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バブル崩し

 ――そしてすぐに、運命の日は訪れる。 


 経済大国であり基軸通貨リュートを取り扱うドルガン連邦国。

 その国家元首であるミズガルがレンゴクに対する声明を発表した。


 ――基軸通貨であるリュートの座がおびやかされている。

 流通しているリュートは闇へ流れ減少し、金庫番は経営危機に立たされた。これを放置すればいずれ、リュート通貨の存在意義が危うくなり、国家による経済のコントロールが立ち行かなくなる。

 それは、新通貨レンゴクなどという正体不明の異物に、ドルガンの民が支配されるということだ。

 加えて、レンゴクはレート変動が激しく、通貨としては適さない。

 ゆえに、ドルガン連邦国はレンゴクを通貨として認めない。それを扱う者は国家への反逆罪と見なす――


 と。

 冷静に考えてみれば、当たり前のことだ。

 通貨の造幣や金利調整などによる経済影響を特権として、国は存在している。その存在意義を崩されては、国の威信に関わり崩壊しかねない。  

 現在のドルガン国家元首ミズガルは、非常に攻撃的な性格で、自国の利益を最優先とする独裁者寄りの竜人だった。

 世界的にも大きな影響力を持つ男だ。

 ノベルがマークしないはずがない。

 彼は秘密裏に情報屋を雇い、ドルガン国内に「新通貨が世界の基軸通貨になる」、「金庫番はもういらない」、「働く必要がなくなる」という噂を流させ、ミズガルの行動を促したのだ。


「――アリサ、覚悟を決めるときが来たよ」


「そんなもの、とうにできています」


 ドルガンに送っていた情報屋から、ミズガルの声明発表を聞いたノベルはすぐに動き出し、ルインから投資先の全商会にレンゴクを手放すよう、大号令をかけさせた。

 ドルガン国民の一斉な売りと、大量保有していた各商会の全額決済により、レンゴクの価値は瞬く間に暴落した。

 売りは売りを呼び、思考停止していた保有者たちはレンゴクの危険性をついに認識し、交換所に殺到。

 新通貨バブルは、遂に完全崩壊したのだった。


 ――――――――――


「――パ、パラミシア殿ぉっ!」


「ええいっ! うるさい!」


 応接室に入るなり、情けなく泣き叫び詰め寄って来たキンレイの頬をパラミシアが平手打ちする。

 キンレイは「ひぎっ」と小さな悲鳴を上げ倒れた。

 のっそりと上体を起こすと、冷ややかな目で見下ろすパラミシアを見上げた。


「パ、パラミシア殿、これはいったいどういうことですか!?」


「計画は失敗だ」


「そ、そんなぁ……私の宰相の座が……」


「それは貴様の……いや、各国の協力者たちの対応が遅すぎたせいだ」


「し、しかしっ、それはあまりにも情報の拡散が早かったからで……」


 キンレイは床に両手をついて、がっくりとうなだれる。

 そんな姿を見て、より失望したパラミシアだったが、怒りを孕んだ眼差しは、こことは違うどこかを睨んでいた。


「それは間違いない。そしてそれを意図的にやった者がいる」


「そ、そんなバカな……」


「気付けたのは最後の最後だったがな。ミズガル国家元首の声明発表後、あらゆる商会から一斉にレンゴクの売りが殺到した」


「し、しかしそれは当然の反応では?」


「普通ならな。だが、奴らはほとんど同じタイミングだった。まるで、意図的に暴落を引き起こし、バブルを崩そうとでもいうかのような統率のとれた行動だ」


「んなっ!? そんなことができる者なんて……」


 パラミシアはフードの下から蔑むような眼差しをキンレイへ向ける。

 なんという無能だろうか。対応能力がまるでない。

 暴落を止められないと初期段階で悟ったパラミシアは、誰が情報拡散をしているのか調査し始めていた。

 そしてすぐに突き止めたのだ。


「早く思考を切り替えろ愚図が。この情報拡散が意図的にされているのなら、その黒幕はバブル末期に莫大な利益を得たはずだ。ならばそれを押収してしまえばいい」


「な、なるほど。さすがはパラミシア殿!」


 キンレイは少し活気を取り戻し、ようやく立ち上がる。 

 サナトス家による世界の支配が失敗に終わったことは残念だが、ほくそ笑んでいる邪魔者から利益を横取りし、少しでも溜飲を下げようというのがパラミシアの最後の一手だった。


「して、その黒幕というのは、素性が判明しているのでしょうか?」


「ノベル・ゴルドーという男だ。このノートスにいる」


「ノベル? どこかで聞いたような……」


 キンレイは「はて?」と首を傾げる。

 しかし思い出せない。

 

「奴は今、莫大な利益をどこかに預けているはず。その一部がこのノートスにある可能性は高いだろう」


「わ、分かりました! 適当な容疑をかけ、金庫番からすぐに押収させます!」


 そう言ってキンレイは慌てて部屋を出て行く。

 パラミシアは腹立たしげに歯ぎしりした。

 自分たちサナトス家が、アスモデウス家やダンタリオン家をを差し置いて、世界を牛耳れると思っていた矢先にこれだ。

 ただ始末するだけでは気が済まない。

 彼女は、ノベルとその仲間に与える苦痛をじっくりと思案しながら、姿を消すのだった。


 結果、スルーズ投資商会の取引は、魔人サナトス家に大打撃を与えた。

 そう、ノベルの真の狙いは、魔人族に反撃の一撃を見舞うことだったのだ。

気に入って頂けましたら、ブックマークや評価をよろしくお願い致します。

みなさまの応援が創作活動の糧になりますのでm(__)m


また、完結済作品

『転生の設計士 ~科学と魔法が融合するとき、異世界の逆転劇が始まる~』


https://ncode.syosetu.com/n0778fw/


も、よろしくお願い致します。

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