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ALPINA: The Promise of Twilight  作者: 小深田 とわ
第3章:Mixture of Souls
252/511

第252話:天使長と悪魔公Ⅱ-⑥

 軈て、二柱の神の子の少女は魂の庭園のとある一角に辿り着く。そこはこれ迄歩いてきた庭園と全体的な印象こそ連続しているものの、しかしこれ迄とはまた異なる雰囲気も併せ含んでいる様でもある。より神聖さを増していると言うべきか、或いは霊的な印象を抱かせてくれると言うべきだろうか? 兎に角そんな雰囲気だった。

 そこは魂の庭園の最奥部に鎮座する〝魂の霊園〟。復活の理に魂を流された神の子達が復活の時を待つ場であり、人間社会でいう所の墓場に相当する様な場所。神の子にとってそこは当然の事乍ら重要な場所であり、静謐でやや寒恐ろしい印象を抱かせてくれる。それより、とアルピナはセツナエルと肩を並べてその霊園の中を歩き乍ら周囲を一瞥しつつ問い掛ける。


「此処は復活待ち魂の保管所だろう。何故此処に来た?」


 別に初めて来る訳では無いし特別真新しくも無いのだが、しかし同時に何故今此処に来る必要があるのか理解出来無かった。確かに未だ復活していない神の子は無数に存在するし、何より此処暫くの間にも多くの神の子——現時点では天使と聖獣と魔物の三種族のみ——が此処神界に送られ続けている。しかしそれでも態々此処に来た所で何か出来る事がある訳でも無い。それは、草創の神の子として数十億年もの時を生きてきた上に天使長として数多の天使を纏め上げているセツナエルが理解していない筈が無い。

 しかし、彼女が態々此処迄来たという事は何かしらの意図があるという事。確かに只無作為に散策していたら偶然此処に辿り着いた可能性も無きにしも非ずだが、しかしそんな偶然が此処で発揮されるとは思えなかった。何より、種族間で抗争中という状況からして何らかの意図が隠されていると考えるのが妥当だろう。

 敵を信頼するのは何とも癪な話だが、しかしアルピナにとってセツナエルの事は誰よりも信頼出来る存在の一柱である。裏切りの可能性など考慮したくは無かった。その結果が神龍大戦前のあの事件を生み出したのだろう、と言われてしまえば反論の余地も無いのだが、だからこそ彼女の事を信頼してあげたいという思いが一入だった。

 しかし、此処迄導いてきた張本人だからという事もあるだろうがセツナエルは何でも無い様な相好を保っている。それこそ、アルピナがそうやって疑問に思って問い掛けて来る事すら織り込み済み、とでも言いたげな余裕のある笑みを零してすらいた。

 優越感に浸っていそうなその雰囲気は何とも腹立たしいが、しかしその穏やかさと柔らかさには自然と腹立たしさが霧散する。寧ろ一周回った信頼や包容力すら感じてしまう始末だった。何とも情けない気もするが、しかし昔からそうなのだからアルピナとしてもそれを疑問に思う事は無かった。


「いえ、少し様子を見に来ただけですよ。貴女だって、まだ再会出来ていない御友人が多くいるでしょう? 皆さん、私達の為に良く戦ってくれたじゃないですか。出来れば、もっと早く沢山復活して欲しいものですね」


 セツナエルもまた足を止める事無く周囲を見渡しつつ軽い口調で答える。彼女の視線の先には無数の繭が浮かび、その一つ一つが聖力乃至魔力若しくは龍脈を零して脈動している。神聖さと不気味さが両立するそれは、正しく生命の卵と呼ぶに相応しいだけの迫力を持っていた。

 それは〝復活の繭〟。肉体的死を迎えた神の子の魂が神の子の手によって復活の理に流された後に辿り着く終着駅。軈て訪れる復活の時を待ちつつ肉体の再生を行う為の、所謂母体としての役割を持った構造体である。その一つ一つに死した神の子の魂が一つずつ宿り、零れる聖力乃至魔力若しくは龍脈は、そこに収まる魂の持ち主と同一の性質を有している。

 故に、それを外から見るアルピナとセツナエルでもその繭一つ一つに一体誰が眠っているのか容易に判断出来る。何より両者とも今迄に面識のある全神の子の顔と名前と魂の色を全て覚えているだけに、そこから受ける感情は一入だった。

 そしてだからこそ、何故今更此処に来る必要があるのか、という疑問がアルピナにはより一層強くなってしまう。神の子に出来る事は肉体を失った神の子の魂を復活の理に乗せて此処迄運ぶ事であり、そこから繭に宿して復活待ちの状態へ移行させるのは神の力が必要不可欠である。故に、尚更此処迄来てもやる事が無さ過ぎる気がしてならないのだ。

 当然セツナエルもそれを自覚しているのか、あくまでもお墓参り的な意味合いの曖昧な返答しか返そうとしない。確かにそれも悪い事では無いのだが、かと言ってタイミング的な違和感が強く如何しても違和感が拭えない。しかし、だからと言って他の可能性に思い至れる訳でも無い為、アルピナとしても表向きは素直に納得しておくしか出来無かった。


「君達は我々と異なり比較的生き残りが多いお陰もあって未だ余力がある方だろう? 可能であれば我々悪魔から優先的に復活して欲しい程だ。何故か、セナ達以外の悪魔が一向に復活してくる気配が無いからな」


 そういえば、とでも言いたげな相好を浮かべてアルピナは呟く。脳裏には嘗て肉体的死を迎えて復活の理に運良く乗せられた同胞達の内未だ復活してくる気配が無い者達の姿形が思い浮かぶ。先程神と面会した時に一言言っておけば良かったと今になって後悔の気持ちが沸々と浮かび上がってくるが、しかし過ぎた事である。今更後悔した所で過去が変わる訳では無い、と早々に見切りを付けると、セツナエルに対して嫌味っぽい目を向ける。


「あら、私を疑っているのですか? それは心外ですね」


「未だ何も言っていないだろう。それとも心当たりでもあるのか、セツナエル?」


「さぁ、如何でしょうか? ……ですが、貴女方は私達天使や龍達と異なり戦後生まれの所謂次世代の神の子が多い筈ですよね? 彼らをもっと働かせれば良いのではありませんか? 幾ら彼彼女と面識が無いとはいえ、それが出来無い貴女でも無いでしょう?」


 何の事でしょうか、とでも言いたげな笑みを零しつつ、セツナエルはアルピナの詰問を躱す。お淑やかさの背後に潜む飄々とした態度は、最早懐かしさすら覚えてしまう程に見慣れたもの。嘗て神龍大戦以前の未だ天使と悪魔で対立していなかった時代でも、こうして軽い態度で受け流されていた事をアルピナは改めて思い出した。

 しかし、当時と今では状況が異なる。当時こそちょっとした馴れ合い乃至戯れ合いの中でそういう態度を取られた事は数えきれない程あったし、アルピナとしてもそれを楽しんでいた節もあった。それでも、こうして直接且つ大規模的に対立しているとなるとそう簡単に楽しめるものでは無かった。それが幾ら彼我の関係性とは雖も、或いはそうだからこそ尚の事だった。

 一方で、セツナエルとしてはそんな事は一切気にしている素振りは無かった。嘗ての仲良しだった時代と比較して表面上のみならずその内面でも一切の変化を生じさせていなかった。対立の原因を生み出した当事者とは到底思えない能天気具合だが、しかしそれだけ覚悟が決まっているからこそそれだけの事が出来たとも言い換えられるだろう。

 実際、例の事件は彼女にとっても相当の覚悟で行ったものだった。対立するという事は大好きなアルピナと二度と和解出来無い可能性を秘めているという事であり、不退転の覚悟を持つ必要に迫られていたのだ。

 だからこその反動とでもいうべきだろうか? 今の彼女にそんな精神的な同様の痕跡は何一つ残されておらず、仮令直ぐ真横で肩を並べているのが自身の目的の前に立ち塞がる最大の障壁だあろうとも平然とした態度で接する事が出来るのだ。

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