暗闇の中で
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少し慌ただしいミレイの力を借り、本日の仕事を終えた。
夕食のため休憩室に戻ると、おじいちゃんがいつもより力を入れてつくった料理が並べられていた。
「なんか気まずいっすね」
いつもはワタシと祖父母、そしてケンさんでの夕食の場に、ワタシの母と妹がいる。
さすがのケンさんも居づらいようだ。
「気にすることはないよ。それでは本日もお疲れさまでした。ミレイも助かりました。ではいただきましょう」
「いただきます!」
女将の締めの挨拶で、みんなで夕食を取り始めた。
「相変わらず、おじいちゃんの料理はおいしいね」
「今日は2人がいるから、いつもより力をいれたんじゃ」
「おじいちゃんの料理はいつもおいしいけどね」
妹の海外での話や母の反抗期の話、ケンさんの都会時代の話などで夕食の場は盛り上がり、
並べられたたくさんの料理は、あっという間に無くなった。
「タケ。今日は一緒の部屋で寝たらどうだい?」
「・・・そうですね。そうします」
いきなりの女将の提案に少し戸惑ったが、母の悩みについて答えてあげるためにも、そのようにしたほうが良いと思った。
「では俺も帰ります。おつかれした」
「お疲れさまでした」
夕食の片付けを終えて、ケンさんが帰宅した後、部屋に3人で戻る。
部屋では、妹がいることで先程のような気まずさはなく、家族3人で楽しく過ごすことができた。
ただ例の話題は中々言い出せず、布団に入ってやっと切り出すことができた。
「ねぇ母さん。私は女将になりたいよ」
「・・・そう」
遠回しに言っても仕方がない。
そう思って結論から言った。
そこから少し間が空き、母が口を開く。
「旅館で働くって言った時は、どうやって辞めさせるかを考えていたのよ。朝は早いし、夜も遅い。休みがあんまりないことも、ここに住んでいて知ってるからね・・・」
ワタシは何も言わずに母の言葉を聞く。
「親ってのは子どもの幸せを願っているものだけど、それが自分の経験から勝手に判断してしまうのかもね」
「お母さん。私が言ったとおりでしょ。タケルは大丈夫だよ。心配し過ぎだよ」
「そうね。あんたはやりたいことがここにあるのね」
明かりを消した暗闇の中で、天井を見ながら会話を交わす。
「だから心配しなくていいよ。私より、この妹のことを心配してあげてよ」
「いや、私はもう立派なオ・ト・ナよ」
『どこがだよ!』
ワタシと母のツッコミが重なる。
先程何時間も話したにもかかわらず、暗闇の中で、家族3人でさらに何時間も話を続けた。
先日泊まりに行った際に、今回の話のように、この暗闇の会話をしました。
思い返せば、学生時代の修学旅行などでも、暗闇の会話が盛り上がった経験はないでしょうか?