マルベスの手腕
二階の執務室の前に辿り着くと、細身の男がノックし、室内から「入れ」とドスの利いた力強い声がした。
「失礼致します」
案内係に続き、ルインからぞろぞろと部屋に入ると、奥のソファに深々と座っている男がいた。その左横には険しい表情の大男が立っており、頭に生えている二本の角を見るに、鬼人のようだ。
案内係の細身の男もその横に並ぶ。
室内は、さすが商会長の部屋といったところか、見ただけで業物と分かるような刀が横に並べられ、壁には重そうな斧が立てかけられている。
ノベルたちは、部屋の雰囲気と男たちが放つ覇気に圧倒されるも、彼らの前に立つ。
「お初にお目にかかります。スルーズ投資商会の会長を務めております、ルイン・スルーズと申します。後ろの者たちはその関係者です」
ルインが丁寧に自己紹介し、頭を下げる。
すると、ソファに座っていた男が体勢も変えずぞんざいな態度で声を発す。
「マルベスだ。にしても、投資商会だぁ? 俺に金でも貸してぇのかよ?」
マルベスはバカにするように薄ら笑いを浮かべる。
商会の長を相手にしているというのに、大した度胸だ。
マルベスはファー付きの灰色のコートに、下は皮製で傷だらけの白いズボンを履いており、スマートな見た目をしているが、その内側に鍛え抜かれた筋肉が鳴りを潜めていることは、想像に難くない。
黒の短髪で、顔には大きな切り傷があり、ギザギザな歯を見せ豪快に頬を吊り上げるさまは相当な迫力がある。なにより、彼の頭に生えている角がその実力を保証していた。
かつて、ノートスのトップクラスハンターに輝いたというのは、だてではないらしい。
ルインはその迫力に飲まれそうになるが、なんとか話を続ける。
「え、ええ。今回はマルベスさんにとっても、有益な話になると思います」
ルインはそう言ってアルビスに目配せし、マルベスの目の前のテーブルに一枚の書簡を置かせる。契約書だ。
マルベスはそれを見て、眉をしかめた。
「あぁ?」
ルインは慎重に説明を始めた。
スルーズ投資商会は、元々は情報屋を営んでおり、もしかすると近々戦争が起こるかもしれないという情報を掴んだ。これをマルベス武装商会へ提供し、その武器調達に出資する代わりに、先行者利益の一部を配当として還元してもらいたいと言った。
もちろん詳細な内容については、この交渉が成立してからでないと渡せないと付け加えて。
マルベスは最後まで聞いた後、不機嫌そうに眉を寄せ、テーブルを指で叩いた。
「そういうことかい。事情は分かった。けどな、うちのオーナーになろうってのが気に入らねぇ」
予想していた反応だった。
おそらく彼は、開業当時から潤沢な資金を持っていたことで、投資家や金庫番の金を借りずに商売をしてきた。言わばオーナー経営者だ。誰かの指図を受けずに経営してきた実績がある分、プライドの高さにも頷ける。
それが実力も分からない相手に、主導権を握られるのが屈辱なのだろう。
さらに、彼の横に控えていた細身の男が、目を細め口を挟んでくる。
「マルベス会長のおっしゃる通りです。情報屋なら情報屋らしく、それを売るのが筋でしょう? 我が商会を操ろうなどと、分不相応なことを考えてはいけない」
「黙れセージ。お前の発言なんて、許しちゃいねぇ」
「……失礼しました」
セージと呼ばれた男は、マルベスにいさめられ、素直に謝り頭を下げた。
マルベスは目を光らせ、鋭い眼差しをルインへ向ける。
「まぁ、俺のやり方に口を出すのを許しはしないが、その耳寄りな情報とやらをまずは話せ。内容次第では、妥協するかもしれねぇからな」
ルインは眉を寄せ、すぐには答えない。
これでは平行線だ。
こちらは相手が契約した後でないと情報を言えず、相手はこちらの情報の内容によって契約の有無を判断すると言う。
この商談はどちらかが折れるまで終わらない。そう、どちらかが一方的に損をする可能性があるのだ。
ルインは額に冷汗を浮かべ険しい表情で思考を巡らせ、マルベスは涼しげな表情で笑みを浮かべている。
やはり駆け引きが上手い。かなりの手練れだ。
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『転生の設計士 ~科学と魔法が融合するとき、異世界の逆転劇が始まる~』
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