第二章 十二、
第二章
十二、
除夜の鐘。光陰矢の如し。カラスが私の頭上を飛び去って行く。
「住職さん、今日も落ち葉を掃くんですね。」
「もちろんだ。コセンも手伝ってくれるといいんだけどね。あの子は放っておくと、すぐ絵を描きに行ってしまうから。」
「私が手伝うから、いいわ。」
季節は深まった。秋の栄華が寺を取り囲み、夏の光景を搔き消してしまうように、色付いた葉っぱが境内に降り注いでいる。
「ちりとりを抑えていておくれ、落ち葉を入れるから。」
「わかった。」
着物の袖が地面の土で汚れないように気を付けながら、落ち葉が入れやすいようにちりとりを手で押さえた。落ち葉が一葉残らず、収まる。住職さんは、素直にちりとりを抑える私を見て、優しく頭をなでてくれた。
「掃除が終わったら、甘いお菓子でも食べようか。もちろん、コセンには内緒でな。」
「うん。」
昔…百年位前か、家主様が座敷童への捧げものだと言って饅頭や金平糖をくれたことがあった。執筆途中に甘いものを食べることが好きな家主様だったから、余ったものを供えただけかもしれなかったが、それでも美味しかった。
「さあ、行こうか。」
境内を掃き終えた住職さんが箒を壁に立てかけて、私を手招く。
山際に隠れ棲む神は彼岸花を携えて、風車に息を吹きかけた。泣き虫な通り雨を、秋雨と謡い、遊覧船を見送る二十日鼠を友人とする。霧雨に、うっと目をつむれば夕焼けが瞼の裏を焼いた。
「うん。」
住職さんが、しわだらけの顔に笑みを浮かべる。私よりは大きいけれど、狐よりは小さい体が私に歩み寄り、そっと手を握った。枯れ葉が御手洗に浮かび、それは泡沫を示す災いにも見えた。
第二章に入りました!
ちょうど、折り返し地点…なのかな?
座敷童ちゃんと住職さんの会話が、わりかし気に入っている今日この頃です。