あなたの真実の姿が見えます。見えるったら、見えるんです!――と聖女は言った。
ええっ、真実の姿ですか? いや、僕、ただの農夫ですけど。
でも目の前の聖女様は神々しいまでの美しさで、おごそかに首を横に振った。
「私には分かります。私には全てを見通す力があるのです。あなたは――私の伴侶になる人でぇーす!」
うぉっと!
聖女様が飛びついてきたから、僕はヒラリとそれをかわした。
「ああん、何で避けるんですか! 私は聖女なんですよ? 国中から敬愛を受け、自分で言うのも何ですが、容姿だって――」
だからですよ。こんな美人に抱きつかれたところをアイツに見られでもしたら――
「ハーンースー……?」
聞き覚えのある声に緊張が走った。幼なじみのロベリアだ。
「こんなとこで何してるのかなぁ、ハンス?」
ウン、何デモナイヨ? ちょっと立ち話を――だから、その包丁どこかにしまってくれないか。
「ハンスさん、誰ですかこの女! いいえ、誰でも関係ありません! この女は魔族です! 全てを見通せる私には分かります! この女はあなたを誘惑しにきた、とーっても悪い魔族なのです!」
ええ? いや、でも、僕と子供の頃から一緒に育ってきた――
「バーレーたーかー!」
ロベリアはブルブルっと身震いすると、みるみる姿を変えた。頭からツノが生え、背中から漆黒の翼が広がる。そこには顔にソバカスの残る愛らしい村娘の面影はどこにも残っていなかった。しかも、ものすごいナイスバデーだ。
「「ええっ!?」」
重なった声に隣を見ると、聖女様があわてて口を押さえた。
いや、なんであんたも驚いてるの。
「こうなっては仕方ない。我は魔族の女王ロベリア! ハンスよ、今こそ我が伴侶となれ! そして共に世界を征服するのだ! 我は世界の全てをそなたに捧げよう! もちろんこの美貌もついてくるぞ? さあ我を選べ、ハンス!」
えー、あー、何から突っ込んだらいいのか分からないけど、僕はこのまま村で平凡な農夫として生きていきたいです。世界征服なんてガラじゃないし。
「そうです! ハンスさんは私と一緒にこの村で平和で慎ましやかな幸せを手に入れるのです!」
いや、そんなこと言ってませんから。
とか言ってると、後ろからチョンチョンと背中をつつかれた。
あれ、近所のデイジーじゃないか。
「あのね、デイジーね、お兄ちゃんのお嫁さんになりたいの……」
もういっそこの子に決めようか。そう思って目を閉じて天を仰ぐ。それでもこの状況は消えてなくなったりはしないのだった。
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