利確
「――バグヌス為替商、違法商売の容疑によって拘束させてもらう」
現れたのは、四人の獣人騎士とフードで顔を隠した一人の人間だった。
ポカンと口を開け、理解の追いついていないバグヌスの言葉を待たず、騎士たちは荒々しく店内へ踏み込む。
「ま、待ってください! これはどういうことですか!?」
「言った通りだ。違法の商売を取り締まる」
「そんなっ、なにか証拠があるんですか!?」
「それを今から探すんだ」
「バ、バカげてる! 証拠もないのに店に押し入るなんて!」
暴れ出そうとするバグヌスとバロックは、二人の騎士によって押さえつけられ、素早く手を縛られた。
そしてリーダー格の獣人がまっすぐに店の奥に歩いていき、置いてあった木箱を開けた。
「……血酒だな」
「なにもやましいことのない、バッカニアから取り寄せた正規品です!」
「信じられんな。ちょうど、ドルガンから血酒商が来ているから、鑑定してもらうか」
「んな!? そ、それはバッカニアから運んだと、ノベル・ゴルドーという男が言っていました。彼がそれをここに運んで取引を持ち掛けてきたのです! もしそれが正規品じゃなかったとしても、私たちはなにも知りません!」
バグヌスは汚らしく唾を飛ばしながら必死に叫ぶ。
あくまでノベルに罪を着せようという魂胆だ。
この期に及んでまだどうにかなると思っているのが、なんともオークらしい。
「――それはこっちのセリフですよ」
飄々と言ったのはそれまで動かず、成り行きを見守っていた謎の人物。彼がフードを外し正体をあらわにする。その正体はノベルだった。
ノベルのその勝気な表情を見たバグヌスはすべてを悟った。
「小僧! はかったなぁぁぁっ!」
「商売は化かし合い、でしょう? シグムントさん、その木箱は今日、バグヌスさんの指示で闇市場から運んだものです。内容については一切教えられていません」
「そうか、分かった。おいっ、こいつらと血酒を駐屯所へ運べ!」
シグムントは騎士たちに指示し、バグヌスとバロック、そして木箱を店の外へと運ばせた。
騒々しかった店内に静寂が訪れ、残ったシグムントとノベルは計画が成功したことに安堵する。
「良かったのか? あんたの雇い主だろ?」
「いいんですよ。僕が命を賭けたのは、『闇商売の成功』にではなく、『闇商売を暴くこと』にですから。どんなリターンが得られるか楽しみです」
「はははっ、おもしろい奴だな」
シグムントは満足げに笑う。
ノベルは一週間前、シグムントに血酒密造の取引があることを話した。彼はどうにかして捕まえたいと言い、ノベルの提案通り、ドルガンのつてを辿って血酒商をノートスへ招くことに成功する。
当初の計画では、バロックがカルキス邸に血酒を運び、バロックが屋敷を出た後で捕え、すべてを吐かせた後でカルキス邸に踏み入るつもりだった。しかしバロックが木箱を持ったまま出て来たために予定を変更したのだ。
ちなみに、シグムントが集めた獣人の騎士たちは、彼と同じく差別に腹を据えかねていた騎士たちで、お高くとまった騎士たちを出し抜き手柄を立てられると聞いて駆け付けたという。
その後、駐屯所に運ばれた血酒はドルガンの血酒商が確認し、希少種の血が薄められた違法なものであると判明。
バグヌスとバロックは罪を認め、カルキスが関わっていたことをすぐに白状する。
しかし翌日、騎士たちがカルキス邸に押し入ると、カルキスはなにものかに胸をナイフで貫かれ暗殺されていた。
「――釈然としない結果だな」
シグムントが不満げに呟く。
ノベルは、酒場の隅でシグムントからその後の報告を受けていた。
「そうですね。カルキスはしょせん、トカゲの尻尾でしかなかったということですか……」
「ああ。バグヌスたちみたいな下っ端はなにも知らされていないらしい。俺たちも調査は続けているが、黒幕の尻尾がまったく掴めねぇ」
「残念ですけど仕方ないですね。僕の見立てが甘かった」
「すまないな。報奨金も全然もらえなくて」
ノベルが浮かない表情で言うと、シグムントは謝ってきた。少し垂れた犬耳が可愛い。
元々のシグムントの話では、犯罪者の摘発などの手柄を立てた騎士には、報奨金が支払われるはずだった。それも、血酒の密造と貴族の関与という大事件であれば額も弾むはずだと。
それでノベルは、報酬を半々に分けてほしいと約束したのだ。
しかしもらえたのはほんのわずか。
シグムントはその分、昇級できたようなので良しとする。
「仕方ありませんよ。それだけ上が腐っているということです。シグムントさんが昇級できたので僕は満足ですよ」
「あんた、なんていいヤツなんだ」
シグムントは感激に身を震わせ、豪快に火酒を飲み干した。
そのとき、ノベルの目が光る。
彼は投資家。リターンを回収するまで、そう簡単に諦める男ではない。
シグムントがグラスを置き、酔いで頬が赤くなっていることを確認すると、ノベルは微笑を顔に貼りつけて言った。
「ところでシグムントさん、報酬の代わりと言ってはなんですが――」
「んぁ?」
「あなたの信用、貸してくれませんか?」
――翌日、ノベルは騎士であるシグムントの信用を担保に、嫌がる金庫番から無理やり融資金を引き出したのだった。
大金とまでは言えなかったが、潰れかけている商会一つに投資するには十分だ。
ここからノベルの本当の戦いが始まる――
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また、完結済作品
『転生の設計士 ~科学と魔法が融合するとき、異世界の逆転劇が始まる~』
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