第十四話 「キミさえいなければ世界は回る」 開始
朝、ゴミ出しに表に出ると向かいの家の玄関から吐息が出てくるのが見えた。
夏休みの補講のためか制服姿、夏の朝によく似合う清々しさだった。
俺はゴミを出し、アパートの入口で彼女の待つ。
俺に気づいた彼女は、歩くスピードがゆっくりになり、ステップを踏むようにして近づいてくる。何度も俺の方にアゴを向けて
「なにか、話すことがあるんじゃない?」
と、無言で会話を要求している。
「おはよう、補講かい。学生は大変だね」
「ええ、おじさんと違って学生は忙しいので」
彼女は微笑みながら答える。しばらく余裕があるようで、足を止めて、まだ話をしたがった。
「落谷さんと私の関係ってなんなんでしょうか?ただの隣人?」
「ただのって、わけじゃないが隣人ではあるね」
「じゃあ、友達?」
「公の場で女子校生と友達とは言いづらいな、ノーだ」
「じゃあ、恋人?」
「ノー」
俺のはぐらかしに彼女も反応しない。
「じゃあ、家族?」
「それこそノーだ」
「それこそ、それこそなんなの?私達は」
「そりゃあ…」
俺が気の利いたことの一つでも言おうとした時、吐息の家の玄関が開いた。彼女の母親が出てきたのだ。俺はいそいでアパートの壁にその身を隠した。
母親は吐息に今日のスケジュールを聞き忘れていたようだ。また友達の家に泊まるのか、等々話していた。仲が良好なのがすぐに分かった。あの吐息の母親なのだ、おそらくとんでもない美人なのだろう。あいにく俺は一度も会ったことがないし、会わせる顔もない。
「もう大丈夫だよ」
壁の上から覗き込んだ吐息が言った。母親は家に戻ったようだ。俺は壁に座り込んだまま彼女の顔を見上げていった。
「これが俺たちの関係だよ。俺は君の、母親に挨拶もできないんだ」
それを聞くと、吐息は寂しそうだった。
俺の部屋に三人が集まり、三人のトーテムもテーブルの上に集合していた。それぞれが同じ様に動き、AIを搭載したロボット玩具が並んでいるかのようだ。そのうちの一体が切り出した。
「ついに最後の魔物が現れる。魔物を倒すことによってオチタニの体からアビスの門は切り離される」
「それは確定事項なのか?」
慎重を期すために俺は確認した。
「確定している。ワレワレには三千年に渡る戦闘の記憶があり、現れた門を破壊して侵略阻止し続けてきた」
喋り手のトーテムが変わるが、どれが誰のトーテムかは相変わらず解らない。
「その際、常に門の所有者は魔物と共に戦い消滅させられている。彼ら全て強固な破壊衝動に突き動かされた破滅願望者達だった。彼らとの関係は敵対しかありえなかった」
「キミの特別性とはそこだ、オチタニ。キミの協力的態度は歴史に残る希少性だ」
「本来なら、魔物は複数匹呼び出され、それよってこちらの被害は甚大なものとなっていた。歴史上、何十人も少女が犠牲となった」
入れ替わりで喋るため、もはや、どのトーテムが喋っているのか分からなくなってきた。それでも、自分は役に立った、この少女たちの助けになったと認定されたことは喜びだった。彼女たちもその感謝の念を視線で伝えてきてくれた。
「おそらく、キョウ、決着がつくだろう」
今日から始まる最後の魔物化、これを倒すことで、俺の体から門が分離する。門は守衛のいない完全な無防備状態で現れることになるため、破壊は容易い。
破壊されれば、再び当面の平穏が訪れる。
次なるアビスから侵略が起こる、新たな門の所有者、破滅主義者の登場までの、恐らく数十年先までの…。
破壊されれば、俺は門の所有者でなくなり、
彼女たちは魔法少女ではなくなる。
「私達の関係は?」
そこで終わるのだ。




