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ALPINA: The Promise of Twilight  作者: 小深田 とわ
第3章:Mixture of Souls
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第175話:加護

 今でこそ、彼女は新生悪魔として他のどの悪魔にも劣る力しか持ち合わせていない。しかし、いずれは現在のスクーデリアにも匹敵するだけの力を手に入れることができる可能性を秘めているといっても過言ではない。それこそ、魔法技術に関してはクィクィやヴェネーノすらも凌駕できるかもしれないのだ。

 しかし、それがいつになるのかは誰にもわからない。数万年後かもしれないし、或いは数億年ほど必要かもしれない。それはヒトの子にとっては果てしなく感じる時間かもしれないが、神の子にとってはいずれ訪れる近い将来でしかない。それこそ、アルピナとスクーデリアがこれまで生きて来た時間を思えばなんてことない時間でしかないのだ。

 何より、スクーデリアは草創108柱として生まれたがために、優れた先達から教わることなく全てを自力で獲得しなければならなかった。それに対して、ルルシエは生まれた瞬間からこの先未来永劫に至るまで無数の先達から知識や経験を授かることができるのだ。その為、スクーデリアが今の境地に至るまでに必要とした時間と同じだけの時間を必要としないのはある種当然の帰結かもしれない。

 そんな天才の卵が自らの影に潜んで自分に尽くしてくれているという事実は、アルバートにとって何という幸福だろうか。彼女は例え新生悪魔といえども、過去から未来に至るまでに生まれるあらゆるヒトの子よりも優れた頭脳と武力を有している超常の存在。そして、彼女との出会いと経験は人間として生まれ人間として生活していたならば決して訪れなかった機会。そこから彼が得られる経験値が無数とあるのは確実だろう。

 つまり、ルルシエに成長の余地が多く残されているのと同じだけ、アルバートもまたそれに引っ張られるように成長できる可能性が含まれているという事だ。彼がその事実に気付いていないのが残念だが、しかし気付かない方が却って幸いかもしれない。下手に緊張して責任感を感じるよりは、何も気付くことなく素の心身を曝け出して彼女と接するほうが、互いにとって新しい発見を得られる可能性が訪れるかもしれないのだ。

 さらに、場合によってはクオンにすらある程度は追いすがることができる可能性すら残されているのかもしれない。勿論、皇龍の力すら使い熟す彼にアルバートが完璧に並び立つことは到底不可能である。例え彼がこれから誰かしらの龍に認められてその力を行使できるようになったとしてもそれは変わらない。

 何より、クオンの魂にはアルピナが渇望しアルピナが希った加護が深く刻まれている。男女の仲すらも足蹴にできるほどの深い友愛によるその加護は、アルピナをはじめとする悪魔達にしか知らされていない理由によって刻まれたもの。クオン本人ですら、そもそもその加護にすら気付くことはできない。

 その上、彼はスクーデリア及びクィクィとも契約を結んでいる。それは、アルピナによる契約と異なり何か願いがあってそれを叶えるために結んだものではない。あくまでも彼の戦力増強を目的とした魔力の譲渡を合法的に行うための形式的なものに過ぎなかった。

 しかし、例え形式的なものであろうとも契約自体は嘘偽りなく本物である。その為、今の彼の魂は三柱の悪魔の魔力と遺剣から逆流されるジルニアの龍脈が混ざり合った複雑で奇妙なものへと変質してしまっている。

 対してアルバートは、現状スクーデリアとしか契約を結んでいない。勿論、全世界を通して上位三柱に含まれる大悪魔である彼女との契約により齎される効果は、他の大多数の悪魔との契約とは比較にならないだろう。

 しかし彼とスクーデリアとの間に交わされた契約には、クオンとアルピナの間に交わされた契約と異なり加護が少なかった。レインザード攻防戦の成り行きによる思い付き程度で結んだものでしかないため、必要最低限の加護と力だけを与える程度に留めていたのだ。

 それは、クオンと異なり当時のアルバートは悪魔に対して魔王という強い不信を抱いていた為。状況を考慮すれば不信感を抱いていて当然の話だが、しかし悪魔との契約において大切なのは悪魔に対する強い信頼。契約主に対する信頼と悪魔という種の実在性に対する信用こそが、契約によって与えられた加護を発芽させるために必要な養分となる。

 つまり、魔王を敵対視し悪魔に対する不信を強く抱いていた彼に対して、加護を多分に含んだ契約は無意味になるどころか却って魂に強い負荷を与えるだけにしかならないのだ。その為、心を屈服させたうえで必要最低限の加護だけ与えられたという経緯があるのだ。

 それがこうして英雄として悪魔側の仲間へと加入してしまったがために、クオンと比較して異様に不足した中途半端な加護量が露呈することとなってしまったのだ。ヒトの子を基準にすれば十分すぎる強さではあるのだが、神の子を基準にすれば不足以前の問題でしかない。現状ではレインザード攻防戦のように茶番の戦いなら問題ないが、新生天使が相手の時ですらルルシエのサポートが必要なレベルでしかない。

 この問題を手っ取り早く解消する為の手段は二つ。加護量を増やすか契約数を増やすこと。スクーデリアが関与していることを考慮すれば前者の方が効果は大きいだろう。それこそ魔力の操作技術だけで言えばアルピナよりもスクーデリアの方が優れているため、加護による上昇量はそれなりに見込める。

 しかし、スクーデリアとアルバートの間には特別な結びつきが存在しない。アルピナとクオンのような特別な関係性は持たないため、信頼と信用の紐帯という面でどうしても劣ってしまう。事情が事情だけに、どうしても彼らの紐帯に勝ることは不可能なのだ。

 それでも、与えるだけ与えておいていずれ来るであろう発芽の時を待つという手もあるし、後者の手段としてルルシエとセナがアルバートと形式上の契約だけを結ぶという手もある。どちらを選んでもデメリットは存在しないため、一考の余地は十分残されている。

 しかし、現在アルバートにはそのどちらも施していない。現状は天使と戦うことを想定していないため、過剰な力を与えて却って人間社会で不審がられてしまう可能性に対する考慮の方がよっぽど優先順位は高いのだ。

 勿論、スクーデリアも上位悪魔として他の悪魔を先導する立場でありヒトの子を管理する立場であるという矜持までは捨て去っていない。その為、契約を結ぶか否かは全て彼らの自由意志に一任している。結びたいのであれば自由に結んで構わないし、必要ないと判断するならその意見を尊重するとしか伝えていないのだ。当然、アルバートから申し出があれば加護を増やすことも快諾する予定ではあるのだ。

 しかし、現状のアルバートに関わる各種契約はレインザード攻防戦時から何ら変わっていない。スクーデリアから与えられた僅かな加護だけが付与されており、残りは逸脱者としての地力で賄っている。故に、現状の彼ではどう足掻いてもクオンのような力を獲得することは不可能なのだ。

 それでも、彼は現状に対して一切不満は抱いていない。アルピナ達と対立していた当初こそは彼女達に強い不信感を抱いていた上に、契約時も絶望を通り押す強い敗北感から隷従に近い格好で軍門に下ったが、それも全て過去の話として水に流した。

 寧ろ、こうして表向きとしては英雄として王国に仕えることができたのだから、これ以上ない出世だろう。何より、セナやルルシエと出会えたことも大きい。セナとは、カーネリアに代わる同じ境遇を分かち合う良い友人となった。ルルシエとは、無意識ながらも種族の垣根を越えた親密な関係を築きつつあった。これ以上強請るのは強欲すぎるほどだろう、とすら彼は常々感じていた。

次回、第176話は3/22 21時頃公開予定です。

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