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ALPINA: The Promise of Twilight  作者: 小深田 とわ
第3章:Mixture of Souls
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第268話:日光と雪色の肌

 彼の雪色の肌が陽光を受けて微かに痛む。彼を含む全悪魔やそれと対になる天使達の肌が総じて雪の如き白色を有しているのは、天界や魔界には太陽に相当するものが存在せず、肌をそれから保護する必要が無い為。全て空間内に満ちる聖力や魔力そのものが可視性を確保していることから、態々《わざわざ》外部から光を受け取ってその反射光で視覚を得る必要が無いのだ。

 そして、それはつまり日光——正確には紫外線——に対する耐性を一切獲得していないという事。一応は魔力で身体表面をコーティングする事により事無きを得ているが、それでも慣れない環境は無意識的に心身を蝕んでいく。それこそ、人間でいう白人種(どころ)の話では無い位には日光に弱い。流石に吸血鬼だったりアンデッド程壊滅的に弱い訳では無いが、それでも相応に苦手な事には変わりない。

 なお、何故神の子ともあろう存在が紫外線如きに対する耐性が備わっていないかというと、彼彼女らが創造された当初はその概念が存在していなかった為。世界を創造し、地界を創造し、その後神の子をベースにヒトの子を創造する際に初めて紫外線に対する脆弱性が見つかったのだ。しかし、態々《わざわざ》創り直すのも面倒というエロヒムの気分によりヒトの子にだけ紫外線の耐性が備わっているのだ。

 ちなみに、天使は聖力を、悪魔は魔力を、龍は龍脈を利用し紫外線から身体を守っているが、龍に関しては身体表面を覆う鱗が極僅かだけ紫外線に対する耐性を持っていたりする。それでも人間の肌より遥かに弱い事もあり、鱗と言いつつも見せかけだけの飾りに等しい性能しか持っていなかったりする。なまじ天使も悪魔も龍も力が強い為に、装甲としての機能は元からあって無い様なものなのだ。

 兎も角、そんな訳もありセナとしては早く日陰に移動したかった。屋外である以上多少の陽光は避けられないが、日向に出て直射日光に曝されるよりは断然マシだった。アルバートの影の中にいるルルシエは日光の影響を一切受けていない事もあり、苦労しているセナを観察しつつ心中で面白そうに笑い飛ばすのだった。

 そして、適当に聞き流していたガリアノットの指示出しが全て終わると、其々《それぞれ》が其々《それぞれ》の指示通りに動き出す。セナとアルバートもまた、ガリアノットと共に一連の被害の真相解明と復旧作業の為に行動を開始するのだった。




【同日 プレラハル王国:王都】


 深夜。視覚機能に頼らず狩りを行う極一部の動物のみが活動を行う静謐な時間帯。この大地の大部分に満ち溢れる人間達はこぞって夢の中に身を投じ、小さく瞬く天頂の星々だけがその姿を静かに見守っている。

 それは、当然此処(ここ)プレラハル王国の王都とて例外では無い。非常に限られた一部の施設乃至(ないし)民家のみ明かりが灯され、それ以外は仮令たとえ王城内であろうとも例外無く夜の闇に溶け込んでいる。耳に五月蠅うるさい程の静けさだけが通りを満たし、翌日の享楽に向けて誰もがその身を癒し備えている。

 そんな王都の中心に一際大きく聳える王城。昼間と深夜とでは姿形は変わらない筈なのに、不思議と小さく感じてしまう。人目を浴びない寂しさか、将又はたまた宵闇の泥濘に溶け込まされた弊害か。いずれにせよ、昼間のそれとはまた異なる印象を眼下の城下町に与えていた。勿論、何方どちらが良くて何方どちらが悪いという訳では無く、夜のそれは昼のそれとはまた異なる趣を宿している様だった。

 そして、その荘厳な王城の中で最も高く聳える尖塔の屋根の先端には、今日もまた一柱ひとりの少女が静かに佇んでいる。三対六枚の翼を背中から伸ばし大きく優雅に羽ばたかせるその姿は、まさしく天使として相応しい可憐さと神聖さを保有していた。

 その少女(もとい)天使の名はセツナエル。肩の長さの濡羽色の髪の中に茜色のメッシュをちりばめ、猫の様に大きくやや垂れ下がった瞳はそれと同じ茜色に染まっている。法衣を彷彿とさせる純白色の衣装に身を包み、そこから溢れる雪色の肌を月光の下に晒し出す。

 一見して十代半ばから後半の少女の様にしか感じられない程にいとけなく可愛らしい彼女は、しかし現存するあらゆる天使の中で最古の存在。髪以外の色を反転させたかの様に瓜二つな姿形をしている悪魔公アルピナよりも更に古く、天使長の座に相応しいだけの威厳を有している。

 セツナエルは魂の内奥から産生される聖力を天魔の理に抵触しない程度に湧出させ、それを茜色の瞳に集約する事で金色の聖眼に染め替える。そして、無言で尖塔の先端に立ったままその視線を国の南方へと向けるのだった。

 その方角は国内有数の港町ベリーズが位置する方角。つまり、アルピナ達一行とバルエル達一行と英雄達一行が今(まさ)に一堂に会している地。すなわち、天使と悪魔によるくだらない抗争の現時点でのフロントラインだった。


 ……役者は概ね揃いましたか。……天使に、悪魔に、人間に、そして龍……。バルエルも中々面白い余興を考えた様ですね。


 しかし、とセツナエルは心中の言葉を心中で反駁する。一見して何処どこ可笑おかしな所は無い筈なのに、何故かセツナエルの相好には微かな微笑みが浮かんでいる。嘲笑とも微笑とも取れるどっち付かずなその笑顔は、今の彼女の立ち位置を暗に示している様だった。


 折角バルエルが持っていた手札も、一枚はアルピナの手の内。当然、あの子達も証拠こそ得ていないものの当然の様に気付いている様子……。残る手札は一枚……あれがある限り多少の優位性は確保出来るでしょうが、果たしてそれだけで勝てるのでしょうか? 出来れば勝って欲しい所ではありますが、そう一筋縄でいく相手では無いでしょうね。


 そうでしょう?、とセツナエルは背後に話し掛ける。何かを確認するかの様なその言葉は、しかしそのまま空中に霧散する。といっても、それは彼女が急に突拍子も無い奇行に走った訳では無く、彼女の言葉に対して返事が出来無かっただけの事。彼女の後ろに侍る二柱ふたりの天使は、固い相好で身を強張らせつつ彼女の口から放たれる二の句を只待つだけだった。


「ふふっ。イルシアエルもテルナエルも、そんなに緊張しなくて良いですよ。幾ら無翼の天使たる貴方方あなたがたが同い年のクィクィに負けて天界に逃げ帰ったとはいえ、その程度の事で態々《わざわざ》呼び出して断罪する程私も狭量ではありませんよ」


「「……申し訳ございません、我が君」」


 神妙に、そして申し訳無さが滲出する声色と口調でイルシアエルとテルナエルは同時に謝罪の言葉を零す。最早セツナエルを直視する事すら出来無かった。悪魔相手に良い様にあしらわれ続けている自身の不甲斐無さと彼女の魂から零れる覇気の影響で、生きている心地すらしなかった。

 そんな彼彼女らに対して、セツナエルは優しく微笑む。言葉通り彼女は決して怒ってなどおらず、彼彼女らの失敗を取り立てて責める積もりなど更々無かった。嘘を付く必要など無いし、態々《わざわざ》嘘を付いてあげるのも億劫だった。


「いいえ、構いませんよ。貴方方あなたがたと異なりクィクィは一度も死を経験していませんし、何より私は貴方方あなたがたに期待していますので。勿論、貴方方あなたがたの立場や私の境遇上の理由から貴方方あなたがたが私の事を信頼も信用も出来無いのは承知しています。こればっかりは仕方ありませんからね。ですが、だからこそ私は貴方方あなたがたに対して積極的に信頼と信用を預けているのです。その意味を良く良く理解していただけますか?」


 セツナエルは穏やかつ優しい声色と口調で二柱ふたりの魂を舐める様に諭す。その仕草はとても優しさや穏やかさを感じられるものでは無く、イルシアエルもテルナエルも揃って心の底から震え上がる。決して勝てない相手だと分かり切っている事も相まって、とても反論する気にはなれなかった。

次回、第269話は6/23公開予定です

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