闇で暗躍する一族
用語解説
・魔人族
↓
陰謀論などで時おり登場する謎の種族。
表の世界にはあまり顔を出さないとされ、莫大な財と高度な知能によって、国を裏から操ることもできるという。
また、エルフは光の魔術を扱えるように、魔人族は闇の魔術を扱えるという伝承も残っている。
主に語られる伝説的な家名は、『ダンタリオン家』と『アスモデウス家』。
キースは一度斜め上へ顔を向け目を瞑った後、ため息を吐いて答えた。
「そうだねぇ……『アスモデウス家』のことは聞いたことがあるかい?」
「アスモデウス? いや、聞いたことないな」
「それもそうか。多くは語られない、伝説的な存在だからな。アスモデウスというは、莫大な財を有する武器商人の一族。そして、その正体は『魔人族』だ」
最後のその単語にノベルは目を見開いた。
魔人族……その言葉は聞かなくなって久しい。
彼らは都市伝説的な存在で、ときおり陰謀論などに登場する謎の種族だ。
なんでも莫大な富によって、この世界を裏で牛耳っているのだとか。だが彼ら魔人族と会ったという者は聞いたことがないし、もしそういう輩がいても、相手にされない。
なによりも信じがたいのは、エルフ族が光の魔術を扱うように、魔人族は闇の魔術を扱うのだという。
表情を曇らせ反応に困っているノベルへ、キースは説明を続けた。
「信じられないのも無理はない。奴らの情報はほとんど闇に葬られている。だが少しだけ、エサを撒くように噂を広め彼らの存在を匂わせることで、たくさんの尾ひれがひき、今では恐ろしい存在として語り継がれている」
「まさか……今回の戦争に、魔人族が介入してきたとでも言うつもりか?」
「違う。介入したのは俺たちだ。最初から最後まで奴らの計画のうちさ」
「信じたくはないな……」
ノベルは額を押さえ、苦しそうに首を横へ振る。
だがそういう理由でもないと、今回の失敗が説明できないのも事実。
「おそらくだが、コロッサルに新興宗教を広めるよう仕向けたのも、国を戦争へと誘導したのも、アスモデウス家の仕業だろう。すべては武器を買わせて大儲けするための策略だ」
「そ、そんなこと……可能なのか?」
「奴らならできる。それが武器の市場を最初から独占されていた理由だ。だが奴らが恐ろしいのは、それでは終わらないからだ」
「まだなにか仕掛けが?」
ノベルは興味津々に身を乗り出す。完全に聞き入っていた。
想像を絶する魔人族の手腕に、感動すら覚えるほどだ。
作り話にしては出来過ぎている。
「コンゴウ州に攻め入ったコロッサルは、もう間もなくドルガンの援軍によって負けるだろう」
「ああ、それは間違いない」
ノベルは頷いた。
その情報はスルーズ商会も掴んでいた。
結局、コロッサルはコンゴウ州へ軍隊を派遣したものの、防衛軍の足止めによって市街地までは到達できず膠着状態に入り、ドルガンの他の州から増援が出動したようだ。
このままでは、コロッサルはなに一つ土地を占領できないまま終わる。
「そうなると、今度はドルガン側から賠償金を要求されるだろうな」
「そうだろうね。ドルガンの国家元首は、かなり気性の荒い竜人だって聞くから」
「けど、今のコロッサルにはそんなもんを払う余力なんてない。そこで国として、大資本から金を借りる必要がある」
「……まっ、まさか……」
ノベルはキースの言おうとしていることに気付き、驚愕に震えた。
これはとんでもない話だ。
都市伝説として聞いておくのが丁度良かったのかもしれない。
「そう、コロッサルに金を貸すのもアスモデウス家だ」
「なんて一族なんだ……」
とんでもない自作自演。
国に戦争を起こすよう扇動して武器を買わせ、負けて賠償金を要求されれば金を貸す。これで国は彼らに逆らえなくなり、国一つが操り人形と化す。
国家さえも手中に収めてしまう、恐ろしい商法。
これが裏から暗躍する闇の一族か。
こんな話を聞いた後では、戦争商売なんて恐ろしくて手が出せない。
たとえ遭遇する可能性は低くとも、商戦になってしまえば勝てる可能性はほぼないだろう。
「衝撃的な話の後で申し訳ないが、もう一つ報告がある」
キースは努めて明るい声で言い、肩をすくめた。
ノベルは頭の整理が追いついていなかったが耳を傾けた。
「――闇通貨の件だ」
「なにか分かったの?」
「これ、各国の闇市場に出回ってるらしいぞ」
「なんだって!?」
「しかも、調べた限りじゃぁ、魔人族が大元の可能性が高い」
「また魔人族か……」
ノベルは暗い表情で俯き頭を抱える。
魔人族の恐怖は先ほど植え付けられたばかりだ。
勘弁してほしいと肩を落とす。
しかし魔人族が絡んでいるとなると、ただの娯楽という話では済みそうにない。
ノベルは大きくゆっくり深呼吸すると顔を上げた。
「闇の通貨だなんてものを流通させて、いったいなにが目的なんだ?」
キースは顎に手を当て、真剣な表情で考え込む。
やがて、神妙な顔で告げた。
「世界中に広まっているってことは……通貨の統一でもするつもりじゃないのか?」
「バカな……」
こればかりはノベルも眉を盛大に歪めた。
ありえないと一蹴できないのがなによりも怖い。
通貨の統一、もしそんなことにでもなれば、もう見て見ぬふりはでないのだ。
ノベルの胸の奥には、恐怖とは別に怒りも同時に湧いてきた。
「金融の力で世界を支配するつもりか」
現在の基軸通貨はドルガンのリュ―ト。
そして各国にはそれぞれの通貨があり、リュートに対するレートや政策金利がある。それによって、国の経済活動を左右しているのだ。
もし、国によって管理されている通貨の座を、魔人の管理する通貨に奪われでもしたら、国家の権力は失墜し、治安の維持も期待できず、国民は生殺与奪を握られることになる。
ノベルが複雑な感情を抱いていると、キースは眉尻を落とし諦観の混じった声で呟いた。
「もしかすると、魔人は既に政治家に働きかけているのかもな――」
――ドクンッ!
そのとき、ノベルの心臓が跳ね上がる。
彼の脳裏には一瞬、まるで閃光のようによぎった光景があった。
それは以前、エデンの城内でみかけた怪しい人影。
「……そういうこと、だったのかっ……」
そのとき、ノベルはなにかに気付いたかのようにハッと顔を上げ、目を見開いた。
ようやく、求めていた真実に手が届くかもしれない。
ノベルの心は決まった。
キースはそんなノベルの心境の変化に気付かず、やれやれと首を横へ振る。
「闇の通貨が表に出回るのも時間の問題か。けどな、そんなこと知ってても俺たちにはなにもできない」
「……なに言ってるんだキース。僕たちは投資家だろ?」
ノベルは不敵な笑みを浮かべ、キースは目を丸くした。
今のノベルの心の奥には、別の感情が渦巻いている。
「ノベル、まさか……」
「こんな儲かりそうな案件、逃がすものか」
ノベルは力強く言い放ち、立ち上がった。
その瞳には強い意志。
魔人と政治家、真実へ至るための一筋の光が差したようだった。
プリステン家の一家暗殺の裏には、もしかすると――
「キース、追加出資の用意を頼む」
ノベルは背を向けて一方的に告げると、震える体を無理やり動かした。
恐怖ではない。
武者震いだ。
この一件が片付いたときこそ、復讐を果たすときだと、ノベルは心に誓ったのだった。
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また、完結済作品
『転生の設計士 ~科学と魔法が融合するとき、異世界の逆転劇が始まる~』
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