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ALPINA: The Promise of Twilight  作者: 小深田 とわ
第3章:Mixture of Souls
222/511

第222話:贈り物

 当然、その視線を受けるアルピナ自身としてもその程度は当然の事乍ら認識していた。それは長い時の流れと共に相互に結ばれた深い信頼の紐帯によるお陰もあるが、目の色を見るだけで何と無く読み取れた。神の子としての高度な知能とは何ら関係なく、単なる雰囲気だけの代物だった。

 それでも、中々に事実を正確に捉えている評価ではあった。口に出している訳では無い為にそれを確認する事は出来ないしする積もりも無かったが、それでもどうせ合ってるだろうと軽く受け流すだけだった。

 そして改めて、彼女はルルシエとの精神感応に意識を集中させる。陽気で能天気な彼女の笑顔に影響される様に穏やかで冷静な微笑みを浮かべつつ、束の間の平和を楽しむ様な声色と口調をアルピナは徐に精神感応に乗せて呟く。


『あぁ、そうだな。どの道、此方としても君達の動向を把握しようとしていた所だったからな。君の方から連絡してもらえるのは非常に都合が良い。早速で悪いが其方の今後の予定を教えてもらおうか?』


 ふぅ、と小さく息を零しつつアルピナはそう問いかけた。何気無く空を見上げ、雲一つ無い清々しい迄の青空を見上げる。それは、つい先程迄の殺伐とした戦いの色とは正反対の表情を見せてくれた。南方特有の温暖な気候が齎す鮮やかさは王都やレインザードとはまた違った色味を有している様で、見ていて飽きさせてくれなかった。

 しかし、そんな穏やか且つ平和的な色味とは対極して彼女のその瞳は冷たかった。氷雪よりも冷徹で氷像より無感情なその眼光は、彼女の悪魔としての威光を如何無く発揮していた。それでも、彼女本来が持つその可愛らしさ迄は失われておらず、それはそれでまた違って人気がありそうだった。

 尤も、彼女自身はそれを望まないだろう。仮令どれだけ周囲の人間達が彼女のその佇まいを見て頬を朱く染めようとも、それは彼女にとって単なる騒音でしかないのだ。別に人間を見下している訳では無かったが、単純にそういった甘声を好まないだけでしかなかった。

 兎も角、それは痛いくらいに知っているからこそクオンも彼女に対して余計な言葉を掛ける事は無い。さっさと精神感応を終わらせて次に進みたいという思いが最も強かった。それでもこの時間くらいは好きな様に使えば良いだろうと思いつつ適当に時間を送るだけだった。

 しかし、そんなクオン達側の事情などルルシエには知る由も無かった。それでも、アルピナの性格はある程度把握出来ていた事もあり推察するのに対して苦労は必要無かった。スクーデリアの様に掌上の事の様に彼女の事を把握する事こそ出来なかったが、それでも今回に於いてはこの程度でも十分過ぎる程だった。そんな、彼女なりの解釈を思考の片隅に押し止めつつ、ルルシエはこれ迄と何ら変わる事無く彼女なりのペースで精神感応を紡いでいく。


『なぁんだ、丁度良いタイミングだったんだね。……それで今後の予定なんだけどさ、アルピナ達の予想通り英雄の力を利用する事になったの。一応ベリーズでの抗争の余波はこっちまで届いたから、その原因を確かめる為っていうのが表向きの名目らしいよ。でも、あれが本当に魔王のものだって確信迄は至ってなくて、必要最低限だけの少人数規模でそっちに行くらしいよ。もう直ぐ出立の時間だから、到着は大体5日後の午前中くらいかな? 勿論、何にもトラブルが無かったと仮定したらの話だけど』


 人間って弱いからねー、とでも言いたげな口調で情報を横流しにするルルシエ。事実として零れるその感情は、決して人間を蔑ろにしたい訳では無い。寧ろ、可愛らしさや親心に近い慈しみの感情によって形成された微笑ましさであり、何方かといえば人間の力に寄り添った感情なのだ。

 しかし一方で、心には寄り添えていない辺りは実に悪魔らしいとも言えるだろう。上位種族として持って生まれた、所謂本能としての上から目線なのだ。一切の悪意が込められていないそれは、しかし悪意が込められていないからこそ一切の遠慮も忌憚も無く事実を淡々と提示する事が出来るのだ。

 事実、人間は神の子の価値観を基準にすれば非常に弱い。しかしそれ以上に、ヒトの子全体で見ても取り分け強い種族ではない。ちょっとした事で直ぐに弱るし死滅する。とても自然世界では真面に生きていく事は困難だろう。ましてや現在の様な社会性を身に付けてしまえば尚の事である。

 故に、ちょっとした要因で行軍の予定等あっという間に崩れ去ってしまう。天候、災害、猛獣、そして魔獣。その原因など枚挙に挙げれば暇が無いだろう。凡ゆる原因のほんの一端を前にしただけでも、人間という牙城は非常に矮小なものへと成り下がってしまうのだ。

 故に、アルピナの脳裏にはそれらを受けた事による計画の乱れが生じる可能性が何よりもの懸念事項として浮上している。別に情が移った訳では無く、ジルニアとの約束を早急に果たす為にもそんなくだらない事で足止めを食らいたくなかったのだ。

 しかし、アルピナと雖も所詮は神の子でしかない。神の様に森羅万象に通じている訳では無い為、自然災害が相手では如何頑張っても抗う事は出来ない。自然という母には一介の子では到底及ぶ事が出来ないのだ。

 しかし、彼らが可能な限り順調な行軍が出来る様に最低限の支援だけはする事が出来る。彼女の様な一介の神の子であっても介入出来る箇所だけに限るものの、しかし何もせずに只座して待つよりはよっぽどマシだろう。

 しかし、おんぶにだっこで全てを見繕う訳では無いとは雖も、態々人間の為にお膳立てしてあげるのは中々如何して面倒なもの。それでも、そんな気持ちをグッと堪えてアルピナはルルシエに対して一つの提案を送る。それは、悪魔の長たる悪魔公アルピナとして新生悪魔ルルシエへ贈る細やかなプレゼントにして英雄を支援している事に対する慰労報酬でもあった。


『成る程。しかし幸いにして、この様子を見る限り暫く天候は崩れないだろう。魔獣に関しても同様だ。聖獣にしろ魔物にしろ、彼らから主体的に君達が襲われる事はあり得ない。不安なら此方から釘を刺しておく事も吝かでは無いが、態々そこ迄しなくても君なら大丈夫だろう?』


 フッ、と冷徹な笑みを零しつつ、アルピナはルルシエの心に問いかける。態々聞く迄も無い事だろうがな、と自分自身を嘲笑しつつ、しかし何処か温かみの灯る視線で王都に思いを馳せる。表面化する態度と魂に絡み付く本心との乖離を無視しつつも、相変わらずのお人好しな自分自身の甘さに対して唾を吐く様に嗤い飛ばすのだった。

 しかし、不思議と悪い気はしなかった。勿論それが悪行ではない為だというのもあるだろうが、それ以上に不思議と自分らしい様な気がした。そんな自分など今直ぐにでも否定してしまいたかったが、その思いをグッと堪えて保留する。今回ばかりは見逃してやろうという、ちょっとした気まぐれとしての彼女なりの遊び心だった。

 一方、そんな彼女の言葉に対して分かり易く面喰っていたのはこれ迄聞き役に徹してきたスクーデリア達だった。アルピナの気持ち悪い程の優しい声かけに対して、彼女達は挙ってポーカーフェイスを崩して魂の底から瞠目した。

 それ程迄に、今し方のアルピナの発言はアルピナらしくなかったのだ。まるで頭を打って頭がイカれてしまったか全くの他者とすり替わってしまったのではないか、と疑ってしまう程に、その発言はこれ迄積み重ねられてきた彼女の性格から大きく乖離していたのだ。

次回、第223話は5/8公開予定です。

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