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プロローグ




「ここが……ごみ処理場……」


「そうだ。あちこちに燃えている球があるだろう?あれが周囲のものを燃やし尽くし、最後には超重力場を伴って全てを飲み込む。ものも、光も、魂も…。全てを焼失させるシステムだ」


「こわっ」


「不用意に近づくなよ?まったく……何で俺達がこんな……。本当に神に見放された気分だ。早く終わらせて出るぞ」


「はい!でも……、本当にいいんですか?廃棄されたものを取り出すなんて……」


「仕方ないだろう。それが、上のお望みだ」



   ♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢



俺は春日与太郎、気付けばもう43歳だ。

そして、日本で生まれた日本人。そういうことになっている。

うん、『そういうことになっている』だなんて言い方をすると、まるで真実は違っているように聞こえるかもしれないが、事実43歳で日本人だ。

ただ、俺は、ずっと考えてきたことがある。


ここはいったい何処なんだ


それは誰にも解らない、答えられない。

他の場所を知らないから。


誰かが発見した。ここは球の上らしい。

誰かが発見した。燃える球の周りを回っているらしい。

ここがどこなのか誰も知らない。

でもそういうもんだと受け入れて生きていくしかない。



   ♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢



「――あ!あれ見てください!あそこの青い球!」


「いたか。廃棄された悍ましい魂たち……。しぶとく存在しているな」


「有機体に取り付いてあんなに表面に増殖してる……。うわっきもっ」


「横の火球は……まだしばらく燃え尽きそうにないな。大丈夫だろう。選んでる暇はない。適当にごっそり採ってくぞ」


「危ないですよ!少しにしましょうよ!廃棄空間であんな増殖してる奴らなんですよ!?」


「記憶領域はすべて消去されてるらしいが…そうだな、性質は廃棄に値するままかもしれない。なら、あの端の際のところを少しだけにしよう」



   ♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢



さっき言ったように、俺は春日与太郎で、43歳独身の男で、普通の会社員だ。

ここは地球の上で、日本という国で、マンションの部屋だ。

それは解ってる、解ってるんだ。


でも……、俺はいったい誰なんだ


それは誰にも解らない、誰も答えられない。

みんな、気付いたらここにいて、気付いたら人間だったのだから。



『春日与太郎』という名前はこの体に誰かが付けた名前だ。

『地球』や『日本』というのも、誰かが付けた名前だ。

この世界に存在するものには、だいたい名前が付けられている。

そしてほとんどの人々が、名前がつくことで納得してしまう。

名前を付ける前、それは何だったのかといえば、もちろん同じものだっただろう。

けれども、名前を付けたからといって『それが存在する理由にはならない』ということだ。


誰かが発見した。

この世界は、ほとんどが何もない闇らしい。

誰かが発見した。

何もないのに、火球は無数にあるらしい。


なぜ闇の中に火の球があるのか、誰も知らない。

なぜ闇の中の球の上にいるのか、誰も知らない。

誰に聞いても、だいたいは同じ答えだ。


「太陽だろ?恒星なんだから燃えてるの当たり前じゃん。太陽や地球がまわってるから俺達人間は生きてるんだぜ、まわってなきゃ困るっつーのっ。お前そんなことも知らないのか?」


いや知ってるわっ!知ってるからこそ解らないんじゃないか。

彼らにとって、闇の中、火球が燃える世界は『当たり前』のことらしい。



俺には解らない。これが世界だと思えない。

当たり前のことを、おかしいと感じてしまう俺がおかしいのだろうか。


服、住宅、車、ビル、コンクリート、アスファルト、どこを見回しても人間が加工したものしかない。

それは、人間が作り出した人間のための箱庭の中にある生活だ。

その中だけで生まれて死んでいくなら、存在の理由なんて要らないのかもしれないな。


だけどさ、『ここがどこなのか誰も知らない』だろ。

知らないことを忘れて生きてるんじゃないか。


手足は自由に動くし、五感で色んなことを知覚することもできる。

でも自分の体について、知っていることは少ない。

そして、ほとんどを自由にもできない。

体が自分自身なら、とっくにイケメンにしてる。


爪や髪は勝手に伸びるし、代謝も細胞分裂も自分の知らないところで行われる。

細胞ひとつひとつを意識など出来ない。

細胞内の核小体でRNAが転写されたり、ゴルジ体で糖タンパクが作られたりすることを誰も自覚も知覚もできはしない。


なぜなら、それは『自分ではない別の何か』だからだ。


心臓は自分とは関係なく鼓動を打つ。

ホルモンは勝手に分泌され方向性を決める。

空腹も排泄も性欲も睡眠も、自分の範疇じゃない。

体は生きている。生きているから、自分じゃないと解る。


俺は何なんだ……


肉体を使っているけど、どこを切っても自分などいない……。

管理や扱いが難しいアバターのようなものだろうか。

つまり言いたいのは……、


俺は誰なんだ?


ここは何処なんだ?


必要なことなのか?いや、必要なはずはない。

俺が春日与太郎をやらないからといって、不都合などなにもない。


気付いた時には、地球という星の上で人間ゲームをやっていた。

そのうちゲームオーバーで死ぬだろう。

意味のないゲームだ。

そして俺は、意味のなさに意味を見出したかったんだ……。


人間の男として、人間の女をそれなりに抱いたけれど、いまだ独身だ。

人間の繁殖目的で存在してるわけじゃないんだ。

そんなことに時間を使うくらいなら、ゆっくり風呂に入って、ゆっくり眠りたい。


頑張って人間をやってはいる。

けれど……、もう疲れたんだ……。

安い中古マンションを購入して、独りで暮らしている。

先月、車も買い替えたばかりだ。

でも、それに何の意味がある?

ただ疲れて、擦り切れて、死ぬ準備まで面倒な人生に何の意味がある?


誰か教えてくれ!


金が要るから仕方なく働いている。

生きなきゃいけないから暮らしている。


ただそれだけだ。


目的は何もなく、日々、ここにいる理由を探しながらずっと生きているんだ。









お読みくださりありがとうございます。

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