アルピナもそんな彼女の態度振る舞いに、微笑ましさと懐かしさを感じると共に図星を指されたかの様な舌打ちとも苦笑ともとれる非言語的な声を零すのだった。

 しかし、だからと言って彼女は苛立ちや憤懣を抱いている訳では無かった。ただ図星を指された事に起因する彼女への感心と自己への嘲笑を隠す為の態度だった。あるいは、心を見透かされた事から来る羞恥心に対する照れ隠しかも知れない。

「まったく、君はそういう所だけは勘が鋭いな。確かに、神龍大戦時と比較すればワタシも随分と丸くなった様だ。しかし、だからといって天使を殺さなくなった訳では無い。お望みなら今直ぐにでも神界しんかいに送ってやろう」

 そういうと、アルピナはレムリエルに対する能動的攻撃の苛烈さを少しばかり増加させる。それは、自身が敵より圧倒的に上位に立っていると確信しているからこそ成せる行動であり、相性差があろうとも座天使級程度なら大した脅威足りえない、という彼女の階級の高さを如実に示すものだった。

 実際、アルピナの実力は全神の子の中でも飛び抜けて高い。というのも、彼女が属する草創の108柱はエロヒムが神の子を創造するに当たってエロヒムが直接自身の手で創造した存在であると同時に、生命の樹で生まれる神の子の試作品としての側面も有しているのだ。その為、そんな生命の樹出身の神の子と比較して草創の108柱は能力や性格やその他裏事情が調整不足だったり特殊だったりしているのだ。

 例えばスクーデリアの不閉の魔眼はその代表例であり、あれはエロヒムがスクーデリアを創造する際に魔眼の調整を誤った為に生まれた偶然の産物なのだ。同じくアルピナの場合は各個体の魂が有す聖力(およ)び魔力乃至(ないし)龍脈の量が不確定な時期に創造されたという事もあり、年齢以上に強い力を宿しているのが特徴として挙げられる。

 だからこそ、アルピナは仮令たとえ上位三隊の天使が相手であろうとも相性差を覆して容易にあしらう事が出来るのだ。もっとも、座天使級程度なら魔力量の調整が完璧でありつアルピナより少々年下のスクーデリアでも容易に対処出来るのだが。

 兎も角そういう訳もあり、アルピナは全神の子の中でも飛び抜けて高い実力を有しているのだ。その為、今の彼女に勝るのは彼女より先に生まれた神の子に限られるだろう。その中でも、魔力量の調整を誤って創造された彼女と同じく聖力量の調整を誤ったまま創造された現天使長セツナエルは、天使-悪魔間の相性もあって正しく天敵とも言える相手なのだ。

 しかし、当然の事ながらレムリエルはセツナエルでは無い。その為、苛烈さを増すアルピナの手捌き足捌きを前に彼女は劣勢を強いられる事になる。単純な階級差も相まって、彼女は客観的な印象以上に追い詰められる事になるのだった。

次回、第274話は6/28公開予定です。

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