キース・シルヴァリオン
「――あれ? あんたは……」
いつの間にかノベルの目の前にいたのは、以前木箱の運搬中に声をかけてきた若い男だった。以前同様、黒いブラウスに灰色のケープを羽織って、頭には薄紫のベレー帽をかぶっている。
ノベルは突然の再会に表情が凍りつく。
アリサは、自分が取り乱していたところを見知らぬ人に見られたのが恥ずかしいのか、真っ赤になってフードを被り顔を隠した。
以前の恐怖を思い出したノベルは、頬を引きつらせた。
「……僕になにか?」
「そんなに警戒しないでくれ。この間は悪かったよ。俺は『キース・シルヴァリオン』っていうんだ。あんたたちは?」
そう言って男は気さく自己紹介してきた。
先日の隙のない雰囲気とは大違いだ。
ノベルは戸惑うが敵意は感じられないので、とりあえず名乗ることにした。
「……僕はノベル・ゴルドーです。こっちは、連れのアリサ」
「よろしく、ノベル、アリサ。どうだい? 酒でも飲みながら話さないか?」
「え?」
キースはあまりにも馴れ馴れしく、怪しまずにはいられなかった。
しかし彼の素性に少なからず興味があるので、ノベルは悩む。
アリサへ目を向けると、彼女は無言で頷いた。
「……分かりました」
「ありがたい」
意を決して承諾すると、キースに案内され近くの酒場へ入る。
その酒場は、少し落ち着いた雰囲気だった。
シグムントとよく行く酒場とは違い、貴族や身なりの良い商人などが優雅にぶどう酒や肉料理を楽しんでいる。
こんな場所もあるのかと、ノベルは感嘆の声を漏らした。
三人は壁際に座ると、適当に料理を頼んだ。
「そっちのぺっぴんさんは、ノベルの奥さんか?」
「「違います!!」」
ノベルとアリサの声が重なる。
二人は顔を見合わせると、赤くなり恥ずかしそうに俯いた。
それを見たキースは目を丸くし、おかしそうに笑う。
「そうかい、勘ぐって悪かったよ」
「アリサは……まぁ、僕の護衛みたいなものです」
「ふ~ん、そういうことか」
そのとき、キースの笑みが消えた。
「あの夜、君を呼び止めたときに感じた視線は、彼女だったわけだ。やはり君ら、ただ者じゃないねぇ」
ノベルとアリサは言葉を失い、警戒心を強める。
「あなたはいったい……」
「まったく、先を越されたよ」
「え?」
「あの血酒、俺も狙ってたのさ。そしたらまさか、あんたが狩人だったとは。自ら相手の懐に飛び込むなんて、大した度胸だ」
キースは先ほどまでの雰囲気が嘘のようにケラケラと笑う。
どうやらすべてお見通しのようだ。
「それじゃあ、あのとき声をかけてきたのは……」
「もちろん、すべて見抜いてたからさ。カルキスを脅して金を引き出してから騎士に突き出そうと思ってたが、欲をかきすぎて後手に回っちまったね」
危なかった。
もし突入の日が遅れていたら、ノベルがバグヌスの共犯者として捕まるところだった。
やはり、キースというこの男、ただ者ではない。
「キースさん、あなたはいったい……」
「俺はドルガンから来た商人さ。それと、俺には丁寧な言葉は不要だ。さん付けもな」
「分かったよ……キース。それにしても、他国の商人が闇商売のことを突き止めるなんて、どんな情報網を持ってるんだ?」
「おっと、それは言えないね。謎の商人とでも思っておいてくれ」
キースは軽い調子でそう言うと、運ばれてきた食事に手をつける。
やはり、油断ならない男だ。
「もし今度、面白そうな話があれば、俺にも一枚噛ませてくれよ。金が足りないなら、工面するからさ」
商売は化かし合い。
バグヌスはそう言っていたが、もしキースと戦うことになったら、勝てる気がしない。
そんな不思議な印象を抱いた。
結局、夕食は二人ともキースに奢られてしまい、いつの間にか恩を売られてしまっていたのだった。
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また、完結済作品
『転生の設計士 ~科学と魔法が融合するとき、異世界の逆転劇が始まる~』
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