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ALPINA: The Promise of Twilight  作者: 小深田 とわ
第3章:Mixture of Souls
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第151話:会議②

「ビッテンガルド卿の意見に賛同します。我々四騎士としてもキィス殿が一度魔王と交戦したこともあります故、より慎重策を選択すべきかと愚考いたす次第です」


 ビッテンガルド伯ユークリウスの言葉に賛同の意見を唱えたのは、四騎士筆頭として国王を補佐するグルーリアス・ツェーノン。アエラの経験とエフェメラの知識、としてガリアノットの戦闘センスによる直感。それらを組み合わせることにより出た当座の方向性を、彼は四騎士を代表して話す。

 それを手始めに、会議の参加者による討論は熱を帯び始める。アベルドとユークリウスに、オースティン侯アーノルド、デジェネレス伯エレイン、レッドフィールド男爵レイラ、スワンポール伯マーリーンを加えた王国の六大貴族、グルーリアスを筆頭とする四騎士、国王バルボット、そして英雄達による談義。国家の分水嶺としては些か少人数過ぎる感覚も否めないが、しかし人数を集めるには時間が少なすぎた。寧ろ、情報通信技術が乏しいこの国においてこれだけの数が集まっただけでも上出来だろう。

 そんな国家の重鎮達11人に囲まれて、アルバートとセナは緊張に満ち溢れた相好で肩を並べる。特にアルバートは、つい数日前まで一般平民だったこともあり、このような上流階級の集まりは初めてだった。厳格で荘厳な雰囲気に包まれた光景は、これまでの生活では決して味わうことができなかったであろうもの。どのような態度と雰囲気で臨めば良いのかが全く持って掴めなかった。それに加え、彼は年齢が若すぎた。貴族家の当主や四騎士、国王といった重役は相応の経験と知識と侮られないだけの立派な外見が必須。その為、それらの役職に就いている者は総じて年齢層が高くなってしまう。


 イラーフさん……俺とほとんど変わらないのに……凄いな。


 唯一エフェメラだけはアルバートと変わらない年齢で四騎士と天巫女を兼任しているが、それは彼女の才能に起因する特殊な例。物怖じしない態度と他の重鎮に引けを取らない迫力に満ち溢れた佇まいは、とても参考になるものではなかった。

 そんなアルバートの隣では、セナもまた彼と同様に緊張感に満ちた相好で会合に参加している。しかし彼の場合、悪魔として約70,000,000年生きた経験と神の子としての知識及び精神構造の差があるためそれほど緊張感を抱いてはいない。その数少ない緊張感もその場の雰囲気による緊張ではなく、自分が悪魔だとバレないかという緊張やルルシエが勝手なことをしないかという思いに起因するもの。つまり、残りの13人と彼とでは緊張の方向性が異なっているのだ。

 しかし、中身が違えど同じ緊張であることには変わりない。寧ろ、その適度な緊張感に起因する相好のおかげで却って不審がられずに済んでいるのだから結果としては儲けものだろう。

 セナは、その場に居合わせる総勢11人の人間の魂を覗く。英雄に成りすまして以降、人目につく場では常に金色の魔眼を開くようにしているため、会合中であろうとも魔眼を使うことに支障はなかった。そしてその金色の魔眼を凝らすことで、彼は人間達の魂の本質及び深層心理まで詳らかにすることで状況を把握する。


 こういう場面では、相手が人間なことがありがたく思えるな。


 人間、つまりヒトの子は神の子の力に対する抵抗力を持たない。つまり、彼のような神の子がその瞳を用いて魂を覗けば、その表層心理のみならず深層心理まで全て赤裸々に知られてしまうのだ。そのおかげもあり、彼らが口で表出している建前と心で思考している本音とを比較することができた。


 四騎士はツェーノン殿の発言通り様子見で一致か……。マクスウェル殿だけ少し迷いがあるようだが、しかしまぁ、アルピナ達と直接剣を交えた経験があれば当然の判断ともいえるな。


 そして、と彼は金色の魔眼をゆっくりと動かして六大貴族の魂を見据える。彼らは城の外から間断なく齎される衝撃波に怯えつつも、人類の存亡をかけた選択を見誤らない様にすべく瞳を輝かせている。そんな彼らの魂を深奥まで詳らかにする。

 人間達の深層心理は、総じて狼狽の感情に染まっていた。表層の感情ではそれをうまく隠し、大貴族としての矜持と威厳を崩さないよう努力しているようだった。しかし、その狼狽の裏で構築される思考の回路は多種多様に異なっているようだった。

 それも仕方ないだろう。人間の価値観は多種多様である。魂の一欠片に至るまで全く同一のものが存在しないように仕組みは構築されているのだ。それは世代交代及び輪廻と転生の理により促進され、多様性に拍車がかかる様になっている。

 そのため、こうして建前の意見はある程度一致しても本音の思考が一致しなくても何ら不思議ではないのだ。それでも全体の不和が生じないのは人間の努力の努力と協調性の賜物であり、個人の自由意志が強い悪魔では到底成し得ない所業であるとセナは実感していた。


 兵を派遣するか、或いは残留して様子見か……六大貴族は二分されているな。


「王都を護るべく兵を駐留させることには私も賛成します。しかし、衝撃の震源地と思われるベリーズを蔑ろにするというのは賛同いたしかねます。あの町は我が国の漁業と貿易の楔石です。特別扱いしろ、とは言いませんが、しかし重要視すべきだと愚考いたします」


 レッドフィールド男爵レイラは悩むように顎に手を当てて呟く。

 ベリーズの経済的価値を勘案すれば決して見逃すべきではないという意見は、王国の経済事情を知る者なら誰もが同意すべきもの。生憎、庶民故に国家運営に関わる経済事情に疎いアルバートはそうではなかったが、人間を遥かに凌駕する神の子の知能を持つセナとアルテア違った。王城の書物庫に保管されている全ての資料及び書物を全て閲覧し暗記しているため、経済事情や歴史事情については一部専門家を上回る程度には習得している。

 そのため、セナも人間側の視点に立てば兵の派遣には一定の合理性があると理解できる。その上、アルピナ達が王都に来ることは現状ないということもまた理解しているため、態々兵を王都に留めておく必要性がないことも理解している。

 しかし、それもまた人間側の視点では到底把握できないことだということもまた知っている。その為、兵を王都に留めておこうという姿勢もまた同意できるのだ。

 両者の意見には一定の合理性があり、ともに否定できない重要な理由も存在する。その為、どちらかの意見を一方的に排することもできず議論は堂々巡りする。時間だけが無常にも流れ、その間もベリーズから轟く衝撃が城を揺らしていた。

 為政者達が議論に頭を悩ませている頃、城下町では民草が不安を煽られていた。陽気な喧騒に脳を支配され、魔獣と魔王の被害からほど遠い安全性を確保している王の膝元に住んでいるという慢心が危機管理の本能を鈍麻させてしまっていた。

 そんな彼ら彼女らは、ベリーズから齎される衝撃波に対して、何もわからないとばかりに困惑してしまっていた。まさか天使と悪魔が戦っているとは露にも思わず、或いはただの地震かもしれないと淡い希望を抱いて平和の帰還を渇望していた。

 窓の外に広がる澄み渡る青空の底で育まれる城下町の不安を見下ろしつつ、為政者達は出し切れない結論に歯がゆさを抱く。しかし、焦燥感は却って正常な思考力と判断力を喪失させると相場は決まっている。故に、彼らは自らの心を顧みて焦燥感を打ち消しつつ議論を続ける。


『あっ……』


 これまで黙然と会議を聞くことに徹していたルルシエが、不意に精神感応に声を乗せる。驚愕の感情に由来するそれは、同時にどこか悲哀の感情も含んでいるような声色だった。セナとアルバートは不意に届くその声に驚きつつも、しかし周囲に悟られない様に理性で押し殺しつつ精神感応に意識を向ける。

次回、第152話は2/26 21時頃公開予定です。

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