人間をやめよう(5)
「初めまして、マスター」
(喋った……)
最近は何でも喋る世の中だ。冷蔵庫も洗濯機も電子レンジも炊飯器もカーナビも自動販売機も。
だから全然驚かないよ。
あれでしょ、『ヘイ!オッケー!』て言ったら電気付けてくれたり音楽掛けてくれたり天気予報教えてくれたりするんでしょ?
知ってる。
俺のパソコンはいつの間に最新型になったのだろう。
「私はマスターの案内人を創造する過程で生まれたシステムです。マスターがより簡単に、明確に、自由に創造を行うお手伝いができます。何をお望みですか?」
2,30代の爽やかな男性の声で尋ねてくる彼は、ダンジョンコアの意志なのだろうか?
振り返るとシガーさんは満足そうにニコニコしているだけだ。
箱の中の変なおじさん。
後ろに佇む変なおじさん。
その間で沈黙する変なおじさん。
俺の部屋は、着々と変なおじさんの住処になっていたらしい。
「えっと……このダンジョンが接してるコロンに迷惑が掛からないようにしたいんだけど……」
どうしてシガーさんには敬語で話せるのに、パソコンには敬語を使うことに抵抗を感じてしまうのだろう?声が若い感じだから?物だから?
なんか自分の傲慢さをちょっと感じてしまった……。
「マスターの願望をより明確にしていきましょう。候補を提示します。選択してください」
モニターに、5つの選択肢が提示された。
・隣接コロン所有者との友好関係を構築する
・隣接コロンへのエーテル流入量阻害率を改善する
・ダンジョンの移動
・上記以外の要望
・キャンセル
ふたつめの『隣接コロンへのエーテル流入量阻害率を改善する』を選んでみた。
「隣接するコロンへのエーテル流入量阻害率を改善するためのプランを作成しました。4ステップで完了します。このプランを実行しますか?」
STEP1 エーテル阻害率 ___%
STEP2 創造廃棄両用活動体(最適型) ___体
STEP3 その他条件追加
STEP4 完了時間確認 ___時間
開始
阻害率はわかるけど、活動体って何だろう?
「この活動体というのは?」
別ウインドウが立ち上がり、そこに3D立体画像で仕組みなどが示された設計図のようなものが表示された。
なんか、カニというか……クモというか……足が沢山あって、色んな機能が付いていそうなやつだ。
これを創って作業させるのかな?
「廃棄用宇宙を内蔵し、現在のダンジョン構造の破壊と改善再生に最も適した活動体を創造します。活動体の数は完了時間に反映されます」
「その他の条件っていうのは?」
「デザイン、構造、残したい部分などを細かく指定できます。条件がない場合、こちらで最適と判断された形で創造は行われます」
「俺が念じたり……作業したりしなくても、そちらで全部いい感じにしてくれるってこと?」
「はい」
(便利……。お手軽に破壊と再生って……いったい俺はどこの神様になってしまったのだろう……)
そんなことを思いつつ、画面内に数値を打ち込んでみた。
阻害率は下げられる最低値が23.7%までだったので、とりあえず40%くらいに設定して、活動体は10体に設定してみる。
完了時間は244時間。約2週間?
活動体を30体にしても、時間が3分の1になるわけではないようで100時間に変化した。
さらに活動体を増やしてみたりしたが、どうやら最低でも3日はかかるみたいだ。
50体72時間で完了。
とりあえずやってみて……、だめだったらまた考えよう。
すると、後ろからシガーさんが声を掛けてきた。
「マスターの肉体も改変を行ってみてはどうでしょうか?現在の肉体は地球での体を再現していますので、より望まれる体に変更することが可能です。今後の活動も行いやすくなるのではないでしょうか?」
俺はシガーさんを見る。相変わらず素敵紳士だ。
でも……俺は悪魔に騙されているのじゃないだろうか?なんかそう思ってしまった。
「もしコロンワールドへ訪問することをお考えなら、地球以外の環境に適応するため現在のカーボン系生体よりもシリコン系生体の方がダメージも老化も防ぐことができます。また、マスターの新しい発想から地球では存在し得なかったまったく別の性質を持った物質で生体を構築することも可能です」
「物質的肉体の改変をお望みですか?プランを提示します。選択してください」
・現在の肉体をベースに改善を行う
・0から要望を組み込んだ肉体を構築する
・案内人と同様の肉体へ交換する
・物質的肉体を放棄する
・上記以外のプラン
・キャンセル
どうしよう……ふたりの変なおじさんがめっちゃやる気だ……。
でも……もしかして髪をフサフサにしたり、足を長くしたりできるのかな?
視力を良くしたり……花粉症治したりとか……?
あ、若返ったりとか……お、おっぱいをつけて揉んでみたり……とか……。
俺はいったいどこに向かっていくのだろうか……。
ここまでお読みくださりありがとうございます。
書き始めた時、10話を超えて連載できると思っていなかったので、内容はともかくここまで書けたことに感動しています。
読んでくださる方がいる、それがなにより励みになりました。
ブックマークをしてくださった方々、本当にありがとうございます。
しかし、すみません。力尽きました……。
ここまで書いて、自分の力のなさを痛感しております。
この物語は、一旦ここで終わりとさせてください。
本当にすみません。
いつかまた続きを書きたくなるかもしれませんが、しばらくは、また一読者に戻って他の作家さんの作品を楽しんでいきたいと思っております。
読んでくださった方々、本当に感謝しております。ありがとうございました。