第十話 完
布団がひかれたが、三人の魔法少女は変身を解かぬまま、俺の寝る枕の回りに座っていた。
「どうしたの、寝ないの?」
俺が聞くと、吐息が
「その、今、添い寝すると危ない感じがして…」
とモゾモゾしながら言った。他の二人も同様のようだ。俺もそれには賛成だった。
一人寝床につくと、俺の頭の回りに少女たちの膝と胸と見下ろす顔が見えた。
「すっごく寝づらい…」
先程までの異様な熱波を体験した後のクールダウンがあったため、眠気が減っていた。ある程度の山を超えると眠気は去ってしまうようだ。
「あんまり眠くないです…」
俺がそう告白すると
「ハァァ?今までなんのために頑張ったと思ってるの!」
リンカが怒り、吐息も静かに切れているのが分かった。エリはまだ先程の余韻のせいか、静かなままだった。
俺はさっきの空気を懐かしみ提案してみた。
「膝枕とかしてくれたら、寝れるかも」
パキっと空気が割れる音がした気がした。
「ハイハイ、膝枕ですね。いくらでもお安いご用ですよ」
優しい吐息がそう言うと、自分の膝を俺の頭蓋骨に押し当てた。他の二人も同じ様に膝を頭に押し当てる。三人の膝の枕で俺の頭をガッチリとロックしたのち、
ギリギリと押しつぶし始めた。
三方から体重をかけられ悲鳴を上げる俺の頭蓋骨と俺自身。
「すんません!調子乗ってましたァー!」
叫んだ俺は、気絶するように眠りに落ちた。実際に気絶したのだ。
「寝てる…」
現地に駆け付けた魔法少女三人を待っていたのは、立ったまま寝ている魔物であった。
魔物の強い破壊本能を上回る落谷の睡眠欲求の勝利だった。
「じゃあ、とっとと終わらせちゃいますか」
エリの合図とともに三人の攻撃が掛け合わされ、魔物は何もすることなく粉砕された。
魔物から取り出されても落谷は寝たままだった。
「ほんと、しょうがない大人ですね」
そういいながら彼の腕をとり自分の胸に抱きかかえる吐息。同じ様に彼を後ろから抱きかけるリンカ。足を持ち上げるエリ。
三人に抱えられながら彼の自宅の寝床に運ばれる落谷。
彼が起きていれば、その光景を
「フランダースの犬の最終回みたいだな」
と言っただろう。そして女子校生にはまったく通じずにショックを受けたはずだ。
その意味でも、今日は彼にとって一番ラッキーな日だったのかもしれない。




