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ALPINA: The Promise of Twilight  作者: 小深田 とわ
第1章:Descendants of The Imperial Dragon
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第10話:目的

「おい、アルピナ」


 馬に揺られながら、クオンは頭上を飛ぶ少女に呼びかける。可憐さと冷徹さを両立する黒髪の少女は徐に彼の眼前に降下すると、そのまま後ろ向きに姿勢を変えて飛び続ける。風で髪が靡くことで外見年齢にそぐわない扇情的な魅力を醸し出す。コートのポケットに手を入れたまま、機械馬に運ばれる少年を猫のような目で見下ろしつつ返答する。


「何だ、クオン?」


「昔と地名が変わってるのは当然として、ここからどれくらいかかる予定だ?」


「精々1,000キロ程度だ。機械馬なら半日もかからず行けるだろう」


 機械馬はさらに加速し、襲歩へと歩様を変える。宛ら風と一体化したような速度は、行き交う行商人や旅人を驚愕させる。瞠目のままに過ぎ去るそれから理性を取り戻した頃には既に視界の遥か彼方。まるで鎌鼬が過ぎ去ったような感覚を彼らは味わうのだった。

 そんな機械馬だが、それが通常の馬より優れている点はその速度だけではない。地界の者ならざるその生物は疲労の二字を知らない。機械仕掛け故に為せるその走りは、他の移動手段を凌駕する。


「ところで、今のうちに教えてくれないか? お前達悪魔だとか天使だとか、確か神の子ってお前が言ってたやつについてを」


 そうだな、とアルピナは微笑を浮かべる。そして宙に浮いたまま身体を翻すと機械馬の背中、クオンのすぐ後ろに横乗りする。絶対のバランスでその位置を保ちつつ、脚を組んだまま軽く息を吐く。


「しかし、教えなければならないような特別なことはない。地界の管理を任されただけの、君達と同じく一つの命だ」


 ……それを特別って言うんじゃないのか?


 訂正したくなる気持ちをグッと堪えてクオンは会話を繋ぐ。


「管理か……。それがなんでこんな状況になってるんだ?」


「管理とはあくまでも中立を指す。保護ではない。この一件で君達が滅びようともワタシ達が被る損害はない」


「……つまり、何者かが人間の数を減らそうとしているってことか?」


「理解が早いな」


 流石だ、とアルピナは笑う。その目は平原の遥か彼方をジッと見据え、決して笑ってなどいなかった。しかし、クオンにはそれを見ることは出来なかった。ただ必死に手綱を握る。そうでもしないと簡単に振り落とされそうな恐怖が風と共に身体を包んでいた。


「だが、その目的は何だ? 神の子として何か思い当たる節があったりするんじゃないのか?」


「少なくともワタシがこの地界にいた頃にそれらしき兆候はなかった。当時はヒトの子など眼中になかったからな。あるとすればそれ以降の話だ。ワタシにはわからない。だからこそ、こうして旅をする」


「その龍魂の欠片とやらが役に立つのか?」


 少しずつ速度に慣れてきたクオンは、目線だけ背後を振り向きつつ問いかける。それに対しアルピナはクオンの問いかけをバッサリと否定する。


「それはワタシの本来の目的で必要なものだ。件の役には立たない」


 或いは、とアルピナは心中で自身の発言を反駁する。


 場合によっては必要になる場合もあり得るか? 


「しかし、それの持ち主は君にとって有益となるはずだ」


「持ち主?」


「龍魂の欠片はワタシが地界を離れる前に仲間の悪魔達に集める様に指示していたものだ。アイツ等なら必ず全て集めているだろう」


 つまり、とアルピナはクオンと視線を合わせる。その相好は年頃の少女のようで、一切の警戒心を抱くことを拒絶する。クオンもまたその目を見据え、二の句を待つ。


「アイツ等ならワタシが去った後の地界の様子を知っている。そこから何か得られるものがあるかもしれない」


「なるほど。だが、それなら龍魂の欠片を集めるのに俺が必要か? 確かに一つは俺が持っているが、態々俺を連れて行かずとも全て集めることなんて造作もないだろ?」


「確かにこの旅に君は本来不要。これも含めて全てワタシの気まぐれだ。しかしどのみち君も旅をする必要が生じた。結果的に見れば文句はないだろう?」


 確かにそうだが、とクオンは口吃る。しかし、それ以上の反論は出てこなかった。加えて、反論する気もなかった。どこか話の核心から逸らされているような気がしないでもないが、それもいずれわかるかもしれない。そう思うことにするのだった。

 それで、とクオンは話を転換する。


「取り敢えずお前の言う通りに西に向かってるが、その仲間の悪魔はまだ地界にいるのか?」


「魔力の扱いに慣れないうちは難しいだろうが、魔眼を開けばその位置とおおよその強さは鑑別できる」


 それを示すようにクオンは青い瞳を金色の魔眼に染め輝かせる。蛇のように鋭いそれは心の奥底まで見透かされているような妖しさを覗かせる。


「ワタシもアイツ等も総じて保有魔力量は多い。故に、同じ地界にいる限り双方の位置を把握することは容易だ。しかし、その魔力が何処にも感じられない。同量の聖力は感じられるがな」


「魔界にいるとかじゃないのか?」


「君と会う前に一度魔界へ立ち寄ったが、魔力は感じられなかった。そこへ至るまでの龍脈も同様だ。つまり、アイツ等の身に何かがあったということ。それが何を意味しているかは不明だが、確認する必要がある」


 ふぅん、とクオンは相槌を打つ。イマイチ現実離れした話であるために上手く脳内で処理が追いついていなかった。その為、取り敢えず表面上は理解できた、と示すためにとった行動がそれだったのだ。

 対してアルピナもまた同様に、クオンの理解力をそれほど期待してはいなかった。かつて彼女が地界に降り立っていた、悪魔の存在が広く認知されていた時代とは異なり今や悪魔の存在は眉唾物。突拍子もない荒唐無稽な与太話だと断じられても仕方ないと知悉していたのだ。


「天界はどうなんだ? まあ、悪魔が天界にいるなんておかしいとは思うが……」


「可能性は捨てきれないな。そもそも悪魔は天使と相性が悪い。正確に言えば天使は悪魔に強く、悪魔は龍に強く、龍は天使に強い三竦み関係。従って悪魔は基本的に天界へ行くことはない。君子危うきに近寄らず、という言葉が何処かの世界であったが、何もそれは賢人に限った話ではない。愚者も愚者なりの危機管理能力を持ち合わせているだろう? と、なれば場合は一つしかない」


「天使が悪魔を襲ってる?」


 正解だ、とアルピナは微笑を浮かべる。しかしその言葉はアルピナ自身によって否定される。


「しかしあくまでも可能性の閾値を超えない。三竦みの相性も所詮は実力が拮抗した者同士の話。アイツ等がそう簡単に負けるとは考えられないからな」


「だったらどうして……」


「それがわかれば苦労はしない。特に、神の子の歴史を知らない君には到底不可能だろう。ワタシもある程度予測を立ててはいるが、それを裏打ちする根拠がない」


 だからこそ、とアルピナは指を銃にする。静寂と共に指先から放たれた魔力の砲撃は、遠くを走る聖獣の群れを破壊する。肉体的死を迎えたそれらの魂は、復活の刻を待つべくアルピナの手によって神界へと送られた。そこにはバラバラになった肉塊だけが残された。


「直截天使どもに聞いてみよう。魔眼で見る限り、このまま進んだ西の町から強い聖力が鎮座している。或いは聖獣の襲撃と関係があるかもしれない」


「できればそうであってほしいものだな」


 クオンは手綱を握り直す。最高速度を保ち走り続ける機械馬は、平原を抜けて王国の西側に広がるカルス・アムラの森へと入っていった。

第11話は、明日10/08(土)午後9時過ぎ公開予定です

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