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ALPINA: The Promise of Twilight  作者: 小深田 とわ
第3章:Mixture of Souls
182/511

第182話:勝手気ままな行動原理

作品タイトルを少しだけ変更しました。

 そして漸く、彼らは王城から城下町へ接続する最大の入り口である正門にまで到着した。民草に見つからない様に物陰に潜み、魔眼を開いて城下町の様子を探る。そうでもしないと、仮に見つかってしまえば騒ぎになることは明々白々だった。

 だからこそ、とでも言うべきなのだろうか? 仮にこのまま出たらどれ程の騒ぎになるのだろうか、と考えてしまうのは何もアルバートだけではなかった。口に出したり精神感応に乗せて共有したりこそしなかったものの、セナもルルシエも全く同じことを考えていたのだ。

 しかし、騒ぎになりたくないことが最優先の彼らはそれを口に出すこともなければ実行する事もない。逸る気持ちをグッと堪えて耐え忍ぶのだった。

 仮にこれがアルピナだったらそうはいかなかっただろう。恐らく、いや間違いなく彼女ならそのまま出ていきかねないだろう。とセナは一人心中で思っていた。彼女の性格や態度を古い時代から知っているからこそ無意識のうちに考えてしまうことだった。

 果たして彼女はこれまでにどれほど周囲を振り回してきたことだろうか。セナ自身は比較的マシだったが、スクーデリアとクィクィが悲惨だったのは、今でも可哀そうに思えてくるほどだったのは彼の記憶に新しい。彼女の感情と欲望に忠実な傲岸不遜で傍若無人で威風堂々とした態度と行動原理は、文字通り悪魔らしさに溢れていた。

 当然、それは10,000年経った現在になっても残存している。人間であるクオンを振り回して好き勝手しているのを見るたびに、アルピナが帰還したことを再認識するほどだった。クオンには悪いが、どちらかと言えば懐かしさをついつい覚えてしまうのは仕方ないことだろうか?

 しかし同時に、セナは彼女のそうした態度について随分お淑やかになったとも感じていた。一体何処が、と問われても答えようがないが、しかしそう感じてしまうのは間違いなく事実だった。或いはお淑やかではなく大人しくなったといった方が語弊がないかもしれないが、何方にせよそうした勝手気ままな行動が多少なりとも息を潜めたように感じたのには変わりない。

 果たしてそれは彼の主観的な感想でしかないのだろうか。或いは、客観的な事実として彼女は周囲への配慮を覚えたのだろうか。それを客観的に評価する指標は存在しないが、態々そこまでして正確に判別しようとまでは考えていない。何方であっても彼女が彼女であることには変わりない上、彼女へ抱く信頼と信用はこれまでと何一つ変わることはないのだ。

 事実としては、確かに彼女の傍若無人さは多少の大人しさを見せていた。それはクオンの前だからなのかもしれないし、10,000年の旅路でヒトの子への配慮を覚えたのかもしれない。何方にせよ、彼女はスクーデリアとクィクィが内心で感動する程度には精神的な成長を果たしていた。

 その為、今の彼女なら現状のセナ達と同じ状況に置かれたとしても勝手気ままに人前へ姿を晒すようなマネはしない。顔を隠すなり姿を消すなり魔法で認識を阻害するなり、何らかの手段を用いて騒ぎにならないように未然に防ぐことは確実。これまでであれば後からスクーデリア達が記憶を改竄して回る必要があったのだから、かなりの成長を見せていると言って過言ではないだろう。

 そんなことを考えつつ、セナは物陰に潜みつつ小さく息を零す。周囲を歩く官吏や兵士達は、彼らが物陰に潜む理由を心中でそれとなく察してくれているようだった。そして、彼らはセナ達の言外に含む意志を汲み取ることで余計なことをせずに見なかったふりをしてくれていた。結果、セナ達はそのおかげもあり誰にも怪しまれることなく物陰に隠れ続けることができていた。

 そうしている間も、城下町の喧騒が冷める気配はない。英雄の出現と凱旋を祝うお祭り騒ぎによって掻き立てられた彼ら彼女らの心は、更なる熱狂と喧騒を求め続けていた。男も女も老人も子供も、王城周囲に屯して王城に招かれた英雄の顔立ちを一目でも見ようとばかりに周囲を見渡す。同時に、そんな彼ら彼女らを標的として見定めた商人達が様々な出店で彼ら彼女らを誘惑していた。

 それは全て英雄の凱旋を祝うためのものだけなのだろうか? 或いは、城下町としての普段と大差ない日常なのかもしれない。やはり一国の枢要都市としての盛況は伊達ではなく、常日頃からこれほどまでに住民達で溢れ返っているのかもしれない。

 しかし、アルバートもセナもルルシエもそれを見定めることはできなかった。全員揃って城下町に来るのは初めてだったが為に、比較対象たる普段の様子を何一つとして知らなかったのだ。

 仮にこれがアルピナ達なら、そうはならなかったかもしれない。仕事の都合上で頻繁に王都へ来ていたクオンは当然として、アルピナもスクーデリアもクィクィも一応は平時の王都を訪れた経験があるのだ。ちょっとした休憩と観光程度でしかないが、それでも平時を知っているというのは彼らに比べれば非常に大きなアドバンテージと言えるだろう。

 勿論、現在人間社会の水面下で蠢動している天使と悪魔の抗争へは何一つ関係しない余剰の経験でしかない。それでも、セナ達としては少しばかり羨ましくも感じられた。こうして人間達の高すぎる期待の裏で人目を気にするようなストレスの溜まる環境からは、少しだけ離れたい気持ちが湧いてしまうのだ。


『ここから先は人目に付きそうだな。そろそろ認識阻害の魔法でもかけておくか。幸い、ここなら多少魔法を使ったところで不審がられる事もないだろう』


 そう言うと、セナは徐に目を閉じる。そしてそのまま小さく息を吐き、魂の深奥から己の根源を成す魔力を湧出させる。黄昏色に輝くそれは、魂を飛び出すとそのまま彼の血液に乗って全身を循環する。大小様々な血管を余すことなく利用して身体の隅々にまで行き渡らせると、彼の全身から彼を悪魔足らしめる冷徹な覇気が吹き荒び始めた。

 そして次に彼がその瞳を開けた時、その瞳は彼本来の色である菫色ではなく神の子としての力を発露する金色に輝いていた。戦闘中ではないにも拘らず、その瞳から放たれる覇気に含まれる威圧感や殺気はアルバートを圧倒する。まるで国家間を揺るがす一心不乱の大戦争の渦中に放り込まれたかのようなそれは、改めて彼が神の子であることを教えてくれる。

 そもそも、神の子はヒトの子を管理する上位種族である。ヒトの子を構成する一種族である人間の更に一欠片でしかないアルバートにとって、彼らは正に神にも等しい存在である。だからこそ、神話の世界でしか馴染みのないような超常の生命の根源的な力を受けて恐怖や畏怖を感じないわけがないのだ。

 そして、そんな冷徹で冷酷な空気を感じているのは何も彼だけではなかった。その場にいる人間誰もが、アルバートと同じようにセナの魔力を受けて恐怖や威圧感に身を強張らせていた。セナがかなり出力を絞っているおかげで影響を受けるのは彼の周囲半径十数メートル圏内に留まっていたが、しかしそれでも王城内ということもありそれなりの数の人間がその影響下に陥ってしまっていたようだった。

 人間に限らず、ヒトの子は悪魔が持つ魔力のような特別な力を持たない。その為、魔眼のような特別な瞳も同様に宿していない。その為、セナを始めとする悪魔が放つ魔力や天使の聖力、龍の龍脈をそれそのものとして認識することはできない。代償的に威圧感や恐怖、冷徹感として受け取る事しか出来ないのだ。

 この世に生きているにも拘わらず、まるでこの世ならざる存在と邂逅してしまったかのような絶望感が彼ら彼女らの魂を撫でる。それはまるで魔王と相対したかのような気分。平和の一時を正面から叩き潰されてしまうかのような絶望感で精神は汚染される。

次回、第183話は3/29 21時頃公開予定です。

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