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ALPINA: The Promise of Twilight  作者: 小深田 とわ
第3章:Mixture of Souls
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第239話:神と悪魔④

 その清々しいまでの類似振りには、最早諦観を通り越した感心と称賛の気持ちを抱いてしまう程。幾星霜の時を積み重ねて森羅万象をその眼に焼き付ける事で様々な魂と時空を見てきてなおエロヒムエロヒムによるエロヒムとしての価値観には一欠片たりとも変化が見られないのだ。

 もっとも、創造を司る存在として君臨するからにはそう簡単に価値観を二転三転されてもアルピナ達万物側の立場としても困りものではあるのだが。森羅万象をその掌上から生み出す者の責任として、やはり一定の枠組みというのは堅持していてもらいたいものだった。

 だからこそ、そんな実にエロヒムらしさに富んだエロヒムの態度を目の当たりにしても取り分け大きな不快感を表す事をアルピナはしなかった。全く以て無感情でいられる訳では無かったが、かと言って態々《わざわざ》感情を露わにしてしまうのもエロヒムの掌上で弄ばれている様で不愉快この上無いし、そもそもとして面倒で敵わない。

 故に、アルピナもそんな自分の感情を適当に自身の魂の内部で自己処理しつつ、改めてエロヒムが紡いだ言の葉の真意を考える。実に曖昧()つ分かり難い言葉足らずで中途半端で口下手な表現だったが、それでも何らかの手掛かりが得られる可能性があるのであればそれに掛けるのもやぶさかでは無いだろう。

 何より、セツナエルが真面に取り合ってくれない現状ではこれが唯一の手掛かりなのだ。別に今直ぐにでも世の中が崩壊してしまう様な危機的状況に立たされている訳では無いが、それでも急ぐに越した事は無いだろう。

 なまじ深い関わりを有してしているのが神の子・ヒトの子ヒエラルキーにける最上位に君臨する天使長・悪魔公・皇龍なお陰もあり、何が起きても何ら不思議では無い。それは悪魔公であるアルピナ自身だからこそなおの事理解出来ている事だった。

 しかし、アルピナでさえもエロヒムが言わんとしている事の意味が理解出来無かった。天使長と悪魔公と皇龍の力が何らかの意味を持つという事なら理解出来るのだが、果たしてどの様な意味を有しているのかが皆目見当が付かなかった。

 それこそ、アルピナは悪魔公である以上その力の持ち主である。それは言い換えれば、その力について創造者にして全知全能の存在であるエロヒムを除けば誰よりも詳しい立場にある筈なのだ。そんな彼女ですら何一つ見当が付かないという事ははっきり言って異常だろう。

 その道の専門家でありその力を振るう当事者である以上、アルピナは自身が持つ悪魔公としての力についてはその全てを知る義務がある。それに、仮に知っていないとなれば、それはその力を振るうに相応しいだけの立場に無いとして弾劾されても文句は言えないという事になってしまう。

 それにもかかわらずこの惨状である。二代目悪魔公として君臨して以降積み重ねてきたありとあらゆる自負と矜持と心核ココロが一瞬して音を立てて崩れ去った瞬間だった。ヒトの子では到底想像する事すら出来無い様な長い時間を悪魔公として君臨してきた上に変な所で意外と真面目な性格をしている事もあり、そのダメージは彼女自身が思っている以上に深刻なものだった。

 しかし同時に、ふと浮かび上がった淡く脆い違和感乃至(ないし)疑問がアルピナの壊れかけた心を繋ぎ止める。崩壊寸前だったそれをすんでの所で食い止めるそれは非常に無様で不格好かも知れないが、しかしこの際如何(どう)でも良いだろう。幸いにしてここは神々の間ヒー・メタクシュー・セオーン。彼女自身を除けば創造主たるエロヒムしかいない。それに、そんな恥や外聞を気にする程にアルピナの心は繊細でも無かった。

 そんな彼女の心を繋ぎ止めた微かな違和感。それは彼女が悪魔公として君臨するのは後天的であるという事実。つまり、彼女が悪魔公としては二代目に当たるという事実が疑問を解決へと導くカギになるかも知れないという事だった。

 故に、アルピナは瞬間的に熟考する。時間にして殆ど刹那程の極短時間の内に行われるその思考の回転は、正に天才的な能力だろう。神の子という事で与えられたヒトの子を超越する心身機能は、何も目に見える部分に限った話では無かった。

 というのも、思考能力や把握能力や注意機能など、その内面に至るまでエロヒムに近しい存在として相応しいだけの次元へと高められていたのだ。なまじそんな神の子の中でもエロヒムにより直接創造された草創の108柱という事もあり、その能力の高さは折り紙付きである。まるで調整を誤ったプログラムの様に、その能力値は一回りも二回りも次元が異なっていたのだ。

 兎も角、アルピナは改めて自身の置かれている立場である〝二代目〟悪魔公について思考する。今(まで)特に問題を生じていなかった事から深く考えない様にしていたが、よく考えればこれも神龍大戦の直接的原因となった例の事件によって齎された副産物である。何も関係無いと断ずる方がおかしな話だった。

 では、果たして一体悪魔公の力の何がそれ程(まで)に重要な意味を持っているというのか。今のアルピナが理解出来ていないという事は、すなわち今のアルピナには馴染みの無い力だという事。悪魔公として約|1.0×10^8《100,000,000》年程経過した今になってもその片鱗すら馴染み無いという事は、今のアルピナでは使う事が出来無いという事。

 ならば、一体何故使えないのか。状況を一般化してその原因を探るならば幾つかの可能性には思い至れるだろう。能力不足かも知れないし、何らかの道具が必要なのかも知れない。あるいは、単純に未だ気付いていないだけかも知れないし、将又はたまた外的手段により制限されているのかも知れない。

 一般化してこの状況を俯瞰的に眺めるなら、その原因は千差万別。とてもでは無いがその中から一つの原因に絞るのは困難を極めるか膨大な時間ロスを喰う事になるだろう。しかし、アルピナの場合は違う。悪魔公という役職を引き継ぐ事となった直接的原因の当事者としてその理由には容易に至る事が出来た。


「……ワタシが知らない悪魔公としての力……成る程、最初から与えられていなかったという事か。ならば、今もなおあの子が保持し続けているという事か? 中々如何(どう)して考えられているというか巫山戯ふざけているというか……いずれにせよ、あの時の事件から今の抗争に至るまでの全てが繋がっている上にジルニアが龍魂の欠片となっている今は絶好の機会という事か?」


 やれやれ、とアルピナは溜息を零す。天使長としての力と悪魔公としての力と皇龍としての力を欲した先にある一つの結論にこそ未だ至れないものの、大まかな目的意識の筋書きが分かっただけでも十二分に価値があるだろう。

 何より、龍魂の欠片(およ)び遺剣、そしてクオンの価値と重要性がこれまで以上に高まった事の裏返しでもある。ただでさえ魔界の深奥に閉じ込めてしまいたいこの思いがより一層高まってしまう。本人がそれを望まないのは承知の上だしアルピナとしてもそんな事はしたくないが、最悪の場合はそれも止む無しかも知れないと思えてしまう。

 それでも、セツナエルの行動原理には分からない事が多くある。そもそも、彼女が天使長と悪魔公と皇龍の力を求めようと強硬手段に出ていた事くらい過去の神龍大戦を経験した者なら誰でも知っている。今回分かったのは、それがこの世を箱庭的な第三者視点で見るエロヒムの視座から見ても正しいという事。つまり、客観的にそれが事実であると裏付けされた程度であり、そこから新たな手掛かりが得られた訳では無いのだ。

 一方で、そんな悲観的な相好を浮かべて現状を憂うアルピナに対してエロヒム何処どこなく平和的というか楽しげだった。確かに、神の子でもヒトの子でもないエロヒムにとってこの状況は文字通り他人事でしかない。何より、エロヒムは元から神界アーラム・アル・イラーヒー外で発生するあらゆる事象を箱庭の演劇程度でしか見ていないのだ。今更神エロヒムの介入が得られるとは思ってもいなかった。

次回、第240話は5/25公開予定です。

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