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人間をやめよう(2)



シガーさんの体は、目的に最適な形でエーテルから創られている。

だから人間じゃない。

性器もなく、排泄も行わない。体の構成成分や仕組みから違っていて、魂魄やアストラルボディに負担がかからないから睡眠もいらないそうだ。


エーテルとは何なんだろう?


すごく濃いオレンジジュースがあるとする。

ぎゅうっと固めて、オレンジ飴を作る。たくさんたくさん作る。

濃いオレンジジュースの海に、オレンジ飴がたくさん入ったものができる。

飴を砕いたり溶かしても、増やしても、濃いオレンジジュースは濃いオレンジジュース。

だって元々濃いオレンジジュースだから……。


そんなものだ……多分。


シガーさんはもっと詳しく教えてくれた。

俺の情けない理解力で簡潔に言うならば、『エネルギー』ということだと思う。


エーテルから粒子ができて、それが素粒子を作って、原子になって、物質になって。

でも全部エーテルだ。

テーブルも、空気も、体も、全部つぶつぶ原子で、原子の隙間にはエーテルが満ちてる。

物を動かしても燃やしても、原子を壊しても作っても、エネルギーは一定。

それが『エネルギー保存の法則』だ。


一見、消費されて見えるエネルギーは、かたちを変えているだけで、世界全体では何も消費されてはいない。

原子が持っていたり、動力になったり、熱になったりするのに、失われることはなく、存在をとらえることもできない。


それは、もともと全部エーテルだから。


素粒子くらい小さくなると、人間の思考に影響されたりする。

在ると思って観測すれば在り、無いと思って観測すれば無い。

エーテルは揺らいでいるから、エーテルから創られるものも波の性質、波動があって干渉し合う。

世界は、エーテルが見る夢にすぎない。

シガーさんはそんな風に教えてくれた。


シガーさんは、俺という精神体が望んだことで生まれた存在なんだそうだ。

だから、俺が理想とするスーツの着こなしをしていて、俺が理想とするフサフサの頭髪がある。

俺が理想とする礼儀正しさで、俺の疑問に答えてくれる知識を持っている。


そんな存在らしい。


エーテルは全ての源。

世界はエーテルで出来ていて、要らなくなったものは宇宙に廃棄され、消滅してまた純粋なエーテルとして世界に循環される。

宇宙は袋の中の空間、もちろんその袋も中身もエーテルで出来ている。

だけど廃棄物を消滅させる目的のものだから、あらゆるものがその中で長く存在を保ってはいられない。

いつか全てはエーテルに分解されていく。

宇宙では、エントロピーは拡大していくのだ。

全ては汚れ、壊れ、老いていく。

地球も、地球上にあったものも、もちろんそこで暮らしていた俺も、全部、世界の廃棄物だ。

人間はまるで、ごみ処理場の燃えカスにこびり付いて繁殖した虫や微生物のようだ。


俺は、シガーさんから説明を受けた時そう思ってしまった。

それを知れた俺は幸運なのだろうか?

そこから抜け出せた俺は幸せなのだろうか?


幸せとは、その時感じている一時の感情に過ぎない。

不幸とは、その時感じている一時の感情に過ぎない。


(塞翁が馬……だっけ?)


結局のところ、俺はどこにいても……。

そこが俺のいる場所で、それが俺の世界で、それが俺の人生だ。


俺はいま、確かにここに存在している。

感じ、思い、生きている。

結局周りにある、見えるもの、触れるものに一喜一憂し、悩んでは、好きなものを探して、そうやって生きていくしかないんだ……。

俺はシガーさんと話しながら、少しずつ、ここでやっていく決心を固め始めていった。


エーテルは全ての源だ。

それは地球上の元素だけに限ったことじゃない。

光子、暗子、霊子など、もっともっとたくさんのものが創られるらしい。


霊子は、結合すると魂となっていく。

魂は、そのままではまたエーテルに戻ったり溶け込んだりしてしまうけれど、その存在を保っていこうとするものもある。

その波動は魂の周囲に保護膜を造り出し、『魂魄』となる。

魂魄は、さらに周囲のエーテルに作用してアストラルボディを創り出していく。

アストラルボディは、物理的な生体のように特定の形態はほとんどとらない。が、物質的肉体を持った経験があると、物質的肉体を失った後もアストラルボディに形態を継続することもあるみたいだ。


そして、時を経て自我を成熟させ、知性を持った魂魄が、アストラルボディの状態で存在している者達のことを『精神体』と呼んでいる。

精神体は、エーテルに精神波動を感応させて、エーテルから物質を生み出すことができる。

世界では、エントロピーが縮小していくのだ。より濃く、より純粋に、より美しく。


長い時を生きた精神体たちは、最終的に特定の形をした自分達の巣を形成する。

それが世界に広がる円柱――コロンワールドだ。コロンの内部、そのコロンワールドでは様々な世界が、エーテルを使って自由に創造されている。

それぞれの精神体の個性が現れ、多様性を知ることができる。


シガーさんは、ひとつひとつ、世界のことを教えてくれる。

俺はシガーさんにひとつ質問をした。


「なんで六角柱じゃないんですか? 自然の法則というか……蜂の巣とか植物の茎なんかはハニカム構造が基本って聞いたことがあるんですけど……?」


「六角では独立した辺が6つ存在いたします。角が始点となり終点となってしまいます。それではエネルギー効率が悪くなります。円は、始点もなく終点もない、全てでひとつの存在となります。では球はどうなのかと言いますと、球は閉鎖空間となってしまいます。宇宙や地球、太陽もそうですね。エーテルを新たに吸収して創造できる構造ではないのです。コロンでは、円柱の面にエーテルが循環していて常に創造が行われております」


ということらしい。

円柱の面から吸収されたエーテルは、俺がベランダから見た滝だったり、大気だったり、重力だったり、光だったり、様々なものに変換されてコロンワールドを創っている。

精神体が想像できるあらゆるものは、創造できるらしい。

不要となったものは、もちろんワールド内で宇宙に廃棄され、また純粋なエーテルに戻されて循環へと戻っていく。






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