八、
八、
「住職さん、久しぶりだな。」
「ああ、お前さんか。随分長いこと留守にしていたものだから、どうしているかと心配していたんだよ。」
廊下を歩く途中で、彼がおもむろに開けた障子の向こうには、ちょうど夕食を食べ終えたばかりなのか、静かに縁側で池を眺めながら涼んでいるお坊さんがいた。皺だらけの手が袈裟に上に置かれ、大事そうに数珠が握りしめられている。
蛍の微かな灯りに照らされる部屋で、私に気づいたらしい住職さんが、丁寧に頭を下げた。青い灯篭の灯りと精悍な栞の匂い。縁側に置かれた麦茶が、氷をゆっくりと溶かし、時折からりと音を立てる。閑静な雰囲気が3人の間に立ち込め、その心地よい中でやがて狐が口を開いた。
「こいつを、ここに置いてもいいか?俺と同じで食べるものとかは気にしなくていい。...むしろ、幸運を運んでくれるかもな。」
ニコニコと微笑む住職さんを見つめる。すると、彼は私においでと言うように手招きをした。
「いつまでもここに居るといいよ。幸い、部屋だけは沢山あるからね。食べるものだって、遠慮しなくていいんだよ。」
その言葉を聞いて、恐る恐る私が近づくと住職さんは優しく頭を撫でてくれた。
「心細いだろうから、暫くは彼と寝るといい。大丈夫。この家から、追い出したりなんてしないからね。」
どう、表情を作ったらいいか分からず、困って住職さんの皺だらけの顔を見ると、彼はさらに優しい笑みを返してくれた。
「コセン、この子の布団を2階から持ってきてくれ。赤い生地に菊が描かれた布団だったら、二三日前に干したから綺麗なはずだ。」
「ああ、分かった。」
コセン?不思議そうな顔をする私に気づいたのだろう、彼はそっと私に近づくと耳打ちしてきた。
「コセンって言うのは、名前が無いと呼びにくいって言うから適当に名乗ったんだ。」
なるほど。納得して頷くと、琥珀の瞳を狐らしく細めた彼はひらりと手を振って、布団を取りに2階へと向かったのだった。
住職さん優しいな…。
僕、お盆になると実家の墓参りに行くんですけど、そこのお寺のお坊さんがすっごく優しいんですよね。若い人なんですが、何故か貫録を感じる佇まいで、僕が小さい頃なんかはよく遊んでくれました。ただ、ここ何年も会ってないから、今年の夏には会えるといいなと思っています。