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リスクヘッジ

・地政学的リスク

国において政治や経済などの緊張感の高まりによる危険性のこと。

主に戦争や財政圧迫などによるものが多く、地政学的リスクの高まりによって、オリハルコやダークマターなどの資源の価格変動が大きくなる。


「ルインさん、所有券を」


 突然言われたルインはポカンとしていたが、ようやくノベルの真意に気付き、慌てて部下を呼び、数枚の所有券を持ってこさせた。

 それを見たマルベスが眉をしかめる。


「なんだそれは」


「オリハルコンの所有券です。マルベスさんと交渉した後に買い付けさせました」


「だから、なんだっつってんだろ!?」


「オリハルコンは、安全資産としての人気が高い。そしてこれは、主に地政学的リスクなどで基軸通貨の価値が下がると、リスク回避のために買われる傾向にあります」


「基軸通貨……まさかっ!?」


 その瞬間、マルベスの目が驚愕に開かれる。

 しかし後ろの部下たちはイマイチ理解できていないようで、首を傾げている。


「今の基軸通貨はリュート。リュートはドルガンの通貨です。つまり、ドルガンでなんらかの地政学的リスクが発生すれば、リュート通貨の価値は一時的に下落する」


「つまり、コロッサルがドルガンのコンゴウ州を狙うことで、リュートは下落し、オリハルコンの価値が上がる、ってか」


「その通りです」


 これがノベルの切り札。

 今の高騰したオリハルコンの価格を考えると、マルベス商会に投資する額の五割以上の利益がある。リスクヘッジとしては十分な効果だ。

 マルベスは怒りとも笑いとも判断のつかない、複雑な表情を浮かべた。


「てめぇ、まさかこの結末を予想していたってのか……」


「そんなことはありません。ですが商売にリスクはつきもの。それならヘッジをかけておくのも、商人のとるべき戦略です」


「ちっ」


「我々は利益を生むという点においては、大胆な戦略をとれるマルベス武装商会には到底及びません。しかし、資産を守るという点においては、スルーズ投資商会のほうが一枚上手だということです」


「てんめぇ……」


 マルベスは忌々しげに低く唸るが、先ほどまでのように怒鳴り散らしはしない。

 明らかに形勢が逆転しつつあった。

 ノベルも緊迫感で気が狂いそうだった。

 しかしなんとか勇気を振り絞り、力強く言い放つ。


「今度こそスルーズ投資商会をオーナーとして認め、こちらの意見に耳を傾けるのであれば、このオリハルコン所有券を追加の出資として譲渡することをお約束します」


 しばらくノベルとマルベスの睨み合いが続く。

 場の空気が極限まで張り詰め、永遠にも思える静寂が続いた。

 やがて、先に折れたのはマルベスだった。


「降参だ――」



 翌日、ノベルは一人でキースの家を訪れた。

 今回の結果の報告と言うべきことがあったからだ。

 いつもの書斎でノベルの報告を聞いた後、キースはうんうんと満足そうに頷く。


「――へぇ、なんだかんだで上手くやったわけか」


「上手くいったとは言いづらいけどね」


「戦争商売に手を出して、この結果なら悪くないさ」


 うわの空にも見える反応を示したキースは、どこか遠くを見つめていた。

 意を決したノベルは、立ち上がり深く頭を下げる。


「本当に申し訳ない!」


「ん? いきなりどうした?」


「君は最初から戦争商売に反対していた。それを押し切ってまで進めたのは僕だ。そのせいでスルーズ商会は少なくない被害を出してしまった」


「別に謝ることじゃないさ。人にはそれぞれのやり方がある、ただそれだけのことだ。最終的に道を譲ったのは俺だしな」


 そう言ってキースは問題ないというように頷いた。

 ノベルは内心で安堵し、そしてずっとくすぶっていた疑問をぶつける。


「けどキース、どうして君は戦争商売を止めようとしたんだ? 最初は、戦争に対する嫌悪感からだと思っていた。でも、そうじゃないんだろ?」


 それがノベルの抱いた疑問だ。

 戦争に対して良い印象を抱かないのは当たり前のこと。

 だから、キースが戦争の商売に加担するのを止めるのは当然だと思っていた。

 しかし彼は、今回の商売が失敗するのを予想していたように落ち着いている。結果を聞いても、さも当然という反応だったからこそ気がかりだ。

気に入って頂けましたら、ブックマークや評価をよろしくお願い致します。

みなさまの応援が創作活動の糧になりますのでm(__)m


また、完結済作品

『転生の設計士 ~科学と魔法が融合するとき、異世界の逆転劇が始まる~』


https://ncode.syosetu.com/n0778fw/


も、よろしくお願い致します。


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