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ALPINA: The Promise of Twilight  作者: 小深田 とわ
第3章:Mixture of Souls
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第200話:王国最強騎士の座

 というのも、神の子から与えられただけの力を振りかざして偉そうにするのは流石の彼としても申し訳なかったのだ。勿論もちろん、魔王との繋がりや悪魔の存在を公にしない為にも魔力を隠す必要があったからというのもあったが、取り分けその思いにより彼は意識的にそういった力を抑え込んでいたのだ。

 それと同時に、セナもまた当然の事(なが)ら彼の前では悪魔としての力は一欠片も零す事無く完璧に秘匿していた。公式上の英雄像をそっくりそのまま表出し、ただの人間でしかないガリアノットの力に対してただの人間として正面から向き合ったのだ。

 勿論もちろんそれでも、セナの力量は英雄として称賛と羨望の眼差しを受けるに相応しいだけの代物をそなえていた。仮令たとえ魔力の使用を封じられて純粋な力のみで戦う事を強いられたとしても、彼の実力は並大抵の人間からは大きく逸脱していたのだ。

 それこそ、同じく魔力の使用を封じられたアルバート程度なら軽く一蹴出来る程には両者の実力は掛け離れていた。余談として、そもそもヒトの子は逸脱者の第二段階である英雄の領域まで到達してようやく新生神の子より少し下の力しかない。その為、幾ら魔力を封じていようともこの結果は何一つとしておかしい所の無い至極当然のものではある。

 公式上は同じ英雄の筈だがとてもそうとは思えない程の両者の格差はそういった単純な種族差もあるだろうが、それに加えて流石は経験豊富な悪魔だからというだけの事はあるだろう。この星の暦を基準にした正確な年数はぐに出て来ないが、大雑把に数えて6.0×10^7(60,000,000)年程度だろうか? 人間種(どころ)あらゆるヒトの子、それどころあらゆる世界が神により創造されてから現在に至るまでの時間より遥かに長い時間は最低でも戦っているのだ。神龍大戦を経験した彼に経験で匹敵出来る人間は存在しないのだ。

 そんな彼ですら手放しで称賛出来る程に、ガリアノットの実力は素晴らしいものだった。人間としてはこれ以上無いと称しても良い程に洗練された技量は、さながら芸術作品の様でもあったのだ。見ていて惚れ惚れしてしまうそれは一見して直情型の直線的機動の様。しかし、それに反してその一手一手は緻密な権謀術数が張り巡らされていた。

 これならあらゆる兵士を差し置いて王国最強騎士の座を保有していても何ら不思議ではないだろう、とセナとしても十分に納得出来る程の確信を得られたのだ。当然それは、他の兵士が余りにも弱過ぎると言いたい訳では無い。勿論それも理由の一つではあるのだが、純粋に彼が強いだけなのだ。

 ワザとらしい称賛の様にしか聞こえないかも知れないが、それこそ何故英雄乃至(ないし)逸脱者の領域に到達出来ていないのかが不思議な程なのだ。もう少しでその壁も破れそうな程には惜しい所まで到達出来ているのだ。

 しかし言い換えれば、所詮はそのレベルでしかないという事でもある。どれだけ手練手管を凝らし、どれだけ権謀術数を張り巡らし、どれだけ血の滲む様な努力に人生を捧げようとも、それは所詮ヒトの子でしかないという事だ。持って生まれた差を覆す事は、一個人の努力程度では如何どう足掻いても決して出来ないのだ。

 故に、彼の実力はセナは当然としてアルバートにすら遠く及ばない。忌憚無く言えば、魔王と邂逅する前のアルバートにすら及ばず、更に言えばルシエルの精神支配を受けて純粋なヒトの子であるカーネリア・クィットリアとして活動していたクィクィにも及ばないだろう。体格差——カーネリア、即ちクィクィはアルピナやセツナエルより更に小柄で身長は150cmにギリギリ届かない程度しかない——を考慮すれば勝てそうな気もするが、少なくとも確実とは言い切れない程度には地力の差が開いている。その為、アルバートもセナも合同訓練の際は、対等な実力を演出する為にかなり力を抑制する羽目になってしまった。

 それでも、彼は王国最高の騎士として他者の目標となるべく足掻き続ける。もっとも、それはそういった世の理を知らずアルバートやセナの真実を知らないからこそ為せるものかも知れない。しかし、彼の強靭な精神力なら仮令たとえ真実を知ったとしても決して不貞腐れる事は無いだろう。むしろ、上には上がいる事を知って更なるやる気に満ち溢れる可能性の方が余程高いだろう。

 しかし、彼は現在46歳。つまり、肉体的な全盛期はとうに過ぎ去ってしまっているのだ。その為、これから先に今以上の実力を獲得するのはハッキリ言って難しいだろう。それこそ天羽あもうの楔なり祝福なり契約なりで聖力乃至(ないし)魔力を授かれば話は別である。時の流れに逆らう事は出来ない為に肉体を若返らせる事は不可能だが、老化に伴う肉体の劣化を補う事なら余力を持って出来る。実際、アルバートもクオンも魔力を返却しない限りは仮令たとえ何十年何百年であろうとも寿命を迎えない限り肉体を全盛期相当に維持出来る。

 なお、魔力をどれだけ授かっても肉体が悪魔と同一のものへ変質しないのは、魂と肉体には二つで一つの原則が作用する為。魂が肉体を変更出来るのは輪廻乃至(ないし)転生の理に乗せられた時に限られ、更に一度記憶を全て洗い落とす必要があるのだ。それ以外による肉体の変更は違法行為である為、あくまでも肉体レベルは変質する事無く維持程度に留まってしまうのだ。

 それでも、彼がそうして肉体の全盛期を保てたらまた違った歴史をこの国は歩む事が出来たかも知れない。魔獣被害をゼロにする事は到底不可能だが、それでもある程度であれば安全が拡大していたかも知れない。しかし、それをした所で何一つメリットも無ければ大した面白みも無い彼相手に、誰も力を授ける事は無いだろう。

 それこそ、クィクィですら彼にはあまり興味を示さないかも知れない。勿論もちろん、別に彼を差別している訳では無い。単純に心がワクワクしないだけだ。それも明確な根拠や客観的な理由が伴う訳では無い。確かに彼は強いし愛嬌があるし教養もある。社会的地位も不足していない為、一緒にいて不便する事はまず無いだろう。

 しかし、何故か興味が湧かないのだ。神の子達ですら不思議に思う程に、何故か一切の興味が湧かないのだ。それは言うなれば〝別に欠点や短所がある訳では無いしむしろ素敵だと思うけど恋愛対象としては見られない〟様なものだろうか。神の子は基本的に一個人に対して個人的感情に基づく特別な心情を抱く事は無いが、それでもこういった所は何とも人間臭かったりするのは実に不思議な生態をしている。

 そんな神の子達の心理的事情は兎も角として、そんな彼は未だ王国軍内にいて自身に勝る者無しの状態を保持している。年齢に伴う老化や時代の移ろいに伴う技術の新規開発や向上乃至(ないし)改善を考慮すれば、彼が積んでいる努力の凄まじさが暗に窺い知れるものだ。あるいは、そんな彼にすら打ち勝てない肉体的全盛期の若者兵士達が不甲斐無いと言うべきなのかも知れない。

 実際、ガリアノットとしては自身の後継者に相応しい人材を可能な限り早く選定したかった。四騎士の不文律上の定年(まで)はまだしばらくあるものの、それでも彼が後継者探しを急ぐのは彼なりの理由があったのだ。

 というのも、彼は四騎士の中では取り分け武官としての側面が強い。四騎士筆頭としてあらゆる内政に干渉しているグルーリアスや、平時は財務関連の最高責任者を兼任しているアエラ、天巫女として宗教の頂点に立って信徒を導いているエフェメラと異なり、彼は平時であっても王立軍の最高司令官を務めている。その都合上、どうしても軍事関連を全て担わざるを得なくなってしまうのだ。

 そこで問題になるのが、人間的な老化だった。それは、仮令たとえ天地が逆転しても解決のしようがない深刻な問題として彼の頭を悩ませている。常に動き続ける職業柄、如何どうしても他の内政業務と異なり老化の影響をもろに受けてしまうのだ。

次回、第201話は4/16 21時頃公開予定です。

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