第十四話の4
建物はすでに火に包まれていた。
ここは、再びの競馬場…。そこに現れた最後の魔物は魔法少女たちが到着する前に破壊の限りを尽くしていた。魔物の目から放たれる光線が全てを爆破する。競馬場の殆どの施設がすでに破壊され燃えていた。
到着した三人は隠蔽魔法を最大限にかけねばならなかった。外部との通信までも完全に遮断し、全ての市民からこの一角を完全に認識できなくした。
戦闘が開始され、すでに数分が経過してた。
彼女たちも感づいていた。この魔物は違う。
首のないゴーレムタイプの魔物。三つの目それぞれから破壊光線を発する。巨大で凶暴。今までのような生ぬるさは全く無かった。
動きに、憎しみと怒りがあった。
落谷が変化した時にはない、圧倒的な迫力があった。
それが示している事も薄々感じ始めていた。
「この魔物の中には違う人物が入っている」
三人の魔法少女の攻撃も、普段とはまったく次元の違う苛烈さであったが、この魔物の力はそれを上回っていた。
俺の前を俺が歩いている。
すべてが真っ白い空間の一箇所に歩き続ける落谷がいて、彼の足元だけに歩いている世界が映し出されている。彼の足元にだけ舗装された道が写っている。彼が今歩いているところは、駅の中?
「これがカレの、昔の落谷落土の最後の旅の記録の始まりだ。覚えてるかい?」
「…いや」
俺は過去の俺を見る。白い空間の中、立体映像のように歩くモーションだけ繰り返している。顔は、いつも通り暗い顔だが、なにかに焦り急いでいるようだ。
「少し時間があるから、話をしよう」
俺と契約したという顔のない男がこちらを向き話をし始めた。過去の俺は、まだ歩き続けている。
「恨みというのは美しいものだ」
「そうか?」
「恨みというのは、この世界に一つしか無い。一人に一つだ。全てがまったくのオリジナル。唯一無二の宝石だ」
「幸福だって、人それぞれだろ」
「ハッ!幸福? アレこそが類型化の極地じゃないか」
顔のない男は心底くだらないという顔をした。
「愛する人ができた、結婚した、子供が出来た、家庭が円満、孫が可愛い、老後は穏やか……心底ッ …どうでもいい」
悪魔的な事を悪魔が言っている。
「型通りだ。なにが多様な幸せだ。ありえない。全て同じパーツ同じ思想、同じという安心感じゃないか。そんな物がオリジナルなものか、芸術足り得るか!」
「恨みだって変わらないだろ」
「本気でッ 言っているのかい?恨みに、同じものは二つとない。
時代×社会×境遇×価値観の二乗!
同じ恨みというのはこの世に存在しない。全てが完全なるオリジナルだ!」
「恨みが…オリジナル?」
「そうだ、キミの抱える恨みはたった一つ、世界に一つだけの華だ。どうして他人が、キミと同じ恨みを抱ける?」
「言われればそうだ、俺に恨みがあるとすれば、それは俺以外には理解できない恨みだ」
「そういうことだ。キミの恨みはキミの胸でだけ輝く暗黒の太陽だ。それを他人に移植しても決して輝くことはない」
「だが、幸福は…」
もし幸福を他人から奪えたら、俺は幸福になれるかもしれない…一時だけなら。
「ワレワレは長い探査の結果、キミという太陽を見つけた。恨み輝く炎の光でキミはワレワレを導いたのだよ」
暗黒の太陽を抱えた過去の俺は、電車に乗っていた。新幹線? 彼の旅路は早回しされている。実時間ではない。次に見た時にはバスに乗っていた。
「もうすぐ過去のキミの旅は終わる。それが現在の因果を生む結果となる」
俺の前で歩き続ける男の顔が変わった。暗黒の決意に満ちた顔に穏やかさが一瞬だけ浮かんだ、そしてその足が早足に変わる。
彼の周囲の光景は見えなかったが、彼の足元だけは見えた。舗装されていない地面、山か崖といった感じだ。
過去の俺の足が早まり、駆け出した。
「ここからが見どころだよ」
俺の背後から奴が悪魔のように囁いた。
駆け出した俺はある距離を走った末に、飛んだ。
飛んだ姿勢のまま体は下に向かって回転し、地面に対して逆さまになった。風が髪をはためかしている。
落下している。飛び降りたのだ。
俺は、飛び降りた…その目的がなんなのか、考えるまでもなかった。
「うそだ、やめろやめろ、止めろォ!」
俺は叫んで止めようとしたが、過去の俺は映像だ。何もすることはできない。
空中に停止した状態で落下し続ける俺。その下の空間に大きな岩が現れ、俺の顔はその岩に向かって…
その瞬間、全てが止まった。
俺の落下は止まり、なびいていた服も髪も停止している。過去の俺の再生は一時停止された。
「ここだったんだよ」
顔のない男がしみじみと言った。
停止した俺は、岩を見開いた目で見ていた。恐怖ではなく喜びに口元を歪めて。
「この瞬間にワレワレはキミと邂逅したんだ」
腰が砕けて座り込んだ。俺は、自分の飛び降り自殺を見させられのだ。
周囲の光が消え、暗闇となった。
「これが、オチタニオチドが世界の破壊者たる理由だ」
あの男の声が響くが、その姿は闇に隠れて見えない。俺はこの男が言っていることが理解できた。
「世界とは、人と人が寄り集まったものでも、ましてや宇宙のことでもない。世界とは自分自身のことだ。自分こそが唯一の世界。作るのも、歪ませるのも、そして破壊するのも自分にしか出来ない」
「理解が早いね。さすがワレワレが見込んだオチタニオチド=サンだ」
俺は座り込んだまま動けなかった。
「じゃあ、俺は、誰なんだ?」
「それについての話はこれからだ」
明かりがつくと、俺はあのダイナーにいた。




