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ALPINA: The Promise of Twilight  作者: 小深田 とわ
第3章:Mixture of Souls
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第195話:最悪の考慮

 事実、レインザード攻防戦では多数の魔獣が町の中を跳梁跋扈ちょうりょうばっこし、それの処理に追われて魔王(どころ)の話ではなかった。無限にいるのではないか、と思わせてくれる程に次から次へと現れる魔獣の処理に追われたのは今でも嫌になる程には面倒だった。

 そんな魔獣達の処理に、手持ちの戦力の大半を費やす必要があったのだ。それは、ただ単純な数的問題によりそうしなければならなかっただけではない。勿論それもあるのだが、何より戦闘力的な問題が大きかった。アエラ、アルバート、セナの三人はそうでもなかった――アルバートとセナに関しては立場上当然の事とも言える――のだが、それ以外の一般兵士では魔獣を相手取る事すら覚束おぼつかなかったのだ。

 一人で数体の魔獣を蹂躙出来れば対魔王用にいくらかの戦力を割く事も出来たのだが、現実としては魔獣一体につき数人の兵士を必要とした。それでは魔王様に戦力を割くどころの話ではない事は誰でも理解出来る。それこそ、軍事に関して完全なる門外漢である貴族達ですら理解出来る程だ。

 果たして、そんな状況にも拘わらず最少人数で赴いても良いものだろうか。仮に魔王達だけしかいないのであればそれでも良いのかも知れない。しかし、状況は常に最悪を想定しておくべきである。つまり、レインザード攻防戦の際と同様に多数の魔獣が町を侵犯しているという状況だ。

 そして、仮にそうなっていた場合に必要となるのは魔獣を駆逐出来るだけの十分な戦力。それも、英雄達を対魔王用の戦力として動かした状態での話だ。英雄の力無しに魔獣を相手に十分有利な立ち回りが出来るだけの数的余裕ともなれば、それこそ最少人数でという訳にはいかないのは確実。

 仮に、ベリーズはレインザードよりは小さい町だから魔獣の数もそれに合わせて少なくしてくれる、という勝手都合な解釈をしたとしても条件は変わらない。常に最悪を想定して動く事を基本とする以上そんな自分勝手な思考はすぐさま捨て去ったが、しかし事態が好転する事が無いのは辛い事だった。

 しかし、何とも非情な事だろうか。彼ら人間達は魔王に加えて魔獣が多数存在している可能性を考慮乃至(ないし)憂慮しているが、現実はその正反対。彼らが言う魔獣とは即ち聖獣()しくは魔物の事を指すが、現時点でベリーズ及びその近郊にはその何方どちらも一体たりとも存在していない。

 その内、魔物達はアルピナの指示で人間の生活圏から極力離れる様にしている。その上一部は、エルバやアルテア達悪魔がカルス・アムラで行っている龍人達の修行の相手役を手伝う為にアルス・アムラにいる。龍人の内奥に眠る龍の血を覚醒させる為に行われているその修行をより効率良く行う為に、彼らは非常に都合が良かったのだ。

 そして、聖獣達はベリーズ近郊には近付きたくても近付けない状況に置かれている。アルピナ達がベリーズ周辺にその存在感を振り撒いている為に、彼らは警戒心やそれによって齎される生存本能によって萎縮してしまっているのだ。それに加えて、バルエルやレムリエルも聖獣達には暫くベリーズに近付かない様に伝達している。

 故に、ベリーズは今や魔獣被害の観点から見れば最も安全な町となっているのだ。それこそ、滅亡前のラス・シャムラを軽く凌駕出来る程度には安全性が担保されていると言っても過言では無いだろう。と言っても、それはあくまでも天使や悪魔による抗争の被害に目を瞑ればの話ではあるのだが。

 しかし、彼ら人間達がそれ程までに悲観的思考に陥ってしまっているのは仕方の無い事だろう。彼らは現在俎上(そじょう)に乗せている事態の本質を何一つとして把握出来ていないのだ。天使と悪魔による抗争が行われていてその副産物が厄災の様に人間社会に降りかかっているだけなのだ、と理解出来ていないのだ。

 もっとも、それを理解しろという方が無理な話だろう。天使や悪魔という神話上の存在の実在性に対する思想は、今や半々といった所まで落ち込んでいる。人類文明全体でみればギリギリそれらの実在性を信じる方がマジョリティではあるが、国によってはマイノリティへと成り下がってしまっている所もそれなりに多い。

 そもそも、天使や悪魔達が10,000年もの間地界に表立って降り立っていなかったのが本質的な原因だろう。定期的にその存在を周知させていたらこんな事にはならなかったはずである。その実在性を認識し、魔王の裏に隠れた真相を欠片でも認識する事が出来れば、また違った道を歩めたかも知れない。

 更に言えば、神龍大戦などと称して天使と悪魔で抗争を起こさなければ初めからこんな事にはならなかったのは確実だ。天使と悪魔の抗争に伴う流れ弾がこれだけの被害を生んでいるのだから、そもそも彼らに戦う意思が無ければより平和的な世界がただそこに存在するだけだったのだ。

 しかし、現実問題としてそれが起きてしまった事は決して覆しようがない。過去を変える事は仮令たとえ神であっても不可能であり、結果としてのそれを受け止めるしかないのだ。それでも、天使長と悪魔公の対立から始まった喧嘩とそれの調停役として参戦した皇龍を起点として始まった大戦は、人間には一切関係ない事。それに巻き込まれただけでしかないヒトの子達は何とも悲惨な運命を引いてしまった事だろうか。

 それでも、そんな事を露と知らない彼ら人間達は、如何どうにかして暗がりの荒野から進むべき道を切り開こうと藻掻き続ける。そんな彼らの滑稽な様で同時に勇ましさも感じさせる姿に一抹の感銘を受けながら、セナもルルシエも悪魔なりの価値観で彼らを見つめていた。彼らを管理する立場として、ある種の親心にも似た境地で彼らの覚悟を受け止めていたのだ。

 しかし、ルルシエは戦後間もなく生まれた新世代の神の子の一柱であり、大戦は未経験。そして、セナは第一次神龍大戦の最中に生まれた旧世代の神の子であり、大戦の発端は当事者であるアルピナやその周囲から聞かされただけに止まる。つまり、言ってしまえば彼らも被害者の様なものでもあるのだ。その為、彼らの気持ちにはある種の同情すら浮かんでしまう。

 尚、現在アルバートが知っている悪魔で大戦の勃発以前から生きているのは当事者であるアルピナに加えてスクーデリア、そしてカーネリアことクィクィの僅か三柱のみ。抑、それ以外の戦前生まれの悪魔は全員神界で復活待ちか霧散済みだ。

 一応は状況が状況なだけに、戦後復活して他の世界で生活している悪魔も新生悪魔以外は全員この世界に来る様に——各世界に存在する転生の理を維持する為にも全悪魔を招集する訳にはいかなかった為、戦力的にあまり役に立たない新生悪魔達には御留守番してもらう事にした——アルピナが召集を掛けてはいる。しかし、それでも戦前生まれの悪魔は現時点では僅か三柱だけに止まるのだから、どれだけ凄惨な戦争だったのかが暗に示されているだろう。

 それでも、そんな事情を一切考慮出来ない立場にある人間の一欠片であるアエラは、眼前の課題に人間的視座で憂慮する。魔獣と魔王の繋がりや魔王として君臨する彼女達なりの想いや配慮、更には魔王が真に敵対している天使の存在に気付く事が出来ないまでも、今の自分達が出来る事を最大限遂行出来る様に覚悟を改めて思考を整理するのだった。


「私も、キトリア殿の意見には賛成です。しかし、それは敵が魔王のみだった場合に限られるでしょう。レインザード攻防戦の様に魔獣が我々人類の生活圏を侵犯していた場合、最少人数の部隊では到底対処しきれません。その為、四騎士一人ではなく最低でも二人分の部隊は用意すべきかと」

次回、第196話は4/11 21時頃公開予定です。

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