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ALPINA: The Promise of Twilight  作者: 小深田 とわ
第2章:The Hero of Farce
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第102話:作戦再開

『ルークとレギアスは北の避難所、ピジョップとビルディアは南の避難所に行ってそれぞれルシエルの精神支配の除去を頼めるかしら?』


『ヒトの子にはどうする? 気づかれたらマズいか?』


 問いかけるのはルークの声。慎重基質な彼らしい質問でもある。そうね、とスクーデリアは逡巡し、やがて徐に返答する。


『好きにしていいわよ。ただし、悪魔である事は気付かれないようにすることだけは徹底することね。そしてアルテアは私の所に来なさい。私が東の避難所の様子を見てくる間、イルシアエルとテルナエルの相手をしておいてほしいの』


『また随分と無茶ぶりするわね。私があの二柱を同時に相手して時間が稼げると思ってるのかしら?』


 呆れたように拒否するアルテア。スクーデリアを信頼している彼女と言えども、流石に快諾と言う訳にはいかない。事実、アルテア程度では二柱どころかどちらか一方を相手にするのでも無謀と言って差し支えない。それをスクーデリアが知らないはずもない。にもかかわらず、彼女はアルテアに相手をさせようとしている。その真意が掴み切れない。


『心配しなくていいわ。天使との闘い方を教えてあげるから』


『……わかったわ。でも、死にそうになったら助けてよね』


『ふふっ、勿論よ』


 優しく了承するスクーデリア。そして、それに続くように他の悪魔達も了承の返事を返す。精神感応は切断され、それぞれは速やかに行動を開始した。

 さて、とアルテアは小さく息を吐く。スクーデリアからの無茶ぶりに応じてしまったことを今更後悔するように、言葉にならない声が零れた。煮え切らない不満とどうしようもないことを悟った諦観の境地が同時に押し寄せ、横に侍る魔物を撫でる。


 はぁ……スクーデリの無茶ぶりにはいつもの事だけど振り回されてばかりね。


柔らかな体毛に手を埋め、心地よい温もりに頬を綻ばせる。ダ・メルリアと悪魔達が命名したその種はその厳つい外観とは裏腹の温和な性格を持つ魔物で、懐きさえすればヒトの子でも飼育できるのではと噂されるほど。実際は悪魔以外の種に決して懐くことがないため不可能なのだが、そう思ってしまうほどの可愛らしさにアルテアは心を癒される。

 しかし、スクーデリアに呼ばれている彼女にそんな余裕はない。それなりの数の魔物を配下として侍らせたままでは不都合が溜まるため、その指揮権を全て移譲するために精神感応でエルバを呼び出す。


『エルバ、聞こえるかしら?』


『ああ、聞こえてるさ。魔物の指揮権だろ? 他の奴らからは既に受け取った。後はお前だけだ』


『ああ、そうなの。遅くなってごめんなさいね』


 アルテアは、自身の麾下に据えている全魔物の指揮権をエルバに移譲する。特別魔力を使用するわけでも無ければ、何らかの儀式が必要なわけではない。神龍大戦時から続く形だけの業務だ。人間社会で言うならば業務引継ぎのようなもの。軽く雑談を交えた情報共有を行い、指揮権の移譲は完了する。


『それじゃあ、よろしく頼むわね。』


『ああ、勿論だ。それにしても、お前だけ随分と厳しい仕事が振られたな』


 アルテアに与えられた仕事はイルシアエルとテルナエルの相手。一柱だけ難易度が二回り三回りも違うことを、エルバは笑う。


『あら、心配してくれるのね。お望みなら変わってあげてもいいわよ』


『ハハハッ、幼馴染からのありがたいお誘いだが、今回は遠慮しておこう。お前も、魔物を連れて歩くよりスクーデリアと一緒に仕事ができる方が嬉しいだろ?』


 他者を小バカにしたようなエルバの相好が脳裏に浮かび、アルテアは少しばかり眉間に皺を寄せる。しかし、裏を返せばそれだけの軽口が叩けるだけの余裕があるということ。これまで経験してきたあらゆる戦いよりも精神的余裕が確保されている事実を改めて実感し、不必要な不安が洗い流される。


『煩いわね。……でもまあいいわ、そう言うことにしておきましょう。お互い、死なない程度に頑張りましょう』


 というか、とアルテアは疑問符を浮かべる。


『私達って幼馴染だったかしら? 貴方とセナがそうだったのは知ってるけど、私は二柱より1,500年ほど遅く生まれたはずよ?』


『ん? そうだったか? まぁそんなもん、誤差みたいなものだろう』


 あのねぇ、とアルテアは呆れる。普段の生真面目な態度がまるで感じられない大雑把な思考回路を曝け出すエルバに呆れつつ、しかし彼の本心が露わになっていることを少しばかり嬉しく思う。


『……でも、そう言うことにしておくわ』


 それじゃあ、とアルテアは精神感応を切断する。あまりのんびりしているわけにもいかなかった。これがただの一人仕事なら幾らでものんびりしているところだが、スクーデリアをあまり待たせる訳にはいかなかった。彼女がイルシアエルとテルナエルを同時に相手取ったところで死ぬわけない、ということは百も承知。しかし、折角のお呼ばれにも拘らずそれを無碍にする様な態度をアルテア自身とりたくなかった。

 アルテアは改めてダ・メルリアの顔を柔らに数度撫でると、名残惜しそうにその場を離れる。空を飛び、それほど離れていない場所で戦うスクーデリアの許へ急行する。蝶の様に舞い蜂のように刺す可憐な所作は、いつ見ても惚れ惚れするほどの技量。一体彼女からどんな戦い方が学べるのだろう、と内心で密かに期待しつつアルテアは地に降りる。


「お待たせ、スクーデリア」


 昂る感情を抑えて、あくまでも平常心を表出させる。感情を露わにすることは決して悪いことではなく寧ろ積極的に晒して構わない、とアルテアは考えているが、何故かスクーデリアを前にするとそれができない。恐怖心なのか、或いは緊張しているのか。伝説と称して支障がないほどの偉大なる先達を前にしているが故の反応だった。

 そんな彼女の感情を知ってか知らずか、スクーデリアは穏やかで平静な声色と口調で彼女に返答する。気品ある所作やその美貌と相まって、月輪の様な優雅さを辺りに振り撒く。

 戦場の直中にあって平和な街中にあるかのように思わせるほどの余裕は、それほどまでに彼女の実力が相対する二柱の天使と比較して抜きんでていることの証左だった。


「あら、早かったわねアルテア。それじゃあ、早速始めましょうか?」


 ええ、とアルテアは元気よく返事するとともに魔剣を構築する。他の好戦的な悪魔と異なって戦いはあまり好まない彼女だったが、しかし選り好みできるような環境に生きていられないこともまた承知している。そのため、例え誇張してでも精神を高ぶらせるために虚飾に塗れたやる気を生み出すのだった。

 スクーデリアとアルテア、イルシアエルとテルナエルは、改めて肩を並べてそれぞれと向き合う。聖力と魔力がぶつかり合い、死の香りが止めどなく溢出する。


「それで、スクーデリア? 天使との闘い方って言うのは具体的にはどうするの?」


「……そもそも、どうして私がこれだけの力を手に入れられたのか知ってる?」


「え? 確か、アルピナとジルニアさんとの闘いを仲裁してたからでは?」


 たしか、と以前聞いた話を思い出すように答えるアルテア。いつ聞いたかも覚えていない様な古い話だが、悪魔の間ではこれに勝るものはそう多くないと言われるほどの有名な話。そのため、特に何の不都合も無く容易に思い出すことができた。


「そうよ。つまり、戦いが悪魔を成長する。死ななければ問題ないと言うことよ。それじゃあ、頑張りなさい」


 それだけ言うと、スクーデリアはイルシアエルとの闘いを再開する。残されたアルテアは虚を突かれたような態度を露呈させ、慌ただしくテルナエルを迎撃する。

次回、第103話は1/8 21:00公開予定です。

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