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ALPINA: The Promise of Twilight  作者: 小深田 とわ
第3章:Mixture of Souls
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第204話:英雄の不安

 そもそも、セナ達が英雄として人間社会に潜入している目的は大別して二つ存在している。一つは、人間社会に潜入する事により人間達の動向を把握する事。そしてもう一つは、四騎士エフェメラ・イラーフやセナ達と同じく人間社会に潜伏している天使を監視及び牽制する事。

 もっとも、前者に関しては態々《わざわざ》目立つ地位を獲得してまでする必要は本来無い。やろうと思えば誰にも見つからずに潜伏する事だって出来るし、動向に関しても適当に魂を覗き見ればそれで済む話なのだ。それでもエフェメラや天使達を監視及び牽制するには極力枢要に食い込んでいる方が都合が良い上に、何より情報の収集漏れに伴う不測の事態は極力減らしたかったのだ。

 つまり、自分達英雄が王都を留守にしている間のエフェメラ及び天使達を監視及び牽制出来る者が誰一人としていなくなってしまう事が非常に辛い悩みの種なのだ。別に監視の目が全く行き通らない訳では無いのだが、現在王都に潜入している悪魔と言えばセナ以外は全員漏れなく新生悪魔しかいないのだ。

 その為、新生悪魔程度の実力では監視こそ出来れども全く以て彼ら天使に対する牽制としての作用を持てないのだ。その上、仮に向こうが何らかの動きを見せた場合にそれを止められるだけの力を持たない事もまた問題である。神の子がヒトの子を軽くあしらう様に、新生悪魔達もこぞって容易に返り討ちに遭うのが関の山なのだ。

 しかし、いくら問題点を把握出来ておりその改善手段が明確化していようとも、セナ達にはその手段を実行する事は出来ない。その理由は単純に、それを実行出来るだけの悪魔が不足している為。天使達の牽制として十分な効力を持つだけの実力を持つ悪魔が、現時点では全員揃って手が離せないのだ。

 そもそも、神龍大戦終結時点で生き残っていた悪魔は僅か五柱のみ。なお、他世界の悪魔も総動員して大戦をしていた都合上その五柱とは他世界を含めた全悪魔の総数となる。その後10,000年かけて増えていった新生悪魔を除けば、現時点で復活した悪魔は現状ではセナ達しかいない。

 しかし、アルピナの予想ではもっとそれなりの数が復活しているはずだった。それにもかかわらず、何故か大戦終結以降に復活した悪魔は僅かそれだけしかいなかったのだ。一応、復活した悪魔は全員この世界に来る——各世界の転生の理に関する業務全てを新生悪魔に委ねるか、転生の理を一時的に停止して天使達の輪廻の理に魂の管理を全て丸投げする——ように伝達している。その為、本当にこれで全てなのだ。アルピナの影響力を考えたら誰も逆らう筈が無い、というのは彼女を知る誰もが首を揃えて頷く事。幽霊や鬼が悪い子の躾に利用されていた様に、彼女やセツナエル及びジルニアもまた新生神の子の躾に度々利用されていた事は非常に有名。その為、今更それを疑う必要性は無いだろう。

 そして肝心の復活済みの悪魔だが、セナがこうして英雄として王都にいる事を除けば他は全員カルス・アムラに滞在している。そこに滞在している全龍人に宿る龍の血を覚醒させる為に、あらゆる戦力を総動員しているのだ。

 しかし、別に今すぐにでも必要となる人員ではない——少なくともヴェネーノとワインボルトを救出して龍魂の欠片を揃えた後になるだろうとアルピナとスクーデリアは予測している——為、少しくらい持ち場を離れて王都の応援に向けても良いのではないか、とつい思ってしまう。それでも、アルピナはエルバ達を王都の応援要員として向かわせる事は現状していない。それに関して誰も確固たる証拠は持っていなかったが、それでも何となく察しはついていた。例に漏れずクオンとアルバートだけは知らないが、それはアルピナとセツナエルの過去を知っていれば誰でも思い至る予測。微笑ましさすら感じてしまう程にほのぼのとした温かい信頼により、それは決定されていたのだ。

 それでも最悪を防ぐ為に、人員不足に伴う王都監視役の不足を如何どうにかしない事にはセナ達として気軽に王都を離れられる気持ちに離れなかった。かといってそれを表立って発言する訳にもいかず、如何どうにか出立前までに解決策を生み出さなければならなかった。その為、一見して平然としている様に見えてもその裏では精神感応テレパシーを用いた綿密な会議の網が構築されているのだ。

 しかし、これまでも別に監視していた訳では無いのだからそれ程気にしなくても良いのでは、とも思えるだろう。実際それは正解であり、アルピナもスクーデリアもそう思っていた為に大して対応策を用意していなかった。それでも、当事者として王都に潜伏している立場として如何どうしても気になってしまうのは、ある種のさがの様なものなのだろうか。セナもアルバートもルルシエも、不完全燃焼状態の薪が一酸化炭を撒き散らす様に不安心を魂から湧出させていた。

 如何どうしたものか、と悩めどもその答えは一向に出て来ない。そもそも、人数が足りていないのだ。物理的に手数が不足しているのだから、対処の策が無いのは当然なのだ。その為、セナ達が出来る事は単純に諦める事のみ。何ともる瀬無い気もするが、アルピナ達が具体的な対応策を用意していないのだからそれで良いのだろう。何かあれば彼女達に責任を押し付ければ良いというのもある——アルバートは当然としてルルシエもセナもそんな事をする勇気はない——が、それは彼女達への信頼の裏返しだろう。

 その為、彼らはそんな不安を適当な所で思考から完全に放棄する。改めて眼前の人間達の魂をこっそり開いた魔眼でつまびらかにしつつ、彼らの動向を窺う。と言っても、作戦はほぼ決まった様なものであり、今更何かを議論しようという意思は誰一人として持ち合わせていなかった。後は単純にこの中で最も権力を有している国王の最終決定さえ済めば、それで終了といった所だろう。

 それは彼ら人間達の共通認識にも当然の様に挙げられている。彼らは魔眼を持ち合わせていなかったが、それでも場の空気を読めばその程度の事は容易に想像が付く。何より、勝手知ったる仲間乃至(ないし)同志である。ある程度の事であれば態々《わざわざ》声に出さずとも想像が付くというものだ。

 何ら不思議な所は無い純粋な信頼関係によって齎されるそれは、時として魔眼を始めとする彼ら神の子の瞳とも対等に渡り合えるだけの力を持つ。何とも不思議な仕組みだが、かといって特別驚くべき要素がある訳では無い事もまた事実。

 というのも、人間達にそれが出来るのだから神の子である悪魔達に出来ない道理は無いのだ。ヒトの子の完全なる上位種族として存在する神の子であるからこそ、ヒトの子に出来て神の子に出来ない事はほぼ無い。全く無い、と言い切れないのは何とも悲しい事ではあるが、態々《わざわざ》虚飾して自身を大きく見せ様とする程に神の子達の心は弱くない。偽りで糊塗された虚飾の器程醜いものは無い、と誰もが本能の様に把握しているのだ。

 なお、ヒトの子に出来て神の子に難しい要素の代表例は何か、と問われたらそれを問われた者によって微妙に回答は異なるかも知れない。それでも、ほぼ全員が漏れなく真っ先に浮かび上がらせるのは恋愛関係だろう。

 神の子は基本的に、個人的感情に基づく特別な関係を持たない。そもそも、恋愛とは子を成して種族としての連続性を未来永劫に亘って保とうとする種としての本能に由来するものだ。快楽や幸福を得る為という要素もあるかも知れないが、それは恋愛乃至(ないし)種の繁栄に対する報酬、即ち正の強化に他ならない。

 それに対して、神の子は子を成さない。新たな命の誕生は全て、各界に存在する“生命の樹”を母体として行われる自律的な現象。つまり、ヒトの子の様に恋愛や交尾を伴わない方法によって種の繁栄は齎されているのだ。

次回、第205話は4/20 21時頃公開予定です。

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