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ALPINA: The Promise of Twilight  作者: 小深田 とわ
第3章:Mixture of Souls
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第213話:謝罪

 しかし、二柱は揃って彼女のそんな心情を追求する事は無い。気心知れた相手である為に、特別出来無い事は無い。しかし、それを態々する道理も無いという事もあってか直接的に言語化する事は無かった。敢えて其々の心中に独立する形で、その確信は静かに眠りに就く事になるのだった。

 尤も、そんな事は三柱とも承知の上である。アルピナがそれを思っている事も、それを二柱が認識している事も、そして二柱が認識している事をアルピナが認識している事も、そしてそれもまた二柱に歯百も承知である事も。全て双方向に向けられる信頼という紐帯によって確立された強固な結び付きによって保障されている。人間達には到底経験する事も出来無ければ創造する事すら出来ない久遠の時は、しかしその長さに見合うだけの効力を確かに発揮してくれていたようだった。

 そんな彼女達による仲睦まじい姿を見ると、とても彼女達が悪魔と呼ばれる種族とは思えない。悪魔とは神話に於いて天使の敵として人間社会を侵略した悪の象徴とも呼べる様な立ち位置として存在している。しかし、とてもそうとは思えない平和的で人間らしい光景にしか見えない。クオンも、彼と共に並び立っている少年も、ただただ彼女達を遠目で眺める事しか出来なかった。

 それでも、少年は兎も角クオンは無言で立ち尽くすわけにはいかなかった。アルピナと同じく集合に遅れた身の上として、一応の謝罪意志だけは見せておくべきだった。きっとクィクィの事だから本気で怒っている訳では無いだろうし、抑としてそれ程酷く遅くなった訳ではない。それでもの誠意は必要だろう、という彼なりの性格的要因に基づき、彼アルピナと肩を並べる様にしてクィクィと向き合う。

「わるいな、クィクィ」

 クオンは最低限必要な誠意を残しつつも、しかし普段と変わらないだけの気楽で身軽な態度を残存させた口調と声色で謝罪を口にする。それは最低限の言葉数でしかなかったが、しかしそれでもクィクィに伝えるには十分すぎるとクオンには確信できた。

 しかし、過度な思い込みは時として感情のすれ違いや齟齬が生じるもの。不必要な簡略化や省略をする事無く全てを詳らかに伝える事こそがコミュニケーション上は大切かも知れない。それにも拘らず、不思議とこの一言だけで十分だと思う事が出来たのだ。

 尤も、クィクィは悪魔である。外見こそ10代前半から半ばにかけての少女の様にしか見ないが、その本質は凡ゆるヒトの子を凌駕する老練なもの。その上、その種族的特性からただ単純に頭脳明晰でもあもある。それこそ、仮令悪魔にとって程専門的ではは無い知識であったとしても、並処か大抵の専門家以上の水準は確保されている。

 故に、クオンが思っている以上に、悪魔達に対して向けられる凡ゆる言動は悲惨な結末へと向かう事が無いのだ。多少の齟齬や語弊なら彼女達の知識や本能では修正されるし、悪意や害意も彼女達の力には及ばないのだ。只でさえクオンは彼女達にとって大切な仲間であるが、その事を踏まえてもクオンお心配は全て杞憂となるのは確実だろう。

 対して、それを受けるクィクィもまた当然の事乍らそんな事は認識しているし理解もしている。只でさえ悪魔という上位種族である上にその中でも取り分け人間好きで人間に対して造詣が深いのだから当然だろう。これで逆に人間の事を何一つとして理解できてきなかったら、これまで何をしていたんだと聞きたくなってくる程だ。

 勿論だが、それは理解していて当然だろう、と言いたいだけの一方的な期待という訳では無い。彼女の事をよく知っていて更に信頼しているからこそ抱く事が出来る確信に由来するものである。その為、そこには一切の傲慢さは込められていない。

 だかこそ、クィクィはクオンに対して穏やかで可愛らしい微笑みで見つめ返す。同じ年頃の人間の少女と比較しても頭一つ飛び抜けた可憐さを有する彼女の笑顔は、それだけで心の奥底に燻る負の感情を吹き飛ばしてくれるだけの効力を有していた。

 きっと、それに見つめられて惚れない人間はいないだろう。下心の有無は兎も角として、その屈託のない満面の花畑の様に可愛い笑顔を前にすれば誰もが頬を染める事は確実だろう。尤も、その外見年齢を考慮すれば周囲からは不審な目で見られかねないという危険もまた併せ含んでしまうのだが。

 また、悪魔という種族である事に疑問を抱いてしまう程の彼女の笑顔は、宛ら天使の様でもあった。敵対している種族を引き合いに出すのは単純に彼女に対して無礼な気もするし申し訳無い思いを抱いてしまうが、しかし脳裏に浮かぶのは創作物上に頻出する純粋で清廉潔白としている方の天使の事。決して、現在敵対している抗争相手である輪廻の管理者たる天使の事ではない。

 しかし、不思議とクオンには彼女に対して特別な感情は浮かんでこなかった。別に彼女の事が嫌いな訳でもないし、彼女の容姿は普通に可愛い方だとは思っている。しかし、彼女に限らずアルピナやスクーデリアに対しても同様な事を踏まえれば、きっと種族が違う事を理解しているが故なのだろう。姿形は大差無いしアルピナの発言を基にすれば恋愛関係が結べない訳では無いのだろうが、自然と遠慮してしまうのはのは恐らくそういう事なのだろう。客観的な根拠や確証は無いが、そういう事にしておく以外の答えは現状のクオンには見つからなかったし探す積もりも無かった。

 抑、現状を考慮すうればそんな事にうつつを抜かしていられる程の心理的余裕はクオンの心にはまだなかった。師匠の敵討ちという当座の目的を果たす迄は、如何してもそれが出来るとは到底思えなかった。

 そんな思いは兎も角として、クオンはクィクィからの返答を待つ。まさか攻撃意識を向けられる事は無いと信じているものの、種族の違いか或いは天真爛漫な性格のお陰か、未だに彼女の心情や言動に対して予測が出来なかった。それは時間にして僅か刹那にも満たない極僅かな時間だったが、クオンにとっては非常に長い時間に感じられて堪らなかった。

 そして、そんなクオンの心配乃至気苦労を余所にクィクィは花の様に華やかな笑顔を浮かべる。まるでルシエルの精神支配から救出してくれた時の様な華やかさと無邪気さを前にして、クオンの不安は非常にちっぽけなものへと成り下がってしまう。

次回、第214話は4/29 21時頃公開予定です。

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