九、
九、
「麦茶ぐらい飲んだ方がいいだろう。顔が真っ白だよ。取ってくるから、ここで待っていなさい。」
「え?あ、ありがとうございます。」
住職さんが座っていた座布団から立ち上がり、代わりに私を座らせる。何とか口にしたその言葉に、彼は優しく頷くと麦茶を取りに廊下を歩いていった。
狐も住職さんもいなくなり、元々静かだったこの空間が更に静けさを増す。開闢の疫を淡々と振らせ、藍色にセンセーショナルを奏でる夜の色。啓明を発すピタゴラスは七色の冠位を極彩色と読んだ。甘美な風が頬を撫で、鬱陶しい生温さを感じる。それでいて、汗ばむ陽気の中で唯一のオアシスであるとも思える。
ザラザラする畳に足を添わせて、ゆっくりと天井を見あげた。木目が小人を連れてくる。そして、その小人たちが蔓を伝ってあちらこちらへと移動する心象風景。ああ、これが古さ。これが、木々が重ねる年の偉大さ。ふっと、微笑んで自分の家に帰っていたかのように寝転ぶ。赤い着物が私の動作につられたように畳に広がった。そして、簪がチリっと音を鳴らし、更けて行く夜を垣間見るように光源を持ったのだった。
古い建物って、なんでか木目の傍に小人たちが住んでいるように感じるんですよね。
そこにはきっと、人の喧騒を嫌うけれど藍色の四つ葉のクローバーを咥える子供達だけを愛する、七人の王様がいるんじゃないか…。なぜか、そんな妄想をしてしまうものです。
まあ実際に、小人がいても僕は近視なんで見えないとは思いますが。でも、そんな童話のような存在が世界のどこかにいたら面白いなと思う今日この頃です。