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ALPINA: The Promise of Twilight  作者: 小深田 とわ
第3章:Mixture of Souls
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第174話:技術と才能

 中でも、とりわけアルバートがその思いが強かった。ただのヒトの子でしかない彼にとって、魔眼は本来の身体には備わっていない外部ツール。セナやルルシエとは違って意識的に通常の瞳との切り替えが必要であるため、何らかの要因によって他者に露呈しかねないのだ。それは魔眼の閉じ忘れや無意識的な開眼、或いは外的要因による強制的な開眼など多岐にわたる。

 何れ慣れてくれば無意識や本能的反応で瞳の切り替えをできるようになるのだろうが、しかしそれを態々悠長に待つ必要性まではないだろう。継続的に周囲の視線に気を付ければどうとでもなる上に、もしもとなれば光の関係等を利用して適当に誤魔化せばどうとでもなるだろう。

 しかし同時に、彼と異なり魔眼を無意識的に使いこなせるクオンの技術には感服させられてしまうのだった。勿論、クオンの方が魔眼を与えられたのが早かったからというのもあるが、それでも同じ人間として彼は今のクオンと同じくらいの日数が経過しても同じくらい無意識的に使いこなせないだろうと確信できる。その上、あれだけの感度で探知することもできないだろう、とすら思ってしまう。仮に今同じ感度の魔眼を開こうものなら、感取される情報量に脳が焼き切れて即刻廃人と化してしまうだろうことは容易に想像できるのだ。

 その上、今やクオンは単なる魔眼ではなく龍脈を組み合わせることで龍魔眼へと覚醒させている。一体どれだけの情報量で世界を見通せるのかはアルバートには想像もつかないが、しかし絶対に今の自分の脳では耐えられない事だけは分かる。何れは自分もとは思うが、しかしそんな龍魔眼ですらセナの魔眼が持つ感度には及ばないという事実のせいで彼の向上意欲は萎んでしまう。

 上には上がいるという事実は時としてその向上心に火をつける起爆剤として作用するが、しかし程度が過ぎれば絶望感を通り越した無感情の陥穽へと誘ってくれる。決して敵わないと分かり切っているからこそ、態々追いつこうとする努力の無意味さが脳裏を満たしてしまうのだ。

 それでも、そうした状況に置かれて尚努力した者のみが往々にして大成するものである。決して腐心することなく、決して諦観することなく、己の伸びしろをただ只管に信じることができた者だけが、そうした異次元の領域に近づくことを許可されるのだ。

 その代表例が逸脱者と呼ばれるもの。ヒトの子でありながらもヒトの子から逸脱して神の子の領域に近づけるのは、全てそういった決意と熱意が神の好意と恩寵に届くことで開花したもの。クオンもアルバートも、方向性こそ違えど神の子の一欠片である聖獣に抗い続けた直向きな覚悟が、悪魔との契約を鍵に逸脱者としての花を開いたのだ。

 そんな経緯を知る由もなく、ただアルバートは横に並び立つセナと影に潜むルルシエが魂に忍ばせている余力の絶大さに呆然とする事しか出来なかった。何れ近い将来にそんな力の一端でも見る機会があるのだろうかと思いつつ、そんな彼らでも決して敵わない天使が人間社会に潜入しているという事実に恐怖する。数日前までの自分がそちら側の存在だったことを懐かしむように、彼は眼下に広がる人間達の無知具合を眺めた。


「あっ、いいね、それ! 確かに人間の町で態々魂まで覆い隠す必要なんてないし、姿を隠すよりは変に怪しまれることないもんね」


 陽気で玲瓏な声色と弾むような口調でセナの意見に賛同するのはルルシエの声。同じ悪魔として彼がしようとしていることをすぐさま察知し、その有用性を理解できたからこその返答だった。例え齢10,000年程度しか経過していない若輩者であろうともセナやスクーデリアが認めるほどに魔法操作技術の才能を有している彼女ならば、知っていてもなんら不思議なことはない。

 そもそも、認識阻害は悪魔にとって基本中の基本となる魔法。悪魔に限らず天使が使用する聖法や龍が用いる龍法にも同じ効果のものが存在している程度には一般的な技術。知らない方が却っておかしいほどだと言われかねない。

 しかし、それほど初歩的なものにも拘わらず魂から認識を書き換える魔法である〈魔魂感霧〉ほど頻繁に使用される魔法でもなければ有名な魔法ではない。その為、新生神の子の中には場合によっては知らない者がいても不用意に責められない事情があったりする。

 それは、神の子がその特性から目で見た姿よりも魂の形状や色を判断材料にすることが往々にしてあるため。肉眼では見えないことも聖眼や魔眼、龍眼といった特殊な瞳越しで見た方が得られる情報量が多いことに起因する。

 不必要な情報すらも得てしまうという欠点こそ存在するが、言い換えれば必要な情報を逃す可能性が減らせるということ。発達しすぎたが為に閉じられなくなったスクーデリアは非常に特殊な例だが、大戦時は平時を除き基本的に聖眼や魔眼は開きっぱなしにしたままの者の方が多かった印象。一部器用な者は左右で違う目を開きつつ適宜入れ替えて瞳を休ませる者もいたが、今となっては過去の技術と言ってよいほどに特殊な例。

 つまり、彼ら彼女らの前において姿形を偽ったり取り繕ったりする技術は全くもって無意味となるのだ。それこそ、魂そのものを書き換えたり秘匿したりすることが大戦に参加する上での最低限の技術だとされていたほどに、肉体の認識阻害や透明化といった技術は無用の長物と化してしまっていた。

 そして、そうした経緯もありそれらの技術はほぼ失伝されてしまったようなものだった。特に神龍大戦後に四柱しかこの世界に残留しなかった悪魔においては、そうした重要ではない魔法は存在しないものといって差し支えないほどの扱いへと降格されてしまった。あまりにも熟練者がいなさ過ぎたがために、教えたり練習相手になってあげたりする余裕が足りなさ過ぎたのだ。

 勿論、新生悪魔が全員習得できていないという訳ではない。大戦直後の比較的数が少なかった頃に生まれた者やそれから教わった者といったごく一部のみは、スクーデリア達から習得している。かくいうルルシエもヴェネーノに教わった者の内の一柱なのだ。

 また、そうした経緯以外にも単純に彼女が魔力操作に長けていたということもまた要因の一つとして挙げられる。魔力操作に長けていたからこそ、ある程度の初歩的魔法なら他者から習わずとも自力で習得できたのだ。

 しかし、これまでに生を受けた膨大な数の神の子でも独学で習得したりできたのは一握りの秀才のみ。その上、新規の聖法や魔法、龍法を開発できるのはそこから更に一握りの天才に限られる。現存するそれらはほぼ全て神が創造した世の理に最初から組み込まれていたものであるのに対し、魔法に関しては約三割ほどがスクーデリアが新規で創造したものだというのだから驚異的だろう。

 また、そんな彼女と異なりアルピナは新規魔法の創造は一つもしていない。魔力量だけで見れば可能だが、魔力操作技術や魔法技術がそれに追いついていないためできなかったのだ。そんな悪魔公ですら不可能なことを可能としているのだから、スクーデリアの異常性は突出していると言って過言ではない。

 さらに言えば、過去にこの世界に属する者で聖法や龍法を新規創造した神の子は初代天使長ミズハエル、二代目天使長セツナエル、皇龍ジルニアの僅か三柱のみ。だからこそ、そうした新規創造の難易度の高さはそう簡単に到達できる領域にないことは明々白々。

 そして、そんなスクーデリアから見てルルシエは才能があるということなのだから、僅か10,000年で既存魔法の地力習得を為したルルシエの異常者はある種当然なのかもしれない。

次回、第175話は3/21 21時頃公開予定です。

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