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ALPINA: The Promise of Twilight  作者: 小深田 とわ
第3章:Mixture of Souls
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第147話:獄炎魔衝

 さて、とクィクィは気持ちを切り替えるべく小さく息を吐きながらフェルマエルの顔を見据える。対外的には感心の顔色を浮かべているが、対内的には己の不甲斐なさと格下天使が自分に傷をつけたという事実による煮え滾るような憤怒が渦巻いていた。


「よくも格下天使如きがボクの身体に傷をつけてくれたよね? その責任、キッチリと清算してもらうから、覚悟しといてよね」


 空いた片方の手で、クィクィはフェルマエルの胸部を貫く。血が噴き出し、フェルマエルは痛みとショックで叫声を上げながら意識を失う。クィクィは空色に輝くフェルマエルの魂を直接握り締めると、そのまま力づくで彼の胸中から引きずり出す。鮮血が噴き出し、クィクィの身体や衣服を血で汚染する。しかし、クィクィは掌中の魂を見つめつつもどこか満足いかない相好を浮かべていた。

 クィクィは彼の骸を眼下に転がる天使達のもとへ放り投げる。血液が付着した魂を見つめながら舌打ちを零し、気持ちを切り替える。再び指を銃にすると、魔力を指尖に集約させて照準を定める。


〈魔法子弾〉


 指先から放たれる黄昏色の魔弾。それにはその大きさから想定される以上の魔力が込められており、身動き一つとることができない天使達へ襲い掛かる。

 高速で進むその弾丸は、地面に着弾すると内包されていた魔力を解放する。溢出する魔力は巨大な爆発を伴う光球へと変質し、辺り一帯を焦土へと変えてしまう。閃光と暴風が吹き荒び、緋黄色の髪を靡かせながらクィクィはその着弾地点をジッと見据えていた。

 天使達の肉体は須く死を迎え、宿主を失った魂達が姿を現す。掌中に浮かぶフェルマエルの魂と同じく、そのどれもが不安定でクィクィの魔眼でも正常に認識してくれなかった。やはり原因ははっきりとせず、皆目見当がつかないといった具合でクィクィはお手上げだった。

 そんな魂は、クィクィが魔弾に重ねがけしていた魔法により肉体と紐付けされる。やがて復活の理に乗せられたそれらの魂は、遠い未来で復活するべく神界へと帰還するのだった。

 クィクィは地上に降り、金色の魔眼で周囲を見渡す。レインザード程ではないにしろ、大規模な内紛があったかのように荒廃した町を歩く。自身がかけた保護魔法の魔力を探し、独り取り残された少年の許へ歩み寄る。


「あっ、いたいた! ごめんね、独りにしちゃって。もう大丈夫だよ!」


「そうですか、ありがとうございます。……ところで、クオンさんは?」


「クオンお兄ちゃんももうすぐ来ると思うよ。だから、ここでもう少しだけ待ってようか」


 可憐で快活な笑顔で少年を宥めたクィクィは、魔法で衣服と肌に付着した血液を浄化させる。そして、真面目で神妙な相好に切り替えてクオンがいる方角を見据えた。金色の魔眼を凝らし、龍魔力を迸出させるクオンを心配そうに見つめるのだった。


 大丈夫だよね、クオンお兄ちゃん?



 心配と不安の心情を心中に浮かべるクィクィから少し離れた場所では、龍魔力を身に纏いながら遺剣を振るうクオンと、高濃度の聖力で構築された聖剣を振るう無翼の天使レムリエルが火花を散らせながら過激な戦闘を繰り広げていた。三次元的な機動で翻弄しつつ、町を縦横無尽に飛び回りながらの戦闘は目まぐるしく状況が変化する。

 もはや、ヒトの子では追いすがるどころか近づく事すら困難な戦闘。聖力と龍魔力の衝突が生む覇気が嵐となって町の通りを吹き荒ぶ。逃げ遅れた町民たちが悲鳴を上げ、何が起きているのか全く分からないといった具合で困惑の相好を浮かべるだけだった。

 幸い、スクーデリアがかけた認識阻害の魔法のおかげで、どれだけ暴れてもクオンが魔王だと知られることはない。一方で、逃げ遅れた町民を戦闘に巻き込んでしまうリスクの方が何よりもの問題だった。神の子達と異なり、クオンはヒトの子としての心があるれっきとした人間だという自負がある。その為、彼らのように人間を犠牲にすることに無抵抗というわけにはいかないのが現状である。

 その為、クオンはレムリエルと戦いながらも周囲の状況に気を配らなければならない必要性に駆られていた。龍魔眼を凝らし、高速で飛び回りながら人間達を避けつつレムリエルと戦闘を繰り広げる。座天使級である彼女を相手にこれだけの労力を強いられなければならないのは、今のクオンにはまだ荷が重かったかもしれない。しかし、いつまでもアルピナ達に甘えられないとクオンは心を奮い立たせる。


 くそッ……流石に強いな。いつだったかアルピナに聞いた無翼の天使とかいうやつか? だとしたら、相当マズいかもしれないな。


 遺剣を振るい、龍魔力の弾丸を飛ばしながらクオンは汗を流す。額からは鮮血が伝い流れ、疼痛で相好を歪める。龍魔眼でも捕捉しきれない不安定なレムリエルの魂をどうにか捕捉しようと、龍魔眼の出力は無際限に増加していく。結果的に、クオンの脳や眼球には人間の肉体では処理しきれない膨大な情報が流れ込み、却って彼の身体を蝕んでいく。


「クッ……」


 非言語的な苦痛の声を漏らしつつも、クオンは戦闘の手を緩めることはない。クオンとレムリエル、両者一歩も譲らない過激な戦闘はいつまでも続きそうなほどに熱を帯びていた。

 しかし、どれだけ肉薄した戦闘を繰り広げられようとも、決して埋めることができない決定的な差という者が存在する。それは即ち種族の差。

 クオンはアルピナと契約を結んだことにより魔力を獲得し、遺剣に認められる事で龍脈を操作できている。しかし、その本質は人間、即ちヒトの子である。対してレムリエルは純粋な天使、即ち神の子だ。身体構造が根本的に異なる両者が対立したところでヒトの子が神の子に勝る点は一つとして存在しない。いうなれば完全なる下位互換である。

 そのため、戦闘が長引けば長引くほど、クオンは体力や気力面の消耗が顕著となってしまう。それが結果としてレムリエルに押し負けることに繋がってしまうのだ。


〈獄炎魔衝〉


 クオンが握る遺剣の剣身に龍魔力で構築された焔が纏う。地獄の業火を彷彿とさせる灼熱の炎はあらゆるものを焼き尽くす漆黒の雷を纏い轟音を立てていた。肌がジリジリと焼け付くほどの覇気を迸出させながら振るわれる遺剣。風を切り、空間ごと断裂してしまいそうな威力を内包している剣がレムリエルに迫る。

 しかし、彼女は決して焦ることなく金色の聖眼でその剣筋を見る。口元には微笑みすら浮かんでおり、藤色の長髪がフワリと揺れて心地よい香りを漂わせる。女性らしい穏やかで気品ある佇まいと、それを崩さない可憐な微笑み。それは戦場の直中にあって異様なほど平和的であり、龍魔力を纏うクオンを相手にしてなお多少の余裕があるということの裏返しだった。

 そんな彼女の態度に構うことなく、クオンは遺剣を振るう。レムリエルの肉体に死を贈る覚悟で振るった。しかし、それは空を切る。彼女の肌に触れる直前、今まさに触れようとしているその瞬間までは、確かに彼女の肉体はそこにあった。しかし、その次の瞬間に彼女の姿は消えた。それは、クオンの龍魔眼にすら捉え切れないほどの速度であり、彼の脳内は困惑の色に染まる。


「躱された⁉」


 どこだッ⁉


 クオンは周囲を見渡してレムリエルを探す。不安定な彼女の魂は、クオンの龍魔眼といえどもその所在を掴ませてくれない。朧気ながら近くに存在している事だけは探知できるのだが、その詳細な位置に関してはまるで霧がかかったかのように有耶無耶にされる。


「凄い一撃ね。まともに受けてたら確実に死んでたよ」


 不意に聞こえるレムリエルの声。それは、クオンの背後から届いた。

 背筋に悪寒が走る。背後をとられたという事実にクオンは戦慄する。本能的反射でとっさに彼は振り向いた。しかし、その視界に飛び込んできたのは、今まさにでも聖剣を振り下ろそうとしてくるレムリエルの姿だった。

次回、第148話は2/22 21時頃公開予定です。

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