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ALPINA: The Promise of Twilight  作者: 小深田 とわ
第3章:Mixture of Souls
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第187話:第三者として

 それでも、流石に無視する訳にはいかないし、それをするほど彼女も薄情ではない。寧ろ、気さくで陽気で能動的な友好関係を構築する性格を持っているのだ。当然、セナが相手でもそれが変わる事は無い。


「そうかな? 別にボク一人に限った事じゃないと思うけどなぁ。アルピナお姉ちゃんもスクーデリアお姉ちゃんも何だかんだ言って最近はこういうの楽しんでるみたいだし、それにセナだってこういうの見るの満更でもないでしょ? 後、認識阻害の魔法なら気にしなくてもいいよ。キミ程度の魔力なら例え全力出したってボク達は騙せないし、そもそも肉体の認識阻害だったら魔眼を使えば無効化できるでしょ?」


 稚い少女らしい声色と活発な少年らしい口調を組み合わせた性別を限定しない中性的なそれは、可憐さを多分に含んだもの。クィクィの明朗快活で万人に好かれる溌溂で陽気な性格を如実に示すそれは、聞く人を無意識に楽しませる。どんな内容の発言でも決して不快になる事が無い不思議な力は、彼女の本質的性格が生み出す言霊ことだまなのだろうか? 当然、同じ悪魔として志を同じくするセナであっても例外ではない。

 彼我の実力差を適当に隠したりそれらしい言葉で誤魔化したりする事無く直接的表現で突き付けられたものの、しかし不思議と怒りや不快感は湧き上がってこない。勿論、それは彼が彼女の高い実力をよく知っていて、その上彼女の事を信頼しているからというのもあるだろう。しかしそれ以外にも、彼女の本質的な印象がそれを決定付けている様な気がしてならなかった。例え彼女の事を全く知らなかったり敵対視していたとしても、クィクィだからという理由で許してしまえそうな魅力が彼女にはある様に感じてならなかった。

 そこに何か客観的な根拠がある訳ではない。ただ彼の主観による率直な感想でしかない。それにもかかわらず、何故か一定の信憑性がありそうな気もするのだった。彼女ならあるいは、とついつい思わせてくれそうな魅力が彼女の言外に含む態度からジワリジワリと滲出しんしゅつしているような気がしていたのだ。

 そんな少年的溌溂さと少女的可憐さによる愛らしさで包まれている彼女を温かく見つめる様に、彼女の少し後ろではセナと同じように彼女を見守る悪魔が二柱ふたりと人間が一人いた。二柱の悪魔アルピナとスクーデリアは系統こそ異なれどもいずれも可憐乃至(ないし)美麗な姿形であることは共通している。神の子特有の雪色の肌を陽光の下で輝かせ、周囲の注目を一身に集めているルルシエにも負けず劣らずの美貌を隠すことなく曝け出していた。対して人間クオンは、何処にでもいる至って普通の青年にしか見えないほどに特徴に欠けた黒髪の男だった。それでも特徴を挙げるとすれば、宝石のように美しい琥珀色の瞳と悪魔と行動を共にしている事だろう。

 そんな悪魔二柱の内の片方、スクーデリアはセナと同じようにクィクィに対して微笑ましい眼差しを向けて事の成り行きを見守っていた。腰に届くほどに長い鈍色にびいろの長髪は柔和で緩やかななウェーブを描き、発達し過ぎたが為に閉じられなくなった金色の魔眼は、彼女本来の鈍色の輝きを過去のものへと追いやって久しい。

 また、彼女は女性としてはかなりの高身長——成人女性に限定した人間種全体の平均身長を大幅に上回り、ヒールを除いても170cmを超えている——で、横に並ぶクオンとそれほど目線が変わらないか僅かに上回るほど。そんな彼女には、可愛いよりも美しいという形容詞の方が相応しいだろう。淡色たんしょくのドレスワンピースに包まれた冷静沈着で聡明怜悧そうめいれいりな風貌からは氷の女王の様な冷たい微笑が浮かび上がっているが、その節々にはクィクィに対する隠し切れない温かい愛情が多分に溢出いつしゅつしていた。

 彼女は、クィクィとセナの言葉に微笑を浮かべつつおもむろに二人のすぐ近くまで歩み寄る。視線をルルシエとアルバートが織り成す仲睦まじい青春へと向け、クィクィが楽しみを見出している彼らの本質的感情を汲み取る。本来、悪魔としての本能により彼女は誰か特定の一個人に対して特別な感情や眼差しを向けることはない。それでも、第三者としての立場からそういった感情や振る舞いを見て嫌悪感や不快感を覚えることはないし、ある種一定の理解は持ち合わせている。

 故に、視線の遠くで仲睦まじい男女の仲を育んでいるアルバートとルルシエを眺めて、彼女は自分なりの楽しみ方を見出す。同時に、彼ら二人の振る舞いが生み出す温かな感情を受け取る事で第三者としての視点なりの微笑ましさや愛らしさを発露させていた。


「そうね。こうして第三者として眺めるのもなかなか悪くないわね。これならクィクィがあれだけ推してたのも今なら理解できるわ。態々《わざわざ》同じ事をしようとは思わないけれど、悪魔全体の文化としては契約以外にもこういう道があってもいいような気がしてきたわ。そうでしょう、アルピナ?」


 彼女は、自身の近くで同じ様に彼ら二人の様子を眺めている幼馴染の悪魔アルピナを一瞥いちべつして見下ろしつつ問いかけた。氷の女王のような冷徹な声色と孤高な一匹狼の様な風貌を漂わせつつ放たれるその言葉だが、しかし何処か彼女らしさを感じさせる穏やかな優しさや気品の高さも両立している様だった。決して他者に恐怖を抱かせる様な事も無ければ突き放す事も無い、彼女が持つ悪魔本来の面倒見の良さや心理的な寄り添いが隠し切れていない様だった。

 彼女の悪戯色の口唇が妖艶な深紅に濡れ、まるでそれを見た男の心を瞬く間に堕落と破滅へ誘ってしまいそうな危険な香りが微かに漂っていた。そんな、宵闇を可憐に舞う蝶の様な可憐さとあらゆる政略を巧みな交渉術と優れた観察眼で意のままに操る外交官の様なカッコよさを両立させる彼女の金色の双眸で見つめられ、しかし当のアルピナは一切動じる事は無かった。

 スクーデリアとは打って変わり、美しいよりも可愛いといった方が良さげな風貌をした彼女。猫の様に大きなサファイアブルーの瞳は僅かに吊り上がり、その威風堂々とした態度や傲岸不遜な口調と相まって冷静沈着な男らしいカッコよさを放っている。まるで一国を支配した時の皇帝を彷彿とさせる冷徹で残酷な覇気は、こんなどう見ても人間換算で10代後半にしか見えない様な小柄で可憐な少女から放たれているとは到底思えないほどに重く圧し掛かる。

 そんな彼女は、スクーデリアのすぐ近くで彼女と同じ様にアルバートとルルシエの様子を見つめつつ不敵な微笑を浮かべていた。壁に背中を付けてもたれ掛かり、季節外れの黒い膝丈のコートのポケットに両手を入れつつその下で脚を組んでいる。同じく黒いミニスカートと二―ソックスの間からチラリと覗く雪色の御御足おみあしが外見にそぐわない艶やかしさを醸し出していた。瞳と同色の差し色が入った肩程に伸びるサラサラとした濡羽色のストレートボブを風に靡かせ、その可憐な横顔は一枚の芸術絵として完成されているかの様だった。

 悪魔公として全ての悪魔の頂点に君臨する彼女は、自身を含む全ての悪魔を統括及び指揮する義務がある。悪魔としての規律や倫理観を遵守し、悪魔という種族全体の方向性に対する全権を彼女は握っている。そんな彼女として、悪魔と人間が仲良く友情を育んでいるその光景は到底無視する訳にはいかなかったのだ。

 これまで、悪魔とヒトの子の関わりは全て双方向の同意に基づく契約によって形成されていた。現在のアルバートとルルシエの様な、契約に基づかない友情と業務命令に基づく関係性は未だ嘗て前例の無い取り組みだった。クオンとアルピナの間にですら契約は結ばれているのだからある意味当然と言って過言では無いだろう。

次回、第188話は4/3 21時頃公開予定です

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