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夜な夜な魔法少女に襲われてます  作者: 重土 浄
第六話「キミはまだ、魔法少女に狙われている」
21/51

第六話の2

 「危うく首が飛ぶかと思った」


 「・・・」


 誤解を解いてなお、木須屋さんの目は冷たかった。


 「俺のことは信用しなくてもいいから、エリちゃんのことは信じてやってくれ」


 「その言い方だと、なにか裏があるみたいなんですけど」


 「ないです。俺を信用してくれ」


 「どっちなんですか」


 俺と木須屋さんは書庫の部屋の隅で顔を近づけコソコソ話だ。エリちゃんはリビングの方で木須屋さんが持ってきてくれた手作りの料理を並べている。


 「やっぱり私も、今日はこっちに……」


 「駄目だよ、今日の木須屋さんはお休みなんだ。それは話しあっただろ?休みの日はしっかり自分の事をしないと。会いたい人に会ったり、したいことをしないと。俺だって君にこれ以上迷惑はかけたくない」


 俺の言葉に木須屋さんはなぜか不満顔だ。


 「さ、今日は帰って。あ、料理ありがとうね。美味しくいただくから」


 「え、ちょ、ちょっと」


 強引に木須屋さんを追い出した。彼女にはあまりにも世話になっている。これ以上負担をかけるわけにはいかない。


 リビングに戻るとエリちゃんが


 「料理二人分にしては多いんだけど、吐息も一緒に食べるつもりだったみたいよ」


 「う…追い返したのは不味かったか。でもこれ以上、木須屋さんに迷惑かけるのも…」


 「落土」


 いきなり敬称ぬきで呼ばれた


 「なに?」


 「吐息」


 「え?」


 「そろそろ吐息って呼んだら?木須屋さんじゃなくって。さん付けする間柄じゃないでしょ。命かけあってるんだから」


 「でもね、俺みたいなのに名前呼ばれたら木須屋さんもどう思うか…」


 「わたしはずっと、誰からもエリちゃん、って呼ばれる。なぜか会った全員から」


 「そうだろうね」


 「だからわたしは、相手を好きなように呼ぶようにしている。だから、落土。そう呼ぶ」


 「俺もエリちゃんって呼んでいるからなぁ…。じゃあ、吐息…」


 言ってみたら恥ずかしくなる。相手方のご両親に彼女ネーミングに関して文句を言いたくなった。


 「吐息……ィいただきますか」


 「ご飯までついてるよ。たぶんこの大きいタッパが落度のだよ」


 ご飯は大きいタッパが一つ、小さいタッパが二つあった。三人で食べる用だ。


 「明日、吐息にあやまらないとまずいな」


 俺はそう思いながら、うまそうな料理に手を付けた。




 夜の十一時を回った。そろそろ寝る時間だ。エリちゃんは未だに漫画を読んでいる。俺は彼女をずらして布団を引く。


 「はい寝るよ、漫画はしまって」


 完全に姪っ子を叱るおじさんだ。


 ようやく本を元に戻し、寝支度をしたエリ戻ってきた。明かりを消して俺も寝床につくと、俺の布団の上にエリがのしかかってきた。


 「わたし、たぶん寝ちゃうからここで寝るね。ここなら落度が消えた瞬間に目が覚めるから」


 ほとんど俺の上で寝るような形になっているエリ。だが彼女自体が軽いためか苦しくはない。


 「構わないよ。転げ落ちなければね」


 俺が体を揺らすとキャッキャッと笑いが返ってくる。


 「おやすみ、気をつけて」


 エリがそう言ってくれた。これからの数時間は危険な時間だ。俺とエリと吐息にとって、命がかかった数時間が始まるかもしれない。


 本当は彼女たちにこんな危険な事に参加してほしくなかった。できれば平和でリスクゼロな普通の生活をしてもらいたかった。


 俺をすぐさま殺せばそれが出来たのに、彼女たちはそれ以外の道を選択してくれた。


 だから俺は彼女たちを守らなければいけない。なんとしてでも。


 布団の外に伸ばした手をエリの手が握った。


 今、俺たち二人は危険な戦いの場に向かうために、布団に入って寝ている。助け合えるのはお互いしかいない。


 これから数時間、平和な朝を迎えるまで、この手を離してはいけない。


 外の雨音はより激しくなり、遠くに雷の音が聞こえはじめた。


 この荒れた天候は朝まで続くそうだ。






 エリが見ていた夢は子猫になって親猫の背中でうたた寝する夢だった。


 ガクンと体が落ち夢から覚めた。彼女を支えていた存在が突然消えたのだ。落谷の不在を確認したエリは置いておいた携帯で吐息にコールする。ワンコール前に繋がりすぐに切れた。すぐさまエリは変身した。


 窓を開け、外の豪雨を見た時には、すでに隣の家から高速で空めがけて飛んでいく吐息の姿があった。雨粒のカーテンを切り裂いて上昇していく。エリもそれを追って空へ飛んだ。


 豪雨を高速で突っ切る二人。雨のシャワーを突き刺す二つの線が空を目指す。魔法である程度の雨は防げるが、雨足が強すぎて二人共びしょ濡れになった。


 二人共衣服が透けるのも構わず、空の一点に止まり周囲を見渡す。闇の夜の豪雨で視界は悪く、彼女らの強化された視力と魔法感知の能力をもってしても、落谷が変身して現れた場所が見つからない。


 雷がいくつも市内に落ちる。雷雲が空を覆い尽くしている。


 「いた!」


 エリが叫ぶ。雷の一つが魔物の姿を一瞬照らし出した。川の堤防の向こうにその姿を捉えた。


 二人共に同時に飛び出す。雨量は激しく、滝の中に飛び込むのに近かった。


 


 大きな川の河川敷、そこに巨大な魔物が立っていた。三十メートルクラスだ。広い河川敷に立っていても存在感が衰えない。雷が何度も落ち、その姿を照らし出す。両手が武器化して刃物になっている。今までより遥かに好戦的な姿だ。


 魔物の上空に到着した二人は周囲を全て遮蔽魔法で囲った。広い河川敷はただの草むらか野球場だ。今回は被害を少なくすみそうだ。


 落雷の頻度が増し、街全体が雷と光と音に支配されている。次々と雷は落ち、あらゆる方向からフラッシュが瞬く。


 「ウソ、落谷さん!」


 吐息が見つけたのは魔物の頭部、大きな三メートルほどの頭の頭頂部に生えているものだ。


 「うわ、落土だ」


 エリも見た。巨人の頭部から生えている落谷の上半身を。


 巨人と同じ質感で塗りたくられ、上半身だけの彫刻のようだが、間違いなく落谷本人であろう。それはひと目見れば分かった。


 普段なら頭部に収納され魔物の脳の一部としてあった落谷が、その上半身だけ外部に飛び出している。今までなら内部に「囚われている」と見ることが出来ていた落土だったが、この姿はまさに「魔物を生み出す存在」という彼の実像を表していた。


 落土の姿にショックを受けた吐息は


 「大丈夫、大丈夫、大丈夫…」


 自分を励まし心を保とうとしていた。


 「吐息!はやくあのおじさんを助けてあげましょう!」


 エリも吐息を励ました。


 「うん、いきましょう!」


 ようやく吐息も槍を構えて戦いへと降り立った。


 「落土~止まっててよー!」


 エリが地面を蹴り魔物の足を狙う。まず機動力を封じる作戦だ。彼女の棍棒からミサイル弾頭の頭だけが顔を出す。棍棒のヒットと共に爆発し打撃箇所を確実に破壊する事ができる攻撃だ。


 同時に上空から吐息が斬りかかる。両者同じタイミングでの攻撃。互いが互いの囮となって、どちらかが必ずヒットするはずだ。魔物はまだ動かない。落谷の意思が体を支配している証拠だ。


 同時に襲いかかった二人の攻撃が、空を切った。


 驚くべき瞬発力で飛び上がった巨体は雨を塞ぎ、二人のいる空間の雨をすべて消した。


 吐息は自分の頭のすぐ上に魔物の巨大な足、トラックサイズの足の裏があるのを重力のようなもので感じた。


 その足で上から蹴られた。


 地面に叩きつけられバウンドした吐息の上に再び豪雨が降り注ぐ。


 攻撃を空振りしたエリは空中をネコのようにしなやかにカーブを描き、加速を殺さず魔物の着地点に走る。横目で吐息の落下を見るが、そちらに駆け寄るような真似はしない。


 着地の足を狙った打撃を放つが、魔物は着地より先に、手についた刃物を地面に突き刺し足を防御した。エリの棍棒はその刃物に当たり爆発するが、魔物の最硬部であるため破壊できない。ハンマーの爆裂で動きが止まったエリに向かって、もう一方の腕についた巨大な刃が振り下ろされる。まるで躊躇がない、人体を二つにすることを狙った攻撃だった。


 回避不能だったエリの代わりに吐息の槍による横殴りの攻撃が、魔物の武器を弾いた。


 「落谷さん!」


 吐息の叫び声にわずかに反応を示す魔物。頭を抱えるようにして後退を始める。魔物のうちに潜む落谷が、自分のした攻撃を悔やみ苦悩するかのような動きを見せた。


 雷は鳴り続け、雨の勢いは止まらない。川は増水を始めている。


 「ビ、ビエェェェェ!」


 魔物は大きく鳴いた後、動きをゆっくりと止めた。両手の武器を下ろしてみせた。


 二人が安心しかけたその時、一本の雷が巨大な魔物の頭部の最突端、落谷の上半身に落ちた。


 



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