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ALPINA: The Promise of Twilight  作者: 小深田 とわ
第3章:Mixture of Souls
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第244話:神と悪魔⑨

「ああ。と言っても、今はだ欠片状態。多少の波乱こそあれども、しかしそれ相応に楽しくしている様だ。幸い、残りの欠片の位置はおおよそとはいえ全て把握済み。再会のときも間も無くだろう。かみとはいえども、やはり気になるか?」


 今の姿形のエロヒムが〝ジル君〟と呼ぶそれは即ちジルニアの事に他ならない。悪魔公アルピナ率いる悪魔や天使長セツナエル率いる天使と並ぶ神の子三種族が一角である龍を束ねる皇龍にして、彼女達と同じ草創の108柱が一柱。その中で最も古き時代に創造された序列第一位こそ、今最もアルピナが欲する存在にして神が最も注目している存在だった。

 仮令たとえ複数個の龍魂の欠片へと魂を分割された状態であってなお、ジルニアの存在は如何いかなる者の興味関心を釘付けにすると共に感情をも虜にする。あるいは、通常ではあり得ないその状態だからこそ余計に意識を傾けてしまうのだろう。

 いずれにせよ、第二次神龍大戦終戦のきっかけとなった一連の事件にいて生じたジルニアの魂の分割は、今後の神の子三種族の立ち位置を決定付ける様な分水嶺としての役割を兼ね備えていると確信出来る。故に、その世紀の大勝負は仮令たとえ無関心・無介入を原則とするエロヒムであろうも無視出来兼ねる程の価値を有しているのだ。

 そして、それはアルピナにも同様に言える事。むしろ、当事者たる神の子なのだから無視出来る筈が無いだろう。なまじ悪魔公として全悪魔を束ねている都合から悪魔種全体の責任を背負わなければならない為に、彼女は如何どうしてもそれを見なかった事には出来無いのだ。

 それに、ジルニアは彼女にとって最も大切な友人の一柱ひとりであり大切な幼馴染でもある。セツナエルやスクーデリアと同じ程度に彼女は彼の事を信頼しているし、あるいはそれ以上かも知れない。いずれにせよ、到底蔑ろにして良い存在では無い事は確実だった。

 何より、その例の事件にいてジルニアを殺害して魂を欠片に分割したのはアルピナである。文字通り実行犯であり、あるいは元凶とも言って差し支えない。もっとも、真相はジルニアの指示であり彼と結んだ〝約束〟に基づくもの。しかしそれでも、実行役という観点ではその罪を言い逃れする事など到底出来無いのだ。

 だからこそ、今こうして彼女は龍魂の欠片集めに東奔西走しているのであり、その集めた欠片を納める器を受け継ぐクオンをスクーデリア達全悪魔総出で大切に守っているのだ。悪魔として生を受けて以降自身初となるヒトの子との契約を行使し、あまつさえ友人と自身の身を戦闘の渦中に投じてでも、彼女はジルニアとの〝約束〟の為に凡ゆる策を講じているのだ。

 しかし、アルピナがジルニアに対してそういった特別な思いを馳せるのは未だ納得の余地はあるのだが、しかしエロヒム自身が神の子一個体の様子を態々《わざわざ》気にするというのは少々違和感があるもの。勿論、エロヒムと神の子というさながら親子の様な関係だからこそ、現状の様な有事に際して日頃決して表には見せない様な親心をつい覗かせてしまったのかも知れない。しかし、幾ら有事とはいえそんな事があり得るのだろうか、とアルピナとしては勘繰ってしまう。なまじ限り無くエロヒムに近い存在だからこそ、そういう疑問はまるで我が事の様に明確に感じてしまうのだ。


「ええ、彼は私が初めて創造した生命。特別扱いする訳にはいきませんしする積もりもありませんが、それでもつい贔屓にしてしまうのですよ。しかし、その様子なら元気そうで良かったです。確認しようにも、ここからだと少々遠過ぎまして……」


 力及ばず申し訳ありません、とでも言いたげに、エロヒムは元気を無くして萎れ顔を浮かべる。ここ神界アーラム・アル・イラーヒーとアルピナが生活の軸としている世界との距離の遠さに辟易とした様なその顔は、しかし何処どこか作為的にも感じられる。事実、エロヒム自身だけが持つその金色の神眼は一切その鮮明さを失う事無く燦然と輝き、言葉と反する自信に満ちた色味を微かに覗かせているかの様にも感じられた。

 相変わらず口先だけは達者な事だな、とアルピナはそんなエロヒムの態度を心中で嘲笑する。しかし同時に、そんなワザとらしさを厚塗りした眼前の態度こそ寧ろエロヒムらしいとも思ってしまう。一瞬だけでも信じてしまいそうになった自分が恥ずかしい程だった。

 しかし、そんなワザとらしい嘘と嫌味で形成されたのはあくまでも後半部分だけだろう。前半部分である奇妙な程素直にジルニアを心配する態度を取る理由については、きっと表向きには直隠しにし続けているエロヒムの本心によるものだろう。或いは、自分自身すら騙くらかしてしまっているが故に自分自身ですらそうでは無いと錯覚しているエロヒムの本心かも知れない。

 いずれにせよ、エロヒムがジルニアの事を心配しているというのは本心によるものだとアルピナは確信する。客観的な信頼性に富む根拠がある訳でも無い完全なる妄想と空想と予想の範疇でしかないが、しかし不思議とそう確信出来た。

 もっとも、それは彼女のジルニアに対する個人的感情に彼女自身引っ張られてしまっている為だろう。自身のジルニアに対する信頼と友愛をエロヒムのジルニアに対するそれにも同じ様に投影してしまっているが為に、つい無意識の内に信じてしまっているのだ。

 しかし、アルピナはアルピナでありエロヒムエロヒムである。決して相馴れる事も出来なければ同一視する事も出来無い全く以て相異なる種族。一方がそうだからと言ってた方もそうだという保証は何処どこにも無いのだ。そもそも、同じ種族内であっても同じ様な思いを抱いているとは限らない。アルピナがそうだからと言って他の悪魔もまたジルニアに対して格別の想いを抱いているか、と問われても、決してそうとは言い切れないのだ。

 兎も角、どこが本心であれどこが嫌味であろうとも、特別実害が及ば無い限りはそこまで深く判別する必要も無いだろう。どの道、仮令たとえ何をしようともエロヒムが直接的介入に出て来る事はまず無いのだ。思う分なら好きにしてもさせても良いだろう。


「まさか、ワタシの魔眼でも蒼穹(まで)出てくればおおよその様子なら全て把握出来る。ましてや君の神眼なら仮令たとえ何処どこにいようとも全てが掌上の事の様に見られるだろう?」


「さぁ、如何どうでしょうか? 勿論、貴女の魔眼には絶対に負けない自信はありますけど……」


 だからこそ、アルピナはジルニアの件で高揚しつつある己の感情を理性で抑え込みつつエロヒムの厭味ったらしい自虐に反論する。自身の魔眼とエロヒムの神眼を引き合いに出し、自身とエロヒムとの間の隔絶された実力の差を改めて実感する様に訂正する。そして、エロヒムもまたそれに負けじと自信たっぷりな反論を口にする事で、両者の負けず嫌いな意地と意地が激突するのだった。

 実際、エロヒムと神の子との間にある隔絶された差というのは、格の違いのみならず魔眼と神眼の様な瞳や魔力と神力の様な根源的力にも同様に作用する。文字通り全てにいて、エロヒムとは神の子の上に立つ存在として君臨しているのだ。

 例えば彼女が言葉にしたエロヒムの神眼だって、アルピナの魔眼を基準に見ても正しく規格外と言って差し支え無い程に隔絶されている。それはクオンの龍魔眼——出力を自身の脳が焼き切れない限界(まで)高めても一つの星を詳細に把握するのが限界——を基準にしたアルピナの魔眼以上に隔絶されており、その為、果たしてあと何年生きればエロヒムが現状立っているその境地に至れるのかアルピナ自身予想が付かないのだ。

 しかし、裏を返せば理論上は可能であるという事。エロヒムの出自なんて知らないし自分達はそのエロヒムみ出された創作物でしかないが、一応は魂を核とする生命同士である。神の子は生きた時間に比例してその力を増す、という種族特性がある以上、時間さえかければ何時いつかはそこに至れるのだ。

次回、第245話は5/30公開予定です

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