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ALPINA: The Promise of Twilight  作者: 小深田 とわ
第3章:Mixture of Souls
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第210話:支度

 なお、現時点でセナ達が把握している限りにいてその上位三隊からは最低二柱程が王城に出入りしているらしい。此方こちらから手を出しても勝てない事は明白な為に余計な事はしないが、彼方あちらとしても余計な荒波を立てたくないのか接触してくる気配は無かった。それでも、何時いつ接触してくるか分からない手前、人間と話す際はその都度魂を鑑定する必要に迫られた。

 しかし、如何どうやら今回はそうでは無い様だ。魂を見る限りただの人間らしい。秘匿されたら看破出来無いものの、取り敢えず今はそれを信じるしか無いのだ。安堵しつつも怪しまれない程度に最低限の警戒心だけを保ちつつ、彼らは声の主の方へ向き直る。 

 改めてその目で直接観察しても、やはり何処どこも不審な点は見受けられないただの人間。四騎士序列第三位ガリアノット・マクスウェルその人で間違い無い様だった。頭の先から足の先に至るまでの一挙手一投足が彼の人間性を主張していた。神の子にありがちな不審な動作というのは観察出来無かった。もっとも、ずっと以前から人間社会で暮らしているが故に身体が馴染んでいるのだとしたら、その観察眼は全く以て意味を成さなくなるのだが。それでも、何もせずただ為すがままに信頼を預けるよりはずっとマシだろう。

「はい、マクスウェルさん。如何どうされましたか?」

 適度な緊張感と適度な気楽さを両立させながら、アルバートはガリアノットに問いかける。会議は既に終わっている為、公的な場で用いられる程の堅苦しい敬称や態度を保つ必要は無いだろう。別に相手を見下している訳でも無ければ侮辱しようという意図は込められていない。単純に、そんな堅苦しい態度は如何どうしても息苦しいだけなのだ。一応、公的な場や国王陛下を始めとする圧倒的上位者の前では我慢しているが、そうで無ければ極力気楽な態度でいたかったのだ。

 何より、アルバートの魂は既にスクーデリアに売り払われている。つまり、彼の心身は全てスクーデリアの掌の上に掌握されている事と同義である。それは言い換えれば、アルバートにとっての目上の存在が人間ではなく悪魔へと変更されているという事。その為、より正確性を求めるのであれば彼は現在人間に対して敬う様な態度を見せる必要は無い。単純に悪魔達に対してのみへりくだればそれで問題は無いのだ。

 故に、人間達に対して恭しい態度を放棄しようとする事はあれども、契約主であるスクーデリアやそれに近しい位階の悪魔に対しての態度は何があろうとも崩す事は無い。唯一ルルシエに対してのみ、気楽で気さくな友人同士の様な対等な関係性を築けている。それでも、一応はセナ相手でもスクーデリアを相手にする時程では無いにしてもそれなりの態度を保つ様にはしているのだ。

 もっとも、彼がそれだけ悪魔相手に礼節を欠かさないのは純粋な恐怖に基づく服従の意志も微かに込められているのかも知れない。かつてレインザード攻防戦にいて心を折られて契約の機会を与えられた上に、そもそもとして忠誠を対価にしている事からも逆らう事が出来無かったのだ。

 なお、契約主であるスクーデリアとしては、規則上の理由から手弁当で力を授ける訳にはいかなかった為の取り敢えずの対価として求めただけに過ぎなかったらしい。その為、それ程徹底して欲しかった訳では無かった。故に、もっと肩の力を抜いて気楽になった所で実際の所は何一つ不都合は無かった。それでも、一応は対価として受け取った手前止めさせる訳にもいかず、何より単純に面白いという理由から敢えて放置しているのだった。

 そんな事を露と知らないアルバートは、今後とも関係性が続く限りは忠誠を誓い続ける覚悟はうに出来ていた。その為、こうして表向きは同格に位置に付けられているセナに対して中途半端(なが)らも礼節を保っている事に苦痛や不満は一欠片も抱いていなかった。

 しかし、人間社会で暮らすに当たっては過剰なまでの堅苦しい礼節を保っている方が却って不審に思われていただろう。そう考えると、現状の様に人間相手に適度な緊張感と適度な気楽さを両立させているのはセナに対する中途半端な恭しい態度を隠すには思いのほか打って付けだったのかも知れない。

 一方で、そんな偽りの英雄達が背後に秘匿している事情を何ら知る事の無いガリアノットとしても、それは大して気にもならない些末事だった。そもそもガリアノット自身の性格上、そんな堅苦しい上下関係は煩わしいと思っているタイプだったというのもある。それに加えて、一応は外部から招いた助っ人扱いの英雄を軍の中でも無いのにガチガチの規律と礼節で縛れる程に厚顔無恥になった覚えは無かったのだ。仮にそれで愛想を尽かされて出て行かれでもしたら王国にとってこの上無い大打撃である。そんな事をする性格では無いとガリアノットとしては思っているし、アルバート達としてもそんな事をする積もりは一切無かったが、一応はそれを避ける名目もあって比較的自由にさせているのだ。

 双方が其々《それぞれ》独自の意図と目的を持って互いの態度に対して気付く気配の無い現状。予期せぬ所で偶然にも歯車が綺麗に噛み合っているのは完全な偶然の産物だったが、結果的に上手く歯車が回っている限りにいてはそれで良いだろう。このまま何事も無く互いの本心に気付く機会に恵まれない事を願いつつ、それらしい矜持乃至(ないし)愛想の仮面ペルソナを貼り付けて双方は向顔したのだった。

 改めて見てみると、英雄と呼ばれるには何と若い事だろうか。ガリアノット自身それ程年老いた覚えは無かったが、それでも彼ら英雄達を見ると自分が何年も権力にしがみ付こうと躍起になっている老害になった様に感じてしまう。アエラやエフェメラを初めて見た時に浮かんだ感想を久し振りに思い出し、むしろ懐かしさすら浮かんでくる様だった。それでもすぐさま真剣な仕事人としての顔を取り戻すと、ガリアノットは小さく息を吐く。と言っても別にそれ程神妙になる必要は無く、最低限の真剣さ以外は全て気さくで鷹揚な態度で構成されていた。

「早速で悪いが、出立の支度をしよう。少しでも早く到着する為にも、可能な限り早く出立したいからな。王立軍や俺の部隊には俺の副官から既に伝達されてるから、後は俺達の支度さえ終わらせれば何時いつだって出立出来るだろう。急かす様で悪いが、お前さんらも早速支度に取り掛かってくれ」

 悪いな、とやや申し訳なさそうに伝達するガリアノット。しかし、そんな彼の言葉に反してアルバートもセナも不満は一欠片たりとも抱いていなかった。むしろ、何処にそんな申し訳無さを抱く要素があるのだろうか、とすら感じてしまう始末だった。

 それ程(まで)に、ガリアノットの行動は迅速を極めていた。〝兵は拙速を尊ぶ〟だとか〝兵は神速を尊ぶ〟などという言葉が蒼穹を超えた先にある別の世界にいる人間の文化文明にあった様な気がする、とセナは記憶しているが、まさにそれを体現するかの様だった。この世界にも類似乃至(ないし)同様の言葉があるのかまでは把握し切れていないが、あった所で何ら不思議では無いだろう。

 なお、セナ及びアルバートの共通予測としてはもう少し時間が掛かると思っていた。どれだけ急いでも1時間程度は要するのだろうな、と根拠立てる事無く適当に目算していた。あるいは、もっとこの国の軍隊組織に精通していたとしても、それ程予測時間は変わらなかったかも知れない。

 しかし、蓋を開けて得られる結果はその予測を大きく下回るもの。これにはセナもアルバートも手放しで称賛出来てしまう程だった。仮に神の子なら特別な装備が必要ない為、それは当然として切り捨てられただろう。しかし、人間達は相応の武器防具及び補給を用意しなければならないのだから、それを踏まえれば十分過ぎるのは仮令たとえこの国の軍事組織に詳しくない者でも当然の事(なが)ら理解出来る事だった。

次回、第211話は4/26 21時頃公開予定です。

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